23. 指名依頼
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開いた組合の扉の向こうは、いつも通り朝の賑わいを見せている。
中に入った僕たちは、サシャちゃんたちを探して待合スペースに向かう。いくつかの人だまりを抜けると、テーブルやベンチが置いてあるスペースが目に留まる。何人も冒険者たちがたむろしているけれど、その中には目的の二人の姿もあった。
向こうも気づいて、アトラ君が手を振ってくれる。
「おはようございます!」
「おはよう、アトラ君、サシャちゃん」
近づきながら挨拶を返す。僕は元気いっぱいのアトラ君に苦笑した。一方で、声を掛けたサシャちゃんはちらりと僕の目を見て、そっけなく頭を下げる。
相変わらずかあ。まあ、こっちもおなじようなものだけれど……。
僕はつまらなそうに明後日の方向を眺めるフルルを見た。会った当初はサシャちゃんに思うことがありそうな態度だったけれど、最近は関心をなくしたかのようにこんな感じだ。せっかく同じパーティの一員なのだから、もう少しコミュニケーションを取ったらいいのに。
あんまりうるさく言っても良くないだろうから、それとなく僕が仲を取り持とう。
僕はアトラ君とサシャちゃんに声をかけた。
「待たせちゃってごめん。それじゃあさっそくだけど依頼の確認にいこっか」
「はい!」
隣にフルル、後ろに元気いっぱいなアトラ君とサシャちゃんを連れ、掲示板のもとへ向かう。
この道も慣れたものだ。足を動かしながら、軽く周囲を見渡した。ゴブリンロードを倒してからも何度か依頼は受けたから、もうすっかりこのギルドにも馴染んできた気がする。ときおり目が合った冒険者たちから、挨拶されるようにもなった。
初め、もとのパーティを抜けた時は先行きが不安だったけれど、今はもうまた冒険者としてやっていけるめどが立ってきた。彼女たちとの出来事を、過去のことにできそうだったのだ。……けれどなぜか、この街にみんな集まってきてしまった。
僕は一つため息を吐いて、気持ちを切り替える。足を止め、集まる冒険者たちの間から掲示板をうかがった。
「いい依頼あるかな。みんなはどんな依頼を受けたい?」
僕の問いかけに、アトラ君が声を上げた。
「やっぱり割のいい依頼がいいです! 多少危険があってもお金がもらえるなら……!」
「だめです。アトラは前もそんなこと言って死にかけてるんだから」
「あ、あれはほら、セージ先輩たちとパーティを組む前だから! 今なら大丈夫だよ、姉さん!」
「パーティメンバー同士とはいえ、おんぶにだっこでどうするんですか。だめなものはだめ」
「えー……」
どうやらサシャちゃんの勝ちみたいだ。僕は項垂れるアトラ君を見て苦笑する。サシャちゃんが「わかってますよね」と言わんばかりの目で、僕を射すくめる。
あはは、だ、大丈夫。ちゃんと分かってるよ。
「……フルルはいつも通り僕に任せてくれるとして。二人の言い分をまとめると、割が良くて、かつあまり危険じゃない依頼、だね」
僕は頭を悩ませながら掲示板を眺めた。実入りがいいのはやっぱり討伐系の依頼だけれど、この間のゴブリン討伐のような依頼はやっぱりない。危険のないレベルの依頼だと報酬が少なく、それなりにお金を稼ごうと思うと厳しいものになってくる。
「うーん……。わ、割が良くて、それでいて危険じゃない依頼……」
これもだめ、あれもだめ……。
視線をさまよわせる僕に、フルルが視線を向けた。
「そんなのあるわけない」
冷たく言い放つ。
そ、そりゃあそうだよね。そんな依頼があるならだれも困らない。
フルルは呆れたように僕からサシャちゃんたちに視線を移した。なにか言おうとして口を開く。けれど、言葉を発す前に口を閉じ、興味を失ったように顔をそむけた。それに気づいたサシャちゃんは厳しい顔をしてフルルに言った。
「言いたいことがあるなら、言ってください」
「べつに」
「……い、依頼のことなら、そんなに都合のいいものがあるとは思っていません。ただセージさんが――」
サシャちゃんがはっとして口ごもる。一瞬僕を見て、すぐに視線をうつむけた。
なんだろう? フルルとサシャちゃんのやり取りにはらはらしていて、なにか聞き逃してたかな。……うん? そう言えばさっき、初めてサシャちゃんに名前を呼ばれたような……。
僕が考え込んでいると、サシャちゃんはなにもなかったかのように、いつも通りの顔でフルルをもう一度見た。
「セージさんが探し始めたので、少しは当てがあるのかと思っただけです」
うっ。
「セージは二人の要望に応えようとむりしただけ。からまわり」
ううっ。
なんだか二人とも僕への当たりがきつい。そ、そろそろ仲介に入ろう。僕の心が持たないかもしれない。
ちょっと怖いけれど覚悟を決めなければ。僕と同じく、二人のやり取りにひるんでいたアトラ君と目を合わせる。弱弱しい眼差しは、まるで僕にすがるかのようだ。
そうだ、僕はこの中で一番長く冒険者をやっているんだ。先輩なのだ。僕がなんとかしなければ。
アトラ君に力強く頷いて見せ、僕は睨み合う二人に向かって口を開いた。
「あ、あのー。ちょっといいかな?」
二人の視線が僕に向く。ああ、やっぱり女の子って怖いなと、そう思った時だった。
「――よかった、見つかった! セージさんですよね!」
唐突に掛けられた声に、僕たちみんなが振り返る。視線の先にいたのは、僕たちより年上で、組合の制服を着た女性――組合の受付嬢さんだった。にこにこと笑顔で、手を振りながら近づいてくる。
僕は率先して受付嬢さんに対応する。けしてフルルたちから逃げたわけではない。
「はい、僕がセージです。どうかしたんですか?」
「探していたんですよ! 昨日は組合に来られなかったようですけど、今日は見つかって良かったです。――セージさんのパーティに指名依頼です!」
受付嬢さんは笑顔で言った。
「それも、この街の領主様からですよ!」
アルドの領主から、指名依頼。
僕たちは顔を見合わせる。先ほどまでちょっと険悪だったフルルとサシャちゃんも、この時ばかりは一様に驚いた顔を見せる。
けれど、これは喜んでいいのか、そうじゃないのか……。
アトラ君とサシャちゃんは純粋に領主の名に驚いているようだけれど、僕やフルルは違うことに考えを巡らせていた。
この街で冒険者をやっていこうと思えば、領主からの依頼を断ることは大きなデメリットになる。けれど依頼内容によっては断らざるを得ないことだってあるだろうし、その場合もしかしたら違う街に行かなきゃいけなくなるかもしれない。
ただ、領主――つまり貴族からの依頼の場合、大きなメリットもある。報酬だ。それも指名依頼なのだから、通常の依頼より大幅に報酬がアップするはずである。
デメリットもあれば、メリットもある。もしかしたらサシャちゃんたちの要望通りの依頼の可能性もあるのだ。でもとにかく、その内容を知らないことにはなにも始まらない。
僕はもう一度みんなと顔を合わせ、同時に頷いた。
神妙な表情を浮かべ、受付嬢さんを見つめる。そして口を開いた。
「その話、詳しくお願いします」




