20. フルルとのデート? 2
新章の導入としてのデート回なんだけど、なんか思ったより長くなってる……。いちおう次で終わる予定。そしたら、そろそろパーティのみんなも絡んできます。
20*
それから二時間ほど経って劇が終了した。冒険活劇でありながら、笑いあり涙あり、ちょっぴり恋もありで、すごく見ごたえのあるお話だった。
たくさんの観客に交じって、僕たちは劇場を後にする。
「すごくよかったね、フルル! 人気があるのも納得だなあ」
広場に出た僕は、隣のフルルに高揚したまま話しかけた。
実は演劇を見るのは初めてだったのだけど、思っていたよりずっと楽しむことができた。敵との戦いは臨場感たっぷりではらはらしたし、飄々とした主人公が本気になるところがすごくかっこよかった。
それに主人公とヒロインが結ばれるシーンなんて涙なしでは見られなかったよ……。
僕は物語の余韻に浸る。こんなに面白いのならまた見に来てもいいかもしれない。しばらくしたら、今度はサシャちゃんたちも誘って一緒に来ようかな。
「ああ、ほんとに良かった……原作も読んでみたくなっちゃったよ。今度フルルの持ってる小説、読ませてもらってもいい? 感動して泣いちゃうかも」
「いいけど。……セージ、おおげさ。こどもみたい」
フルルはいつも通りの様子で、僕をじっと見て言う。わずかに口の端を曲げていた。
「そ、そんなことないよ! あんなに面白い劇を見たら、きっと誰だって僕みたいになるよ。フルルはいつもと変わらないけど……」
原作のファンだという話なのに、思ってたより面白くなかったんだろうか?
劇の内容についていろいろ話そうと思ってたのにと、僕はすこし残念な気持ちになる。
だけど、フルルの顔をよく見ていると、僕はあることに気が付いた。たしかに表情はいつもどおりなんだけど、頬や目元がかすかに赤く色づいている。
表情もそうだけど、顔色もめったに変わらないフルルにしてはすごく珍しいことだ。もしかするとこれは、劇が面白くて気持ちが盛り上がっているからなのでは。
ふふ、なんだ。フルルもやっぱり楽しんでたんだ。
僕はちょっと微笑ましい気持ちになる。僕を子どもっぽいとからかったフルルも、実はけっこう子どもみたいなところがあるのかも。
僕は余裕ある笑みを浮かべてフルルに話しかける。
「さっきの劇、フルルも楽しんでたみたいで良かった。また一緒に来ようね。……それで、この後はおいしいデザートを食べられるカフェでお昼にしようと思うんだけど大丈夫? 宿屋の女将さんにいいところを教えてもらったんだ」
「ん、お腹空いた。カフェに行くのはさんせい。けど」
フルルはそう言って、僕をちょっと不満そうに睨む。
「セージ、その顔むかつくからやめて」
「ひどい……!」
フルルはそう言って僕の脇腹を突く。い、痛いよフルル。
「はやくいこ」
「わ、わかったよ」
フルルに急かされるまま、僕たちは広場を出て通りを歩きだした。きっとまた劇を見に来よう。
通りを進み、僕たちは飲食店が並ぶ区画まで足を運ぶ。ちょっと高そうなレストランもあれば、大衆食堂や酒場、屋台などたくさんあった。
フルルはああ見えて、女の子らしく甘いものが好きだ。だからデザートが評判のカフェを提案したのだけど、そのカフェはこの区画の奥にある。お腹が空いている僕たちは足早にカフェへと向かう。
やがて、お目当ての店が見えてきた。
「あそこだよ、フルル」
僕の指さす方向にフルルの視線が向かう。視線の先には、赤い屋根をした木組みのお店があった。カラフルできれいな建物だ。通りに面した部分には布の屋根が突っ張っていて、テラスになっている。
「へえ、テラスなんてのもあるんだ。おしゃれなお店だなあ」
僕はテラスと、そこで食事をとる人たちを見て言った。やはり人気店だけあってお客さんは多いらしく、外から見えるテラスではほとんどのテーブルが埋まっている。みんな笑顔で楽しそうに食事をしていた。
「もしかしたら少し待つことになるかもしれないけど、そんなに長くはならないって聞いてるし、とりあえずお店にはいろっか」
「ん」
頷くフルルを連れて、僕はお店の扉を開く。中に入るとすぐにウエイトレスさんが寄ってきた。
「いらっしゃいませ、二名様ですか?」
「はい。席は空いてますか?」
「二名席がひとつ空いてますから、すぐご案内できますよ。どうぞこちらへ」
ウエイトレスさんの後ろについていって二人用のテーブルにつく。テーブルの上のメニューを僕たちに示すと、他の人が呼ぶ声に応えて忙しなく去っていった。
僕はフルルと向かい合って、テーブルに置いたメニュー表を眺める。
「たくさんあるね。どうしよう、お腹もすいてるし、僕はサンドイッチセットにしようかな」
サンドイッチと飲み物と、あとは日替わりの料理が付いてくるセットメニューだ。今日は具沢山のスープ付きらしい。たぶんこのお店で一番食べ応えがある。
自分が頼むものは決まったから、僕はメニューと格闘しているフルルに視線を向けた。
フルルはさらさらな前髪を垂らし、メニューを見下ろしている。いつになく真剣な表情がなんだかおかしい。
しばらくフルルを見つめながら待っていると、おもむろに顔を上げたフルルが僕を見た。不思議そうに首を傾げる。
「……なに?」
「……ううん、なんでもないよ! メニューは決まった?」
たまには僕がフルルをからかおうかとおもったけど、そんなことすると手痛い反撃を食らいそうだ。僕は誤魔化してフルルにたずねる。
フルルはまたメニューに目を向け、難しい顔をしながら口を開いた。
「……これ。きのこのパスタ。あと、この……」
フルルはメニュー表でひときわ目立つ大きな文字を指さす。
「りんごの七色パフェ」
「あっ。ここのおすすめメニューだね。たしかにそれを忘れちゃ駄目だよね」
このお店で評判になっているメニューだ。今日もこれが目当てで来たのだから、忘れずに頼まなければ。
二人とも注文が決まったので、僕はウエイトレスさんを呼んでメニューを告げる。
「えっと、サンドイッチセットときのこのパスタを一つずつ。それと食後にりんごの七色パフェを二つお願いします」
「かしこまりました、サンドイッチセットをお一つと、きのこのパスタをお一つですね。あとはパフェのほうですけど……」
ウエイトレスさんが言葉を止め、僕とフルルの顔を交互に見る。どうしたんだろう?
不思議に思っていると、なんだか微笑ましそうな顔のウエイトレスさんが笑顔で口を開く。
「お客様、当店ではカップルのお客様限定で特別メニューを用意しているんです。簡単に言うとおっきなりんごの七色パフェなんですけど、一つずつ頼むよりすこしお得なんですよ」
ウエイトレスさんはにこにこと笑顔を浮かべて僕たちの返事を待つ。
……ていうか、カップル!?
「かかか、カップルとか僕たちそういうのじゃないので! ふつうのでいいです!」
「あら、そうなんですか? ……でも周りから見たらカップルですし、限定パフェどうですか? 聞かなかったことにしてあげますよ」
「で、でも」
顔を赤くしてうろたえる僕に、ウエイトレスさんはぐいぐいカップル限定をすすめてくる。ま、周りから見たら僕たちカップルに見えるんだ……?
僕が恥ずかしくてなにも言えずにいると、横からフルルが言った。
「じゃあ、カップル限定りんごの七色パフェひとつ」
「かしこまりました。……ああ、初々しくてかわいい!」
ウエイトレスさんはなんだかすごく嬉しそうに、きゃーっと手で口を覆う。そのまま興奮した様子で奥に戻っていった。
僕は顔を赤くしたままフルルを見る。
「ふ、フルルよかったの? 僕たちカップルじゃないのに」
「そんなこといちいち気にするのセージだけ。思春期のこどもみたい」
い、いちおう僕たち思春期のはずでは……。
僕の考えていることが分かったのか、フルルはすこし考えて口を開く。
「童貞みたい」
「そ、それ好きだね! でも言っちゃだめだからね!」
「セージうるさい」
声を荒らげる僕をフルルはおかしそうに見ている。いやらしく口角を上げて目を細めた。
「もう……!」
僕は変わらず顔を赤くしながら、わずかばかりの抵抗として恨めしい思いを込めてフルルを見つめた。
やっぱりフルルはいつも通りで、ウエイトレスさんの言葉なんてぜんぜん気にしていないみたいだ。僕なんかカップルに見えるって言われて、さっきからすごく周りの視線が気になってるのに。
たしかに年はおんなじくらいだし、やっぱり二人きりだとデートしてるカップルに見えるのかな。フルルに悪いなとは思うけど、なんだか面映ゆい。
なんとなく居心地が悪くてもぞもぞしていると、さっきのウエイトレスさんがお皿を抱えてこっちに来るのが見えた。助かったなんて思いながら、テーブルに並べられるお皿を眺める。
「……うふふ。こちらサンドイッチセットときのこのパスタになります。パフェは食後にお持ちしますね」
ウエイトレスさんは意味深な視線を僕たちへ向け、ウインクをして去っていった。な、なんなの……。




