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19. フルルとのデート?

19*


 僕はフルルに声を掛けようとした。


 「ずいぶん時間がかかったね」だとか、「今日は楽しみだね」だとか、たぶんそんなことを言うつもりだったのだと思う。けれど目の前に立ったフルルを見て、僕の口は言葉を発することなく固まってしまう。


 フルルはひらりとスカートの裾を翻す。


「……おまたせ。どう?」


 僕に向かって言ったフルルはいつもの無表情で、けれどその恰好は初めて見るものだ。


 今日のフルルは、いつも依頼で着ている動きやすさ重視の服装でなく、ひらひらとしたワンピースを着ていた。


 銀色の髪が映える淡い水色の生地で、お腹のところに大きなリボンがついている。裾は二段のフリルスカートになっていて、いつもよりずっと女の子らしい。


 肩は大きく出ていて、脚もまぶしい白肌が露出している。少しヒールのついたサンダルから、ちいさなかわいい足も覗いていた。


 僕はなんだか恥ずかしくなって、フルルの顔を見た。そこで気づいたのだけど、どうも薄く化粧までしているようで、ピンクの紅を塗ったくちびるが艶やかだ。


 いつもと全然違う女の子になってしまったフルルは、きれいな緑の瞳を瞬かせて僕を見る。


「……おかしい?」


 僕がいつまでも返事をしないから、フルルは首を傾げてたずねてくる。僕は慌ててかぶりを振った。


「そ、そんなことないよ! なんていうか、普段とずいぶん違ったから驚いて……その、す、すごく似合ってる。かわいいよ……!」


 僕はうつむきがちにもじもじと言った。フルルにこういうことを言うのが恥ずかしかったのだ。


 けれど、似合ってると言ったのは嘘じゃない。こんなにおめかししているフルルを見るのは初めてだけれど、髪色と容姿も相まってまるで雪の妖精みたいだ。


 フルルは僕の言葉を聞いて、珍しくご満悦の表情だ。どうやらおじさんのアドバイスは効果があったらしい。


「じゃあ、行こ」


 フルルは軽やかに僕の手を取って宿の外へと向かう。久しぶりに丸一日使って遊べるから楽しみみたいだ。


「お客さん、頑張るんだよ」


 去り際に、女将さんの説教を終えたらしいおじさんが小さく言った。僕は訳もわからずとりあえず頷いて、フルルと一緒に外に出た。


 宿の目の前にある通りは、すでに行き交う人々でいっぱいだ。僕はできるだけ握った柔らかい手を意識しないようにして、すぐ隣のフルルに顔を向けた。


「じ、じゃあ、まずは予定通り演劇を見に行こっか」


「ん。演劇たのしみ」


 僕たちは劇場に向かって歩き出す。劇場は街の中央広場に面したところにあるから、このまま大通りを進めばいい。


 僕はフルルと連れ立って仲良く通りを進む。


 さっきおじさんに言われたデートという言葉が頭をよぎり、なんだか落ち着かない。ちらりとフルルの顔を盗み見るけど、フルルはまるで気にした様子もなく、前だけを見て足を動かしている。


 普段は意識しないようにしてたけど、やっぱりフルルってすごくかわいいなあ。こんなにかわいい子と二人で出かけてたら、やっぱり周りからはデートに見えるのかな……。でもこういうこと考えてると、またフルルにからかわれちゃいそうだ。


 ……そういえば、そもそもフルルと二人きりで出かけるのってこれが初めてじゃ……ふ、普段どうやって話してたっけ……。


 悶々とした思いを抱えながら歩く。道中自分でもぎこちないと思うくらい不自然な会話をして、案の定フルルにからかわれた。恥ずかしくって、フルルの意地悪な笑みから顔を逸らす。


 そうして通りを進み、僕たちはやがて広場につく。冒険者組合が広場の外周にあるけれど、そのちょうど反対のところに劇場はあった。丸屋根の劇場の大きな扉をくぐって中に入る。


 人気の演目を公開しているだけあって、中にはたくさんの人がいた。裕福そうな恰好の人が多いけれど、中には僕たちみたいな若い男女もいるみたいだ。


 僕たちはチケット売り場まで行ってチケットを買う。「放蕩貴族の冒険譚」という題目が記されていた。


「へえ、どういうのなんだろう」


「人気の小説がもとになってるおはなしで、昼行燈の御曹司が主人公の活躍劇」


 題名から中身を想像していると、間髪入れずにフルルが答えてくれた。なんだかフルルの目が輝いているように見える。


「フルル詳しいね。知ってたの?」


「うん。小説のほうは読んだから」


「そうだったんだ」


 そういえばフルルはよく本を読んでいる。どことなく楽しみそうに見えるのも、原作の小説が面白かったからなのだろう。


 これは演劇のできにも期待できるね。


 フルルがいつもよりちょっとだけ高揚した様子で劇のことを話している。どんどん劇への期待が上がっていく。フルルが満足いくおもしろさだといいな。


 そうしてしばらく話していると、受付に立つ案内がみんなに向けて言った。


「次の開幕までもう間もなくとなっています。チケットを取ったお客様はこちらで入場してホールまでお越しください」


 開幕の時間が近づいているというので、僕たちは受付でチケットを切ってホールに向かった。座席はすでにほとんどが埋まっていて、演劇の人気がうかがい知れる。


 僕たちは空いている席を探して腰を下ろした。わくわくしながら始まるのを待つ。


 やがて座席は完全に埋まり、それとほぼ同時、舞台の幕の前に司会が出てきた。


「――皆様、本日はこうしてお集まりいただきありがとうございます。感謝の言葉が尽きないところではありますが、皆様楽しみにしておられるでしょうし、早速舞台を始めさせてもらおうと思います」


 司会がそう言うと、舞台にかかった幕がゆっくりと上がっていく。舞台装置や役者さんたちが現れる。


「それでは、演目『放蕩貴族の冒険譚』の開幕です!」


 司会が舞台を降りてナレーションを始める。演目が開始し、役者さんたちが動き出した。


 役者さんたちの臨場感ある演技で物語は進む。まるで目の前で本当に彼らが冒険しているみたいだ。ナレーションの軽妙な語りで、僕たちは話に入り込んでいく。


 僕もフルルも、食い入るように舞台を見つめた。そうして舞台から一度も目を離すことなく、物語の行く末を見守った。


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