15. vs ゴブリンロード
15*
ゴブリンロードは、コロニーを作ったゴブリンの群れの中に稀に現れる魔物だ。読んで字のごとく、ゴブリン種の頂点に立つ最上位種である。
その体はゴブリンの枠に収まらない大きさで、他を圧倒する膂力を持つ。さらに知能も他と比べてかなり高く、群れのゴブリンを率いて戦略的に行動することさえある。小さな街くらいなら、ゴブリンロードが率いる群れで壊滅的被害を与えることもできる。
そんなゴブリンロードの討伐推奨ランクはC――つまり、Cランク相当の実力を持つ冒険者が複数であたることが想定されている。
ちなみに群れを率いた場合の推奨ランクは、たしかCを超えてC+からB-くらいだったはず。すでに群れを倒した後だったのは幸いだけど、それでも厄介なことに変わりはない。この場にいるCランク冒険者はガイさんだけで、あとはフルルもその実力はあるけれど、おそらく戦力が足りていない。
「ちっ、あいつホブゴブリンも従えてやがる……!」
ガイさんがこちらを睨むゴブリンロードを見て言った。
よく見ると、ゴブリンロードから少し下がったところにホブゴブリンが二体立っている。僕たちはゴブリンロードと同時に二体の上位種も相手にしなければいけないようだ。
ガイさんは厳しい表情を浮かべながら、僕たちに向かって言った。
「俺とこの女でゴブリンロードを相手にする。残ったやつはホブゴブリンをやれ。足手まといのお前らでも、それくらいは役立って見せろよ」
フルルとガイさんでゴブリンロード、残った僕たちでホブゴブリンを相手にする。妥当な判断だ。というか、そうするしかないだろう。
フルルとガイさんは今にも襲い掛かってきそうなゴブリンロードを見据え、ぐ、と足に力を入れた。それと同時にゴブリンロードたちが動き出した。
「来るぞ!」
誰かが叫ぶ。僕たちは迫る魔物に向かって行動を開始した。
フルルとガイさんは一番に飛び出し、ゴブリンロードと剣戟を交わす。そこに割って入ろうとしたホブゴブリンに対して、僕は矢を放ってけん制した。
「フルルたちの邪魔はさせないよ! サシャちゃんとアトラ君、無理のない範囲でホブゴブリンたちを離れたところに誘導できる?」
「やってみます!」
「俺たちも協力するぜ!」
僕の言葉に、サシャちゃんとアトラ君だけでなく、他の冒険者も応えてくれる。僕も矢で敵の行動を制限し、思うように動けない状況を作る。
サシャちゃんが素早い動きでホブゴブリンを挑発しながら、何度も攻撃を加えた。アトラ君もそれを支援し、危ない攻撃を受け止めたり、力を貯めた一撃でフルルたちから離れる方へ弾こうとする。
他の冒険者たちも、一緒にうまく連携してホブゴブリンを追い詰めていく。
この調子なら、僕たちは大丈夫そうだ。向こうは……?
僕はちらりとフルルたちへ視線を向けた。
フルルは魔法を展開しながら、滑るように地を駆ける。小さなつららでけん制しながら、冷気を纏わせた剣でゴブリンロードを後ろから斬る。けれど、ゴブリンロードはすさまじい反応で振り向き、大きなこん棒で剣を受け止めた。飛んできたつららは空いた腕で難なく払いのける。
ゴブリンロードはこん棒を握る腕に力を込め、そのまま振るってフルルを弾き飛ばした。フルルはうまく力を受け流していたようで、空中を飛びながらくるりと回転して危なげなく着地する。怪我はないようだ。
そしてフルルと入れ替わるように、今度はガイさんが剣を袈裟懸けに振るって重い一撃を叩き込む。けれどゴブリンロードはこれも受け止め、圧倒的な膂力でフルルと同じように吹き飛ばした。
それから互いに睨み合い、動きが止まる。ゴブリンロードの圧倒的な力の前に、二人は決定打がないようだった。
動きを止められさえすれば、フルルのあの魔法でいけるかもしれないけど……。
僕はホブゴブリンたちに絶え間なく矢を放ちながら考える。おそらくあのゴブリンロードに対して、他の冒険者たちと一緒に数で当たったところで意味はない。敵の質が上がれば、物量の効果は少なくなる。強力な魔物に対しては少数精鋭で立ち向かうのが鉄則だ。
フルルをもっと自由に動かしてあげるために、もう少し前衛が欲しい……。僕はホブゴブリンの一体が倒れたのを見ながら思考する。
堅実な戦い方をするサシャちゃんとアトラ君なら行ける気はする。今日しばらく一緒に戦って二人のくせも分かってるから、僕も積極的に弓で援護できるし、回復魔法を飛ばすこともできる。それでもあの二人にとってハードルが高いことに違いはないけど、このままでは全滅もあり得る。そうなる前に……。
一体が倒れたことで戦況がこちら側に大きく傾き、もう一体のホブゴブリンも倒された。僕はほっと息を吐くサシャちゃんとアトラ君のもとへ、覚悟を決めて向かう。どうか僕の頼みを聞いてほしい。
「サシャちゃん、アトラ君……お願いがあるんだ。フルルを助けるために、協力してくれないかな」
僕は真摯な思いを込めて二人に告げた。初めて組んだ臨時のパーティメンバーに無茶を言っているのは分かってる。それでも、このままじゃあゴブリンロードを倒せない。僕の大切な、ずっと側にいてくれたフルルも倒れてしまう。だから。
頭を下げる僕に、二人が声を掛ける。
「そんなの当たり前ですよ! 僕たちパーティなんですから」
「アトラを助けてもらった恩を、まだ返せていませんから」
僕は顔を上げ、サシャちゃんとアトラ君を見た。二人は僕に向かって頷いて見せる。
僕は思わず胸が熱くなった。なんていい子たちなんだろう。
僕は感謝の言葉がたくさん溢れそうになるのを堪えて、一言ありがとうとだけ伝える。お礼は後でいくらでも言おう。だけど今は、ゴブリンロードを倒すことだけを考える。
そうして僕は、二人に僕たちの役割を説明した。サシャちゃんとアトラ君は僕の話を聞いて力強く頷く。時間も掛けられないし、さっそくフルルたちの援護へと向かおう。
決意を固めた目でゴブリンロードを睨む二人に、僕は言った。
「それじゃあ、行こうか。――今度は僕も少し前に出るから、二人ともよろしくね」
「え?」
二人が戸惑いの声を上げる。だけど時間もないので、僕はそれを聞かなかったことにして前に進む。
さあ、早く行かなきゃフルルたちが大変だ!




