9. 素直な後輩
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サシャちゃんと別れた僕たちは街の外まで出向き、無事にゴブリン討伐を済ませた。その後は少し時間があったので、まだ不慣れな街の中をフルルと一緒に巡り、宿屋に帰って一日を終えた。
それから一週間くらいは、毎日フルルと二人で簡単な依頼をこなす毎日だ。少なくとも宿代と食事代を稼いで、ついでにランクを上げるためにポイントを貯める。
冒険者組合のランクはFからSまであって、上のランクに上がるごとにいろいろな恩恵を受けられる。制度上の話で言うと、組合で買える消耗品に割引がかかったり、割のいい依頼を優先的に回してもらったり、依頼報酬や素材の買い取り額に色がついたりする。
あとはそれとは別に、純粋に冒険者としてのステータスになるから上げるという人もいる。もし僕たちのランクがリディアにいた時と同じだったら、もう少しパーティを組むのも簡単だっただろう。けど、今はサシャちゃんたちと組めそうだから問題はない。
そうして、今日も宿屋で朝を迎えた僕たちは、腹ごしらえをしてから冒険者組合へ向かう。一週間前に約束したサシャちゃんたちは、まだ組合に来ていない。そろそろ来ると思うので、ちゃんと朝早くに行っておかないと。
僕は朝早くてやる気のなさそうフルルとともに、冒険者組合の入り口をくぐる。
ええと、サシャちゃんたちはいるかな。
相変わらず活気のある建物内を見渡して、目的の二人を探す。
初めてここへ来たときと違い、朝早いこの時間帯は若い冒険者たちがたくさんいる。僕たちと同年代も多く、どこか浮ついた空気が感じられた。
そうして建物の中を隅から隅まで見渡して、僕は肩を落とした。
「サシャちゃんとアトラ君、今日もいないみたいだね。まだ本調子じゃないのかな」
「すっぽかしてるのかも。あの女はそういう女。人の善意を信じられない卑しい人間」
「そ、そんなこと言っちゃ駄目だって。……前から思ってたけど、フルルってサシャちゃんにあたり強いよね」
僕の言葉に答えることなく、フルルはつーんと顔をそらす。基本的に誰に対しても興味を持たないフルルにしては珍しい態度だ。だけど、なんだか突っ込んで聞きづらい。いつもよりちょっと怖い顔してるんだよね……。
とりあえずサシャちゃん本人の前では注意するとして、今は置いておこう。情けないけれど。
サシャちゃんたちがいないなら、依頼でも見に行こうかな。
そうして掲示板の方へ向かおうとした時、僕たちのすぐ後ろで入り口の扉が開いた。
「あ」
背後から聞こえた声に振り返る。そこにいたのはサシャちゃんとアトラ君だ。来てくれたんだね!
「久しぶり、サシャちゃん! アトラ君は、こうして会うのは初めてだね」
僕はにっこり笑って二人に声を掛ける。アトラ君と話すのは初めてなので自己紹介も忘れない。
「僕はセージ。聞いてると思うけど、アトラ君たちとパーティを組めないかって話をしてるところなんだ。こっちの子は僕のパーティメンバー」
「フルル。よろしく」
視線を向けてうながすと、フルルは仕方なさそうに言った。
「よろしくお願いします! 知っていると思いますけど、アトラです!」
アトラ君は元気よく挨拶してくれる。うん、気持ちのいい少年だ。
ずっと入り口の前にいるといけないから、僕たちは組合内の休憩スペースに移動する。四人で一つのテーブルについて、改めて向き直る。
サシャちゃんとアトラ君は姉弟だけあってよく似た顔立ちをしていた。二人とも髪が同じ栗色だし、遠目からだと見間違えるかもしれない。違うのは目元くらいで、サシャちゃんの方が少しつり目気味だ。
「あの!」
そんなことを考えていると、アトラ君がまだ幼さの残る顔に真剣な表情を浮かべ、口を開いた。
「セージさん。先日は僕の怪我を治してくれてありがとうございました! それにフルルさんも魔物を倒してくれたそうで、二人には本当に感謝しています」
アトラ君は丁寧なお礼に合わせて深々と頭を下げる。そこまでされるとなんだか恐縮してしまう。
「頭を上げてよ、アトラ君。同じ冒険者として、困っていることがあれば助け合うのは当たり前だよ」
「――そ、そんなことないです! セージさんたちは何の得もないのに、危険を冒してまで僕たちを助けてくれたんですから! 本当に立派です、尊敬します!」
アトラ君はがばっと頭を上げると、もの凄くきらきらした目で僕たちを見る。それから、いかに僕たちが素晴らしい冒険者なのかを滔々と述べ始めた。いわく、初めは憧れていた冒険者という職業はいわば何でも屋みたいなものだし、物語に出てくるような勇気溢れる人なんかいないし、それどころかチンピラみたいな人も多いし。
アトラ君はこれまでに先輩冒険者から受けたひどい仕打ちを語り、それを引き合いに出して僕たちをべた褒めした。なんだか恥ずかしくて顔が赤くなる。フルルはとても面倒くさそうな顔をしている。
「だから、僕はほんとに感動しているんです。僕の憧れていたような立派で強い冒険者がいて、しかもそれが僕たちより少し年上くらいのセージさんたちで。そうだ、僕セージさんたちのことを先輩って呼んでもいいですか!」
「……アトラ、関係ない話はそれくらいにしてください」
ずっと黙っていたサシャちゃんが見かねて口を開いた。どう反応していいか分からなかったからちょっと助かった。
アトラ君はえー、と不満そうに呟く。
「今日は私たちと彼らで依頼を受けるという話です。余計なことで時間を使いたくないです」
「余計なことじゃないよ、姉さん。これは僕たちとセージ先輩たちの親睦を深める大事な……」
「いいから、話を進めさせてください」
アトラ君の言葉を途中で切って、サシャちゃんが鋭く睨む。有無を言わさない姉にアトラ君も観念したようだ。すみませんと僕たちに一言謝って、続きをサシャちゃんに任せる。
サシャちゃんはため息を吐いて、僕たちに向き直った。
「それで、今日は話通り私たちが合同で依頼を受けるということでいいですよね。なんの依頼を受けるかはもう決めているんですか」
ちらりとフルルを見ると、「セージに任せる」と視線で伝えられたので僕は口を開く。
「実は僕たちも今来たところで、まだなんの依頼があるか確認していないんだ。良かったら一緒に見に行こうよ」
「分かりました」
サシャちゃんが頷くのを確認して、僕たちは掲示板へ移動する。




