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放送室での……②

「ところで、他のみんなは?」


「『田町ちゃん』は先生に呼ばれて遅くなるそうです。『さやち』は何か急用だとかで帰りましたけど」


「そうか、今日は例のゲームの発売日だったな。しかし、今日は緊急会議を開くと前もって言っておいたのに……ま、いいか。議題は『新一年生補完計画』についてだったし、既にクリアーしたからな」


「ええ、そうですね。では、部長は今からどうします?」


「そうだな、今日は帰ることにするか。真菜香はどうする?」


「私は下校の放送を済ませたら、田町ちゃんを待って戸締りして帰ります」


「下校の放送?」


 中沢先輩の台詞に僕は反応する。


「それは放送委員の仕事じゃないんですか?」


「ええ、声優部のみんな、放送委員も兼務してるの。もちろん、うちの部員以外にも放送委員はいるけど、委員決めが終わっていないこの時期は、私達が専従で担当してるのよ」


「まあ、そのおかげで放送室を部室代わりに使わせてもらってる訳だ」


 八幡部長が少し自慢そうに言う。


「それで和地くんはどうする? 今日の活動はこれで終わりだし」


「えっ、僕……」


 何も考えていなかったけど、中沢先輩が残るなら、もう少し付き合ってもいいかな。


「僕も残っていいですか? 先輩が放送してるところ、見学したいんです」


「え~、別に見てても面白くないよ」


「いえ、ぜひ聞きたいんです」


 たぶん、僕は顔を赤くしていたのだろうか。

 八幡部長は僕をニヤリと見て、トンデモ発言をした。


「和地、入部祝いに良いことを教えてやろう」


「はあ」


「真菜香はフリーだ。ただ、ライバルが多数の激戦区だぞ」


 ぶっ……。


 ぬるくなったお茶を飲んでいた僕は思わず吹き出した。

 先輩がフリー……ってことは彼氏がいないのか。

 僕の妄想が頭の中で再現される。


「な、な、なんてこと言うんですか、部長!」


 中沢先輩が顔を真っ赤にして抗議する。


 ちょ……照れてる先輩、めちゃくちゃ可愛いんですけど。


「何を怒る? 私は事実を述べたまでだが」


「個人情報の漏洩です!」


「周知の事実を漏洩と言われてもなぁ。それに、これから密室で二人きりになる男女には格好の会話の潤滑油になると思ったのだが……」


「なりません!」


「……(部長、ナイスフォローです)」


「とにかく、後は若い二人でごゆっくり」


 そう言うと部長は大笑いしながら放送室から出て行った。

 残ったのは、微妙な距離感の先輩と後輩。


「ほ、ほんと、とんでもない部長でしょ」


「そ、そうですね、はは……」


 それっきり、お互い無言になる。


 ど、どうしよう、この気まずい雰囲気。

 変に意識してドキドキしてくる。


 何か話さなきゃと僕が口を開きかけた瞬間、ノックの音がした。


「真菜、入るよ~」


「あ、うん。いいよ」


 ドアを開けて入ってきたのは、女の子にしては背が高くすらりとした体型でショートヘアが良く似合う活発そうな女子だった。


「遅くなってごめん。先生の話が長くてさ……あれ、お邪魔だった?」


 先輩と僕を見つめると、そのショートさんはおどけたように言った。


「もう、たまちゃんったら、からかわないでよ」


 怒った表情を見せる先輩も魅力的だ。


「冗談だよ……で、彼は?」


「新入部員の和地です」


 慌てて立ち上がって自己紹介する。


「そうなんだ。私は『田町 晴希』(たまち はるき)、よろしくね」


 笑顔を向ける田町先輩は、中沢先輩とは違う種類の美少女だ。


 あと、もう一人いる2年生も女子という話だから、八幡部長の言ったハーレム状態というのも、あながち間違いじゃないかも。


 もっとも、先輩方全員が僕に好意を持つなんてのは、ラノベの中だけの話だ。

 そんなことが万が一にもありえないことは、毎朝鏡を見る僕が知っていた。


 いや、男は顔じゃない、心だ!……なんて決して言わない。

 現実を直視し、物事を冷静に分析するのはアナウンサーに必要なスキルのはずだ。


 現実を直視……分析……観察…………ふにゃ。


 中沢先輩と田町先輩の二人を見ていたら、思わず腑抜けてしまった。


「だから、真菜は無防備すぎるんだって」


「え~っ、田町の方こそ、気軽に男子に話しかけると誤解されちゃうよ」


 美人二人の会話は見ているだけで癒される。

 どうしたって、顔が緩んでしまう。




「――――、そろそろ下校の時間ね」


 中沢先輩は時計を見て立ち上がると田町先輩と一緒に放送の準備を始める。

 入ったばかりで勝手のわからない僕は、今回は見ているだけだ。


 やがて、下校の音楽が流れ始め、中沢先輩がマイクに向って声を出す。


『校内で活動している生徒の皆さんにお知らせします。下校の時間が参りました…………』


 間近で聞く先輩の声に、僕は静かに感動していた。


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