放送室での……①
「改めて自己紹介するね。私は『中沢 真菜香』(なかざわ まなか)、2年生で副部長しているの。君の名前は?」
「ぼ、僕は『和地 尋高』(わぢ ひろたか)です。一年生です」
「うん、わかってる」
くすりと笑って、中沢先輩は僕をじっと見つめる。
はっ!
気が付けば、女の子と密室で二人きりじゃないか。
それもこんな綺麗な人と……。
僕はいきなりテンぱった。
「あ――、高校の放送室って初めて入りましたけど、中学校とは違いますね。あ、あれはテレビ放送用の機材じゃないですか……」
急に立ち上がって語り始めた僕に先輩が目を丸くする。
「そ、そうだけど……和地くんって中学の時、放送委員だったんだ?」
「え、はい。そうです。ですから、何でも言ってください。絶対、お役に立ちますから」
勢い込む僕に先輩が幾分、引き気味になっている。
「……あ、そうだ。気がつかなくて、ごめん。今、お茶淹れるから、ちょっと待ってて」
テンションが高すぎて挙動不審な僕から離れるように、中沢先輩は部屋の隅にあるポットでお茶の用意を始める。
その後姿をぼんやり眺めながら、僕は物思いに耽った。
やっぱり可愛いなあ。
足が長くてスタイルもいい。
彼氏とかいるのかな。
もし、いなかったら部活中に親密になって付き合ったりして……。
『だめだよ、和地クン。ここ放送室だよ』
『大丈夫です。ここ防音だし』
『そうじゃなくって……』
『先輩がいけないんです! そんな無防備な姿を見せるから』
『そ、そんなこと言われても』
『もう我慢ができません』
『あ、待って和地クン……』
「待てません、先輩!」
「え? そんなに喉が乾いてたんだ?」
気がつくと、僕の前にお茶を置いて不思議そうな顔をしている先輩がいた。
「え、はい。いただきます……あちっ!」
焦って、いきなり口をつけて舌を火傷しそうになる。
「だ、大丈夫? ごめんね、先輩がドリップコーヒーを飲むんで設定温度が高かったみたい」
「いへ、いひでふ」
涙目になりながら僕は、邪な妄想をした自分に罰が当たったと思った。
「でも、和地くんって面白いね」
熱いお茶をふーふー冷ます僕を眺めながら、先輩は意味深なことを言う。
え、どの辺が?
いたって普通の男子ですけど。
でも先輩のためなら、面白い男になります!
なってみせます。
そんな宣言を心中で吐露していると、いきなり入り口のドアが開いた。
「おーい、真菜香いるか? 遅れて悪い。他の連中は、もう集まってるかぁ。ま、変り映えしない顔で見飽きてるが……って、男子が何故いる?」
飛び込んできたのは小柄で眼鏡をかけた少しきつそうな顔付きの女の子だった。
「あ、部長こんにちは。前にも言いましたけど、入る時はちゃんとノックしてくださいね。それと……この子は新入部員の和地くんです。で、こちらは三年生の……」
「何! 新入部員だと。部活説明会は来週じゃないか。なのに、もう入部するというのか」
そう言うとニヤリと笑った。
「でかした、副部長。これで我が部も安泰だな」
「はい、部長。でも、ちょっと可愛そうな気も……」
「いや、初の男子部員だ。彼にとってもメリットはある。見ようによってはハーレムじゃないか」
安泰……ハーレム?
どういうこと?
僕の怪訝そうな顔を見て、中沢先輩が説明してくれる。
「あのね、和地くん。うちの部、三年生が部長一人、二年生は私を含めて女子三人の計四人なの。で、生徒会規約では最低部員数は五人と決められているの」
「それって、つまり……」
「君が入れば、今年度の声優部は存続するって訳だ、逃げられると思うか?」
「いえ、観念しました」
その瞬間、僕は自分の運命を悟った。
「私は三年で部長の『八幡小百合』(やはたさゆり)だ。よろしく頼む」
そう言いながら、部長さんは僕の肩をばんばん叩いた。
何だか怖そうな人だ。
僕の危険感知能力が、この人に逆らっては駄目だと告げている。




