ステージでの……②
読んでいただき、ありがとうございます。
今週末までは、一日三話更新を頑張ります。
来週は、毎日一話更新になる予定です。ご了解ください。
それにしても、思いのほかアクセス数が伸びず、現代物の難しさを痛感しています。
めげずに頑張ります!
「どうしたんですか? そんなに慌てて」
代表して佐久間が聞く。
「実は、出演予定の2年生のご家族に不幸が出来て早退してしまったんだ」
どうやら、その代わりをお願いしたいらしい。
「ちょっと待ってください。私達は演劇部じゃないですし、台本だって読んでません。いくら声優部だって実際の演技はすぐに出来ませんよ。それに他の部員だっているでしょ」
「いや、その点は問題ない。実際に舞台に上がってもらうんじゃなくて、出演するのは『声』だけなんだ」
「え?」
僕たち3人の声が重なる。
演劇部の部長さんの説明によると、こういうことらしい。
舞台の後半の山場に手紙の朗読シーンがあり、途中から読み上げている役者に代わってその登場人物(実際には舞台に出ない)が声を引き継ぐ演出になっているとのことだ。
それも物語の核心に触れる内容でかなりの見せ場のようだ。
「あいにくと役者のほぼ全員が舞台に出ているシーンの上、残っているのは経験の無い1年生だけなんだ」
1年生のたどたどしい朗読より、声だけの出演なら専門家に任せた方がいいとの判断らしい。
「どうせ舞台には立たないし、台本見ながら感情を込めて話すのは声優部にとって朝飯前だろう」
失礼な物言いに佐久間がむっとした顔になるが、恒武先輩は別の反論をする。
「演劇部の副部長も声優部に協力依頼することに同意したんですか?」
「え?……確かに彼女は渋っていたけど、今は選り好みを言える状況じゃないからね」
言外に部外者に協力依頼することの不満が見え隠れする。
「少し時間をいただけますか。話し合ってみます」
「わかった、でも手短に頼むよ。もう時間がないんだ」
焦る部長さんを横目に3人で丸くなって相談する。
「で、どうする?」
「気に喰わないけど、出てもいいです」
反対すると思われた佐久間が意外にも同意する。
「仕方ないです。体育館発表を円滑に進めるのが私達の役目ですから」
そうかなぁ、演劇部のことまで面倒見なくてもいいと僕は思うけど。
「そうだなぁ。心情的にはざまあみろだけど、見捨てるのは後味悪いね」
確か、演劇部の副部長さんって2年の女子で田町先輩を退部に追い込んだ張本人だったはずだ。
「僕は反対です。演劇部を助ける筋合いはないと思います」
と部長さんに聞こえないように小さな声で反対する。
「うわっ、小さい男」
「別にあんたに意見求めていないし」
ぐさっ、心折れるお言葉ありがとうございます。
僕の意見は無視されて、依頼を受ける方向で話が決まる。
「協議の結果、そちらの申し出をお受けします。でも、失敗しても責任は持てません。先に言っておきます」
恒武先輩の返答に演劇部長は安堵の表情を浮かべた後、勢い込んで叫んだ。
「ありがとう、助かるよ。それじゃ、そこの君。すぐに台本を読んでくれ」
部長は僕に台本を差し出した。
「ええ~っ」
再び3人の声が重なった。
「ぼ、僕ですか?」
なんと、出演を依頼されたのは僕だったのだ。
いきなり、舞台デビューとか想定外なんですけど。
それは、さすがに無謀でしょう。
「もちろん、そうだよ。手紙の主は男性なんだから。本当はもっと低い声の方が良かったんだけど、この際贅沢を言っている場合じゃないからな」
「ちょっと待ってください。彼は1年生で舞台も未経験なんで、そちらの期待に応えられるかどうか……」
恒武先輩は僕以上に不安げな顔で反対する。
「そうですよ、和地なんかに舞台なんて、失敗するに決まってます」
佐久間が断言する。
何ですと!
その発言にカチンと来る。
「大丈夫です! お受けしますよ」
「おい、ひろっち!」
恒武先輩が非難するように声を上げたけど、僕は胸を張った。
「声だけの出演なら問題ないです」
舞台に立つ訳でもなく声だけなら、中学時代の放送委員会で培ったきたスキルで何とかなるだろう。
「そうか、ありがとう。じゃ、頼んだよ」
演劇部の部長さんは安心したように持ち場に戻っていった。
残された僕たちは互いに顔を見合わせる。
「しょうがない、台本の読み合わせしてやるよ」
恒武先輩はため息をつくと、演劇部の台本を寄越すように手を差し出した。
「先輩、大丈夫ですよ、このくらい。いつも原稿、どれだけ読んでると思ってるんですか」
「しかしな、ひろっち……」
「いいじゃないか、そこまで自信があるなら、和地の好きなようにやらせてみれば」
気がつくと、いつの間にか八幡部長が立っていた。
ホントに陰で見ていたんじゃないかというタイミングで現れるな、この人。
「ですけど部長。声の演技は……」
「いろんな経験をした方が成長につながるものさ。それにな……」
部長は片目をつぶってニヤリと笑った。
「私も演劇部に対して思うところはある。和地、思う存分やってこい。骨は拾ってやる」
「わ、わかりました……」
みんな、僕が失敗するのを前提で話してる気がする。
これは、見返してやらないと気がすまない。
僕は密かに闘志を燃やした。




