表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/37

ステージでの……②

読んでいただき、ありがとうございます。


今週末までは、一日三話更新を頑張ります。


来週は、毎日一話更新になる予定です。ご了解ください。


それにしても、思いのほかアクセス数が伸びず、現代物の難しさを痛感しています。


めげずに頑張ります!

「どうしたんですか? そんなに慌てて」


 代表して佐久間が聞く。


「実は、出演予定の2年生のご家族に不幸が出来て早退してしまったんだ」


 どうやら、その代わりをお願いしたいらしい。


「ちょっと待ってください。私達は演劇部じゃないですし、台本だって読んでません。いくら声優部だって実際の演技はすぐに出来ませんよ。それに他の部員だっているでしょ」


「いや、その点は問題ない。実際に舞台に上がってもらうんじゃなくて、出演するのは『声』だけなんだ」


「え?」


 僕たち3人の声が重なる。


 演劇部の部長さんの説明によると、こういうことらしい。

 舞台の後半の山場に手紙の朗読シーンがあり、途中から読み上げている役者に代わってその登場人物(実際には舞台に出ない)が声を引き継ぐ演出になっているとのことだ。


 それも物語の核心に触れる内容でかなりの見せ場のようだ。


「あいにくと役者のほぼ全員が舞台に出ているシーンの上、残っているのは経験の無い1年生だけなんだ」


 1年生のたどたどしい朗読より、声だけの出演なら専門家に任せた方がいいとの判断らしい。


「どうせ舞台には立たないし、台本見ながら感情を込めて話すのは声優部にとって朝飯前だろう」


 失礼な物言いに佐久間がむっとした顔になるが、恒武先輩は別の反論をする。


「演劇部の副部長も声優部に協力依頼することに同意したんですか?」


「え?……確かに彼女は渋っていたけど、今は選り好みを言える状況じゃないからね」


 言外に部外者に協力依頼することの不満が見え隠れする。


「少し時間をいただけますか。話し合ってみます」


「わかった、でも手短に頼むよ。もう時間がないんだ」


 焦る部長さんを横目に3人で丸くなって相談する。


「で、どうする?」


「気に喰わないけど、出てもいいです」


 反対すると思われた佐久間が意外にも同意する。


「仕方ないです。体育館発表を円滑に進めるのが私達の役目ですから」


 そうかなぁ、演劇部のことまで面倒見なくてもいいと僕は思うけど。


「そうだなぁ。心情的にはざまあみろだけど、見捨てるのは後味悪いね」


 確か、演劇部の副部長さんって2年の女子で田町先輩を退部に追い込んだ張本人だったはずだ。


「僕は反対です。演劇部を助ける筋合いはないと思います」


 と部長さんに聞こえないように小さな声で反対する。


「うわっ、小さい男」


「別にあんたに意見求めていないし」


 ぐさっ、心折れるお言葉ありがとうございます。


 僕の意見は無視されて、依頼を受ける方向で話が決まる。


「協議の結果、そちらの申し出をお受けします。でも、失敗しても責任は持てません。先に言っておきます」


 恒武先輩の返答に演劇部長は安堵の表情を浮かべた後、勢い込んで叫んだ。


「ありがとう、助かるよ。それじゃ、そこの君。すぐに台本を読んでくれ」


 部長は僕に台本を差し出した。


「ええ~っ」


 再び3人の声が重なった。




「ぼ、僕ですか?」


 なんと、出演を依頼されたのは僕だったのだ。


 いきなり、舞台デビューとか想定外なんですけど。

 それは、さすがに無謀でしょう。


「もちろん、そうだよ。手紙の主は男性なんだから。本当はもっと低い声の方が良かったんだけど、この際贅沢を言っている場合じゃないからな」


「ちょっと待ってください。彼は1年生で舞台も未経験なんで、そちらの期待に応えられるかどうか……」


 恒武先輩は僕以上に不安げな顔で反対する。


「そうですよ、和地なんかに舞台なんて、失敗するに決まってます」


 佐久間が断言する。

 

 何ですと!

 その発言にカチンと来る。


「大丈夫です! お受けしますよ」


「おい、ひろっち!」


 恒武先輩が非難するように声を上げたけど、僕は胸を張った。


「声だけの出演なら問題ないです」


 舞台に立つ訳でもなく声だけなら、中学時代の放送委員会で培ったきたスキルで何とかなるだろう。


「そうか、ありがとう。じゃ、頼んだよ」


 演劇部の部長さんは安心したように持ち場に戻っていった。


 残された僕たちは互いに顔を見合わせる。


「しょうがない、台本の読み合わせしてやるよ」


 恒武先輩はため息をつくと、演劇部の台本を寄越すように手を差し出した。


「先輩、大丈夫ですよ、このくらい。いつも原稿、どれだけ読んでると思ってるんですか」


「しかしな、ひろっち……」


「いいじゃないか、そこまで自信があるなら、和地の好きなようにやらせてみれば」


 気がつくと、いつの間にか八幡部長が立っていた。


 ホントに陰で見ていたんじゃないかというタイミングで現れるな、この人。


「ですけど部長。声の演技は……」


「いろんな経験をした方が成長につながるものさ。それにな……」


 部長は片目をつぶってニヤリと笑った。


「私も演劇部に対して思うところはある。和地、思う存分やってこい。骨は拾ってやる」


「わ、わかりました……」


 みんな、僕が失敗するのを前提で話してる気がする。

 これは、見返してやらないと気がすまない。


 僕は密かに闘志を燃やした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=693062406&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ