1 突然の始まり
何がどうなったのか。皆目わからない。ただ腕の中で泣いているこの子だけは守らなければと思った。
辺りを待たせば緑ばっかりだ。そして一本の道、それも舗装されていない田舎道だ。
焦っちゃダメ。私が冷静になれなければこの子が不安がる。
まだ目を覚まさない女の子を抱きしめながら、気持ちを落ち着かせる。
まず状況判断だ。まず、まずだ。
ブランコと滑り台を交互に行ったり来たりして、公園で遊んでいた。
突如地面が光って、この子が吸いこまれそうになって、近くにいた私が抱きとめた。けど、二人揃って地面に吸い込まれた。それ以後の意識はない。
そして今ここにいる。
ここはどこだろう。
日本かなぁ。地球だよね。
もしかして異世界?そんなことないよね。異世界はフィクションだもの。
でも尋常じゃないことが起きたからここに居るんだよね。
タイムトラベル?
あれこれ考えても分からない。
言葉は?
自慢じゃあないけど、日本語しか喋れない。ここは言葉が通じることを願って第一村人を探そう。
この子は私が守らなきゃ。
そう決意するのは小林翔子57歳。夫有。地球の日本の千葉県に住んでいる。子供は二人、既に独立して結婚している。孫は一人。そう抱いている女の子が孫である。名は伊藤佳苗、通称カナである。五歳。この子が娘の所に帰れるまで頑張らなくてはと、再度決意した。
寝ている佳苗を抱っこしつつ一本道を右に歩き出す。右が凶と出るか吉と出るのか分からないが、『頑張れ翔子』と自分を励まし続けた。だが100mもいかないうちに疲れた。佳苗は五歳でも大きい方だ。しかも眠っている。重い。私ってこんなに体力が無かった?ちょっと休憩。道端に座り込んだとたんに翔子は眠ってしまった。
「おい・・・。おい起きろ。お嬢ちゃん。」
お嬢ちゃん?佳苗のことだ。どこ?寝ぼけていても孫の佳苗は腕の中にいるのがわかって安心した。
「お嬢ちゃん達、こんな所で寝てたら危ないぞ。親御さんはどうした?」
人の声に驚いたのか、目を覚まし泣き出した佳苗だ。
「ママ、パパ、ママ、パパ、ママ、ママーーー。」
佳苗のパニックで会話どころではない。翔子は必至に、
「バアバがいるよ。バアバがいるから、ママの所に一緒に帰ろう。それまでバァバと一緒だよ。カナ、バアバがいるから。」
「バアバ。本当にバアバ。」
「そうだよ、バアバだよ。だから大丈夫、大丈夫だよ。」
翔子に抱きつく佳苗だ。
「何か事情があるようだな。だが、幼児二人でここにいるのは危険だ。とりあえず街まで行こう、良いか。」
【知らない人について行ってはいけません。日本の常識】だが、そんなことは言っていられない。すでに辺りは暗くなっている。
幼児?私は57歳だよ。でも良い人そうだし、どんどん暗くななっていく。連れていってもらおう。大丈夫だよね。ええい、ままよ。
「はい、お願いします。」
それに言葉は通じた。よかった。
声を掛けてくれたのはマックス。街を守る兵士だった。今日は仕事で隣国との関所からの帰りだった。マックスは翔子たちのことを聞いてきたが、現状が理解していないので答えられない。黙っていると、
「名前はバーバラとカナか。」
訂正するのも面倒なので、
「はい。(私はバーバラ、佳苗はカナ。よし、それで決定)」
「親はどうした?」
「今はいません。気がついたらあそこにいました。これから二人で生きていけなければなりません。ですが、お金もありません。これから行く街は住み込みで雇ってくれる仕事ってありますか?」
「未成年を住み込みで雇うことは違法だ。だが、成人までなら孤児院がある。そこを紹介しよう。」
「でも、私は入れません。」
「どうしてだ。まだ13歳になっていないだろう。」
40歳以上のサバ読みだ。私ってそんなに小さい?確かに、小さくなっているような。でもって、肌がツルツルしてる。ああ鏡が欲しい。でも、二人とも孤児院に入れるなら御厄介になろう。
「二人一緒なら嬉しいです。」
(とりあえず誤魔化そう)
翔子は考える。カナを抱いて歩くとすぐ疲れてしまった。マックスにお嬢ちゃんと呼ばれ13歳未満と思われている。さらにマックスの馬にマックス、私とカナと三人で乗っている。大人が二人と子供一人では重量オーバーなのでは?乗る時に馬がすごく大きく感じた。馬の足にも身長が満たなかったのだ。カナは元のままだけど、私は幼くなってる?どうして???
そんなこんなで無事町に入れた。言葉も通じたし安心はしたが、ここは多分異世界だ。だって町までの道中、マックスが角のあるウサギとが牙が鋭い狼みたいなのを魔法で倒していた。スライムみたいなのもいた。翔子は魔物を口を開けて見ていたらしく、
「私は結構強いんだ。安心しろ。」
保護されて本当に良かった。マックスに会わなかったら、二人して魔物のエサになっていた。私の英断は吉だったわ。よかった。
町に着いたのは暗くなていた。マックスは偉い人のようで、
「この二人は街道で私が拾った。大人が近くにいなかったので保護した。お金も所持していないようなので、今夜は門で面倒を見てくれ。」
マックスは門の仮眠室で泊まれるよう手配してくれた。その上、パンとスープだけど、暖かい食事を他の人が持ってきてくれた。
嬉しい。本当に嬉しい。
思わず涙ぐんでいたら、頭を撫でられた。翔子は57歳の年を思い出したが、やっぱり私縮んでる。
そういえば、門兵さん達を見上げなければ話ができなかった。兵士さんの胸あたりが頭だったと思い出した。
確実に子供になっている。鏡が見たい。この国の人は巨人とかそんなことないよね。どうなってんだろう。
カナは食事をしている時も翔子にひっついている。時々、
「バアバだよね。」
確認している。外見が変わっても、バアバのことはわかるらしい。が、不安なのだろう。
「そうだよ。カナのバアバだよ。今夜は一緒に寝ようね。」
考えるのは明日だ。それに夢かも……。
ちょっと期待する翔子だった。
ドタドタ、ゴヤガヤ、・・・。
目が覚めた。疲れはなさそうだ。隣にカナもいる。期待は虚しかったけど、今日はどうなるのか考える。カナを守るんだ。
「おはようございます。」
「おはよう。まだ寝てて良かったのに、起こしたか。」
「いえ、おかげさまでお布団で寝ることができました。ありがとうございます。何かお手伝いできることはありますか。」
答えるバアバラに驚く顔をする。えっ、私が何かした?
「いや、小さいのにしっかりしてるなと思っただけだ。手伝いはないが自分のことは自分でしてくれ。井戸があるからそこで顔を洗ってくれ。」
突然カナの泣き声が響く。起きたようだ。カナの所に急ぐ。
「バアバ、バアバー。」
「バアバはいるよ。大丈夫、そばにいるよ。カナと一緒だよ。カナもバアバのそばにいてくれるんでしょ。」
「うん、バアバ大好き。」
「バアバも大好きよ。」
カナの泣き声を聞いて、様子を見に来ていた兵士たちは居たたまれない感じだ。たぶん親に捨てられた姉妹だと思っていそう。違うけど。本当のことを伝えても信じてもらえないと思うから、そうしておこう。
「カナ、井戸があるんだって、顔を洗いに行こう。」
「井戸?顔を洗う。」
手をつなぎ井戸に向かう。カナは初めて見る井戸に釘付けだ。つるべ式のロープに
「カナもヤル。」
楽しそうにしている。こういう事に少しずつ慣れないと、頑張ろう。
井戸の水はきれいだった。顔を洗ったらすっきりしたが、タオルが無いのに気づいた。周りを見たら、兵士たちは首を振って水気を払っていた。ここではタオルは無いのか?要確認だ。仕方がないので、服で拭いた。カナの分もだ、少し冷たかった。
服は、なぜだかこっちの仕様に代わっていた。考えても解らないので、考えないことにした。
兵士の皆さんにお礼を言って、孤児院を訪ねようとしたら、朝食が用意されていた。
「いっぱい食べろよ。」
うれしい。
昨日は色々ありすぎてあまり食べられずにすぐ眠ってしまった。屋根のした布団もあったので、安心してしまったようだ。
朝食はパンとスープ。パンは硬くてスープに浸して食べるようだ。カナはフウフウとパン粥を頬張っている。美味しくもなければまずくもないけど、温かいしお金を持っていないバーバラ達にはご馳走だ。カナもバーバラも完食した。
「「ごちそうさまでした。」」
食べ終わった頃、マックスが現れた。
「よう、食べ終わったか。じゃあ行くぞ。」
「おはようございます。でも、どこへ?」
「孤児院に行くんだろ。付き合うぞ。」
「ありがとうございます。皆さんにもお世話になりました。」
「ああ、元気でな。たまには遊びに来いよ。」
兵士さんの一人が声をかけてくれて、みんな笑顔で見送ってくれる。この街でやっていけそうだ、バーバラはちょっと安心する。隣でカナも頭を下げて手を振っている。その姿に皆がほっこりしている。
異世界に2日目はこうして始まった
読んでいただいて、ありがとうございます。




