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普通の兵士になりたかったのに、皇帝直属の隠密として帝国の闇を任されすぎている  作者: ネコミコズッキーニ
2章 手紙を受け取るだけの任務ですよね?

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第二皇子派との面談

 ガルフォード・ノーグレスト……いわゆる「第二皇子派」と呼ばれる貴族たちの筆頭である。


 彼はアイゼンブルク帝国の内政を司る〈内政卿〉であり、こと帝都内においては強大な影響力を持っていた。


 ガルフォードは第二皇子であるアシュレイを推しており、彼を次期皇帝にと望み、派閥を作るなど積極的に動いてきた。


 そんな彼からすれば、先日第一皇子と黒紋監察室のトップであるヴァネッサが接触したという出来事は、とても無視できない。


 そのためアシュレイに進言し、今日このタイミングであらためてヴァネッサとの面談を組んだ。ヴァネッサが面談を拒まなかった時点で、彼は安堵した……が。


(なぜ……紋影官がここに……!?)


 その場に現れたのはヴァネッサだけでなく、黒仮面を被った紋影官も一緒だった。


 紋影官……黒紋監察室に所属する異能持ちのエージェント。実力も高く、単独で人知れずさまざまな事件を大きくなる前に処理していると言われている者たち。


 彼らはどれほど強大な権力を有する貴族であっても、警戒せざるを得ない者たちだ。何しろ限定的とはいえ、皇帝直々に帝国法をも上回る権限を与えられているのだから。


(こ、皇宮に紋影官を連れ込むなど……! どういうつもりだ、ヴァネッサ……!?)


 黒紋監察室は秘密組織ではない……が、構成員含め実体はまったく掴めない組織だ。そして具体的に何を目的に活動している組織なのかもはっきりしていない。


 これまで紋影官が関与したとされる出来事を紐解くと、「たぶんこういうことをしているんだろう」と考えられるが、それはあくまで考察の域を出ない。


 どちらにせよ表舞台に立って動くような者たちでないのは明らかだ。


 この場に紋影官が現れたことにガルフォード含む貴族たちは思わず反応をしてしまうが、アシュレイ自身はとくに気にした様子を見せることはなかった。


「忙しいところすまないね。実は皆が、どうしてもきみに会っておいてほしいと言っていてね……」


「先日、わたしがジェイケル皇子と会談したからですね。その件ならご安心ください、内容は言えませんが世間話をしただけですので」


 さすがにヴァネッサも自分がなぜ面会を求められたのかは理解していた。


 そのうえでアシュレイと面談したことで、ガルフォードは彼女がまだどちらの陣営にも与していないと判断する。


「内容は言えないのかい?」


「ええ。ここでの話もあくまで世間話……ジェイケル皇子と距離の近い者に何を話したのか聞かれても、同じようにお答えしますよ」


 第一皇子と第二皇子、両方に会う目的はあくまで対外的に見たときのバランスを考えたに過ぎない。ヴァネッサははっきりとそう言わずとも、態度でそのことを示していた。


 2人の会話が続く中でも、ガルフォードはやはりヴァネッサの背後に立つ黒仮面の紋影官が気になって仕方がない。


 ある程度2人の会話が落ち着いたところで、ガルフォードは口を開く。


「ところでヴァネッサ殿。そちらの彼は紋影官だろう?」


「そうですが?」


「なぜここに連れてこられたのか教えてもらえるかな? 皆、さっきから黒紋監察室としての任務中なのかと気になっているようだ」


 まれに城内で紋影官を見かけることはあるが、積極的に彼らにコンタクトを取りに行く者たちは少ない。


 万が一何かの任務中であれば、相手には貴族の権威も法による秩序も関係なく動ける可能性があるからだ。


 極端な話、どれだけ白いものでも紋影官が「黒だ」と断ずれば、それは黒になってしまう。


 それほど強力な権限を野放しにするのは危険なので、実際には何らかの制限はあるだろうが……しかし皇帝やヴァネッサ以外で細かな事情を知る貴族はほぼいない。


 確かなことは、紋影官はだれもが怪物じみた実力者ということだ。その実力者がこうしてすぐ目の前にいるというのは、帝都で大きな権勢を誇るガルフォードとしても落ち着かないことだった。


「詳細はお教えできません。が、今の彼は任務中であるとは答えておきましょう」


「…………っ! そ、それは……」


 ヴァネッサの言葉に貴族たちが両目を大きく見開く。


 もしや第二皇子や自分たちの暗殺が目的か!? うかつだった、たしかに今は第二皇子派の主だった貴族たちが勢ぞろいしている……!


 とはほんの少し脳裏によぎったが、その可能性は限りなく低いとすぐに判断する。そもそも黒紋監察室は皇帝直属、紋影官が本当に暗殺に動くとなればそれは皇帝の意思ということになる。


 またガルフォードの知る限り、紋影官は帝国貴族の暗殺といった闇仕事には手を染めていない。


 彼らはあくまで人知れず事件を処理する者たち……と言われている。暗殺にはまた別の、その仕事に向いた者たちを雇うだろう。


(いかんな……ヴァネッサ1人ならともかく、紋影官がいることで無駄に緊張を強いられてしまっている……)


 そのためヴァネッサや紋影官の一挙手一投足でいちいちざわついてしまう。


 ガルフォードからすればヴァネッサを皇宮に呼び出したこの機会に、多少強引でも彼女との関係強化を図ろうと考えていた。


 だができない。任務中である紋影官の存在感があまりにも強すぎて、踏み込んだ発言をすることができないのだ。


 結局ヴァネッサはアシュレイと当たり障りのない世間話をした後、そのまま紋影官を連れて部屋から出ていってしまった。


 2人がいなくなったところで、アシュレイはガルフォードたちに視線を向ける。


「はは……まさか任務中の紋影官を連れてくるとはね」


「えぇ。こうも堂々と皇宮に連れ込んでくるとは……」


 黒紋監察室の内情については現状、具体的な情報がまったくない。


 アシュレイが皇帝になれば黒紋監察室は自然と彼の直属組織になるが、やはり前もっての調査自体は進めておくべきだろうか。


 そう考えたとき、ガルフォードは自派閥の貴族の1人を思い出す。ちょうどこの部屋にもいるので、ガルフォードはそのまま気になっていたことをたずねてみた。


「バルシア」


「はい、なんでしょうか」


 バルシアと呼ばれた男は腹が突き出ており、不健康な食生活が垣間見える外観をしていた。


 だが見た目に反して……いや、ある意味で見た目通りなのだが、彼は数多くいる貴族たちの中でも独特な行動力を持っている。


 他者に取り入るためなら積極的に動く男なのだが、そんな彼は黒仮面の紋影官に自ら話しかけるという行動を何度も取っていることで知られていた。


 まれにしか城内で見かけない紋影官だが、バルシアはそんな彼らを見つけた際には積極的に話しかけに行き、どうにか取り入ろうとするのだ。ある意味で紋影官と最も接触したことのある男と言える。


「ヴァネッサ室長の連れてきた紋影官だが……これまで話したり見たことはあるか?」


「んん……いや、ないですな。私も初めて見た男です」


 紋影官は黒仮面で素顔を隠しているとはいえ、体格や髪型など隠せない情報もある。


 外での任務ではフードを被って黒仮面をつけているのかもしれないが、城内では仮面こそ装着していてもフードは被っていないのだ。


「私がこれまで話しかけた紋影官は全部で4人……ですが、そのだれもが話しかけても無視するのです。まともに話せたことはありませんが、まぁなんにせよあの男はこれまで見たことないですなぁ」


「少なくとも黒紋監察室には5人の紋影官がいるということか……」


 ガルフォードはその立場もあり、これまで何度も強者と言われる者たちと会ったことがある。


 それこそ帝都で4人しかいないと言われる仙勁オーラレベル8の実力者とも面会したこともあるくらいだ。


 彼らからは確かに威風堂々とした圧倒的な存在感を感じた。だが先ほどの紋影官からはそうした強者が持つ圧みたいなものは微塵も感じなかった。


 だからこそより恐ろしい。そもそも“異能”というのは現在も解明されていない異能力だ。きっと仙勁オーラや魔術という力とはまた別種のものなのだろう。


 ここでアシュレイは手をパンと叩く。


「紋影官が気になるのは仕方がないが、今は“本来の”用件を済ませるとしよう」


「……そうですな」


 ヴァネッサとの面談はあくまでついでだ。この場にアシュレイ派閥の主要メンバーを違和感なく集めるための理由作りでもある。


「本題だが……聞かせてくれ、ガルフォード内政卿。なんでも次期皇帝を目指すうえで、取り込んでおいたほうがいい人物がいるという話だったね?」


「はい。2人いるのですが……おそらくその2人と円滑な関係を築ければ、飛び道具として役に立つやもしれません」


「飛び道具……?」


 つまり直接的でなく、間接的な手段ということだ。アシュレイ含め、そうした人物はだれも思い至らない。


「聞かせてくれ。その2人とは……?」


「第五皇女セレーネ様と第六皇女のアナスタシア様です」

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