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普通の兵士になりたかったのに、皇帝直属の隠密として帝国の闇を任されすぎている  作者: ネコミコズッキーニ
4章 学院で軽く調査するだけの任務ですよね?

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試される符丁 レオンとリック

 その男、リックはアストラ学院の巡回兵士として敷地内を歩いていた。


 しかし彼の本職は金でなんでもする傭兵。今は依頼人の要望でこうして巡回兵士として学院に潜入しているのだ。


「逃げ切れるかのリスクがヤベぇが、金払いはかなりのもんだったからなぁ……」


 今回はかなりの数の傭兵が雇われていると聞く。リック自身、戦場でもないのに……それも帝都のど真ん中で複数人の傭兵とともに行動するのは初めてとなる。


 与えられた命令はシンプルだ。今日の夕方に学院主導で講堂に生徒たちを集める。そこで自分たちは賊を装って襲撃をかけ、生徒や講師たちを一時的に講堂に監禁する。


 ここから先の詳細は聞かされていないが、どうやら帝都でかなりの騒動が起こるらしい。リックたちはそのどさくさに紛れて帝都から離れるようにと言われている。


「そういや一部の傭兵は違う仕事が与えられているって言ってたか」


 なんでも別の場所で陽動を起こし、そこにルーディンという講師を引き付ける役目があるのだとか。まぁ自分には関係のない話だ。


 講堂に生徒たちを集めるのは夕方。それまでにリックたちは、普通の巡回兵士たちを無効化するという仕事もある。


 だがすでに多くの傭兵が学院内にこうして潜入しているのだ、これもそう難しい話ではないだろう。


「お……」


 リックの前に1人の兵士が姿を見せる。この数日で少し話した間柄だ。名はたしか……レオン。


「今日は作戦決行日だからな……いちおう確認しておくか」


 リックたちも巡回兵士のだれが自分と同じ傭兵なのかは把握できていない。だが「こいつはおそらく傭兵だろう」とあたりをつけることは簡単だ。


 なぜならここ1ヶ月以内に新たに配属された兵士は、その全員が傭兵だからだ。


 学院長は「貴族子女の安全確保のため」と言って急遽巡回兵士の数を増やした。今年から生徒に皇女殿下がさらに1人増えたため、兵士の増員はあやしまれなかったのだとか。


 しかしそうして増員された兵士たちこそが、今回の作戦に雇われた傭兵である。レオンも数日前に入ってきたので、まず間違いなく目的を同じくする傭兵だろう。


「よぉレオン」


「あ……リック」


 だがわかっていても、確信はない。そこでこういうときに、相手が自分と同じ傭兵かどうかを確認する符丁が用意されていた。


 もう間もなく作戦決行のタイミングということで、リックは念のためレオンに符丁を試す。


「学院にいる弟の様子はどうだ?」


 これが最初の問いかけ。当然だが雇われた傭兵たちは学院に血縁者などいない。普通であれば「なんの話だ?」と返すだろう。


 だがレオンはそうではない答えを返す。


「弟? いや、学院に入学したのは妹だよ」


「…………!」


 一言一句違わぬ完璧な返しだ……! これこそが相手が同業者であると見極めるための第一の符丁。


 そもそも弟も妹も学院に入学しているはずがない。あらかじめ符丁だとわかっていなければ、この回答はどう考えても出てこないものなのだ。


 もう十分だとは思ったが、せっかくなので最後の問いかけも続ける。


「そうか。ところでこの学院、敷地が広すぎるよなぁ。道に迷ったらどうするよ」


「うん……? まぁ地図ならだいたい頭に入っているからな。迷う心配はないな」


「…………!」


 完璧だ。符丁なんてだいたいニュアンスさえ伝わればいいのだが、この男はまたしても一言一句違わぬ回答を返してみせた。


 もともとレオンは傭兵だと思ってはいたが、あらためて確認が取れたところでリックは笑みを浮かべる。


「いよいよもうすぐだな」


「ん……? なにが?」


「おいおい、余裕だな。頼むからヘマはしてくれるなよ?」


 しかしここでリックはある可能性に行き当たる。レオンは遅れて学院にやってきた。もしかしたら仕事の詳細までは聞いていない可能性もある。


 そして些細なすれ違いから、仲間に足を引っ張られるのはゴメンである。


「俺たち学院長に雇われた傭兵は、もう間もなく講堂に集まった生徒たちを監禁する役目が与えられているだろ? どうずらかるかが最後まで不透明なのはいただけなかったが、まぁそのぶんずいぶんと高額な報酬が用意されたからな……」


「…………………………ん?」


「そうそう、今回はずいぶんと仙勁オーラレベルの高い奴も雇われたという話だぜ。まさかレオンのことじゃないよなぁ?」


「…………………………んん?」


 今回の仕事を終えたら、リックは帝国から出て商売でも始めようと思っている。


 実際、かなりの報酬を得られるので、逃げることさえできれば悠々自適な生活を送れる可能性もあるだろう。


「俺、故郷に妹を残していてな。この仕事を終えた報酬で故郷に戻ったら、店をやりながら妹の面倒をみてやろうと思っているんだ」


「……はぁ」


「レオンはどうだ? 講堂に集まったガキどもを監禁しているだけで手に入る多額の報酬だ、いろいろ使い道とか考えているんだろ?」


 傭兵稼業はストライダーとはまた異なる過酷な仕事だ。よく似ていると言われる2つの職種だが、実際は傭兵のほうがハードである。


 ギルドで権益が守られているわけでもなく、金次第で文字通りなんでもやるのだ。一部のストライダーのような名誉もない……が、腕っぷしさえあれば十分な報酬を得ることができる。


「ま、まぁ……金の使い道を考えていないこともないけど……」


「お、いいじゃねぇか」


「その前に確認だけど、えぇと……学院長に雇われた俺たちは、今日どこで何をやるって?」


「おいおい、本当にだいじょうぶか? 夕方……まぁもうすぐだな。その時間に学生どもが講堂に集められるから、俺たちはそこで監禁を行う。ただ学院長はもちろんだが、講師のトラヴィンにも手を出すなよ。皇女どもはトラヴィンの管轄だからな」


「ほ、ほうほう……なるほど」


 こいつ、ヘマしないだろうな……? リックはレオンの反応を見て急に不安になってくる。


「……監禁している生徒たちにはとくに何もしない感じだっけか?」


「ああ。正確には生徒と講師だな。必要な生徒は皇女だけだから、余計な騒動に発展させる必要はないんだろ」


「あくまで本命は皇女ね……トラヴィンは皇女をどこに連れていくんだ?」


「さぁ? ……なんでそんなことを気にする?」


 ここに来てリックはレオンに対して違和感を覚える。符丁は完璧だったし疑うわけではないが、仕事内容の確認が少し細かいように感じたのだ。


 そもそもあそこまで符丁を一言一句違わぬ覚えているのだ、仕事内容だけ曖昧に覚えているというのも変な話である。


「あ、あぁ……なんというか、あれだよあれ。その……リックがどういう立場なのかな、と思ってさ……」


「ん……? あぁ、なるほどな。たしかに符丁に答えたのはレオンだし、試されたほうとしては俺のことが気になるのも当たり前か。安心しろ、俺もお前と同じく学院長に雇われた傭兵だ」


「あ……はい」


「これまでの話で俺の立場は証明できただろ? そら、さっさと行こうぜ」


 そう言うとリックはレオンに背を向ける。その直後、後頭部にドガッと衝撃が走り、そこで意識を失った。





「…………はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいいぃぃぃぃぃぃ!?」


 え、俺の知らないところで学院長による傭兵テロが起きそうになっていたんですけど……!?


 つかなに、こいつ!? なんで俺にペラペラと話しはじめたわけ!? 符丁がどうのとか言っていたけど、なんのことだかわかんねぇよ!?


「おおおお、落ち着け、俺……! まだこいつの話が本当だという証拠は……ダメだ、今から証拠探しとかやっている時間なんてねぇ! もう夕方じゃねぇか!」

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