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放浪の始まり 19 エザム

こうして多くの国と王族、貴族に商人を巻き込んだ騒動が幕を降ろした。

だが、密偵達が各地に散らばって捜査を続けている。

行方不明の被害者も見つかっていないし、貴族や戦士の中に姿を隠した者が何人もいる。

盗まれた金、金貨の数が合わないし、金貨をもっと溶かしたという証言も掴んでいる。


ムオイは、モリハンには渡らずドラウザに居た。

ムオイが今回の騒動でモリハンに渡れば、息子であるモリハンに迷惑をかける。

そう思っての事だ。

ムオイとて、長いドラーザの一生のうちファスタバを食った事がないとは言えないからだ。

多くの助命嘆願書が寄せられたが、封を切る事なく暖炉に焚べた。

今日は、ドラウナを相手に話しておきたい事があった。


「ワシにはどうしても、一人のドラーザの影が見える。

ワシの先輩であった、ベルナ王族の血をひいたエザム。

私の父。

つまり、お前の曽祖父ギルとアスアッド一世の時代に、隣国ペルナの王族として学園で学んだ。

私が新入生として入学した時には、三年で図書館に籠りっきりになっていた。

殆ど顔を見た事がない。

ベルナをアスアッドが攻めていた時代だ。

そういう、国や貴族間での諍いの感情を制限された学園での三年間だが、エザムはなんらかの方法で、その制御を逃れていたと思う。

知っての通り、アスアッドは我が一族でもある。

あの年、学園でエザムが憎むべき対象は、私とアスアッドの戦士だけだった。

こちらに向けられる目には、明らかに殺意が篭っていたよ。

卒業後、20年程してベルナの最後の王として即位した筈だが、アスアッドの軍にベルナが滅ぼされた時に奴だけ姿が無かった。

婚約者に婚約破棄を伝えて、もう覚悟していたんだろうな。

子供も居なかったはずだ。

他の王族は殺され、女子供は鱗を抜いてファスタバの中で暮らしていたが、どうしても長生きをするからドラーザと気付かれる。

追われている者は姿を隠すしか無い。

ファスタバの助けを借りれた間は良いが、助けてくれたファスタバは先に死んでいく。

そうなれば、次第にその助けは無くなリ孤立。

失意の中で、胸に剣を突き刺す者、川に身を投げる者が絶えなかった。

今でも、エザムの行方も分からない。

ワシより二歳歳上だから生きているだろう」

「そうですね。お祖父様はまだ120歳。お若いですから」

「そうだな。息子のモリハンが戦況報告と共に寮監に手紙を送ったそうだ。

その年の新入生に持たせてな。

『エザムは、どうしているか?』

とな。

寮監は返事をくれたよ。

『彼とも繋がらない。

鱗を抜いたのは解っているが、その後の動向が私達にも掴めない』

だが、私は感じるんだ。

あのエザムの視線を。

こうして、東の果てのドラウド国でも奴が見ている。

そんな気がしている。

それに、行方不明なのはエザムだけでは無い。

アスアッドが作った最初の、出来損ないの金貨の鋳型。

これを持ち込んだ商人マゴイ。

こやつも、行方不明になっている」

「マゴイは、鋳型を持ち逃げした商人ですよね」

「いつも、スカーフを巻いていたそうだ」

「もしかして、頸の鱗を見せない為ですか?」

「ワシもそう思っている。奴も鱗を抜いていると思う」

「マゴイは本名なのですか?」

「同じ名の戦士はいた。先程話したもう一人の奴が睨む相手。

アスアッドの戦士だった男だよ。

今思えばおかしな関係だ。

エザムが憎むのは、アスアッド王とそのアスアッドに仕えるマゴイ。

そして私だ。

だが、私とアスアッドは肉親でありながら諍いをしていた。

マゴイはエザムとの戦線には出ずにドラウザと戦う事を選んでいた。

エザムには、強敵はもう居なくなっていたからな。

好戦的なアスアッドの中でも最も、最前線に身を投じ最も強い相手に向かっていった。

うちの戦士長の父とは甥にあたる筈だ。

だから、彼も肉親との戦いを繰り広げていた。

戦士長の父とも、何度も戦ったそうだ。

ドラーザ同士の戦いは、どうしても打撃戦になる。

ウォーハンマー同士の戦いだ。

サイドウェポンとして、背中を守る為に細めのメイスを背負ったりしていた。

アスアッドの中でも、マゴイはこの二つの武器を使い完全に叩きのめすか、

相手のメインウェポンを破壊して置いて、

左腰に差したショートソードで相手の目を突く事を得意とした。

素早い動きで、同い年ながら学園の模擬戦では一度も勝てなかった。


アスアッドがベルナを滅ぼして領地を広げて五年。

ドラウザとアスアッドとの戦いが、本悪的な戦いに移行した初期の戦いだ。

私にとって本格的な戦闘はこれが初めてで、飛んでくる敵の中にマゴイを見た時には恐怖に震えた。

デカいウォーハンマーを、空中戦でも振り回して突っ込んでくる。

奴と正面切って戦うバカはいない。

華奢な(なり)ながら、歴戦の戦士でも歯が立たない。

私は、戦士長の父に押される様に逃げた。

私は、未だ即位前だったし、モリハンは未だ幼い。

それに、我々は勝つ事を求めていない。

いかに消耗する事なく撤退戦に持ち込むかだ。

ファスタバの民を守って、領地は奴らにくれてやる。

そう言う戦いをすると決めていた。

だが、空中で戦っては撤退戦を仕掛けている事が見えてしまう。

だから地上に降りてマゴイの一撃を受けた。

物凄い一撃だよ。

だが、私は覚えていた。

ニ撃目に見せる奴の癖を。

だから、学園ではあえてそのまま受けてウォーハンマーを落としていた。

この動きをすると奴は、右手を離して左手一本でウォーハンマーを逆手に振ってくる。

右手は左腰の剣に手が伸びる。

だから、同じ様にウォーハンマーを持つ手を緩めて見せた。

案の定だったよ。

私がウォーハンマーを完全に手放して剣を抜く。

それしか出来ない。

そう思っていたのさ。

だから、ウォーハンマーの先端の石突きを大地に突き刺し、その柄を体ごと押し込んだ。

ウォーハンマーを握って逆手に振って来た左手をウォーハンマーから弾き飛ばし、右手の剣を抜く事を防ぐ様にして胸の鱗にぶち当てた」

「それでは!体が痺れて動けなくなったマゴイを!」

「残念ながら、私も彼も転んでしまってな。

あっという間に、互いの兵に守られた。

戦士長の父上に守られながら空に逃げたよ。

トドメを刺さずに撤退した。

下を見ると青い顔をしたマゴイがいたよ。

息ができなくなるからな。

その時、戦士長の父が戦利品として持ち帰って来た奴のウォーハンマーは、ナルフトの城に置いてあるのを見ただろう?」

「はい。ですがマゴイの名は記されていませんでした。

【アスアッド最強の戦士から勝利】

でしたね」

「それ以来、私は前線には出して貰えなかった。

マゴイが執拗に狙って来たからね。

これを利用したのさ。

奴は、それ以来メイス2本を両手に握って戦う様になった。

よほど悔しかったんだろう。

私を捕らえて、愛着があるウォーハンマーを取り返したかったのかも知れない。

奴が、私を追って僅かな兵だけで突進してくる。

自然、後続は彼奴を追いかける事になる。

だから、私は西方から仕掛けてくる他国の兵に奴を押し付けた。

或いは、影武者を使って反転攻勢に見せかけて突っ込ませた」

ムオイは、指で広げた地図をなぞる。

そして、ある川の一点に指が止まった。

「此処を、知っているか?」

「はい。アスアッドとの国境を決めた場所ですね」

「イグニスという川だ」


「此処でも、戦闘が繰り広げられた。

私は、この戦いには出ていない。

川を挟めば戦いが長引く。

そう考えて、ファスタバを率いて先を急ぐ事に注力したんだ。

マゴイは此処での戦いの最中に、ファスタバの罠に嵌って水死した。

二本のメイスを握り締めて川に浮かんでいたそうだ。

だから、そのメイスの一本をむしり撮って帰ってきた」

「遺体は、そのままだったんですか?」

「アスアッドの抵抗が激しくなって、その場を離れたそうだ。

アスアッドの兵が、遺骸を持ち帰ったのかもしれん。

見当たらなかった」


「生きているんじゃ無いでしょうか?

罠に嵌って水死とは不自然です。

川ならば、海のど真ん中とは違い、足掻けば岸に近寄れます。

それに、溺れる者が動きを悪くするメイスを握ったままだとは思えません」

「う〜ん。そうなのだがな。

その後、戦で二本のメイスを使ったり、ウォーハンマーを器用に使い分ける戦士がいなかったんじゃよ。

それでも、ファスタバを護るのに勝った戦場から、逃げるしか無かったんじゃがなぁ」


「ファスタバを護る為の撤退戦ですか・・・・・

寮監も褒めていましたからね」

「何と?」

「陣地、領地は失っても、ファスタバの命と信頼を失わなかった。

対してアスアッドは、領地を得ても民の居ない不毛の地と恨みを買った」

「そうじゃな。

それでも、私は思う。

引かずアスアッドと戦っていればどうだったかと」

「その場合。

ドラーザの兵士が傷付きます。

勝ったとしても他国に狙われたでしょう。

今、モリハンが盟主で有るのは間違いなく、撤退して民を守ったからです。

アスアッドの王都と距離が取れたのも良かったと思います」

「なるほどな。

だからこそ、この狭いが豊かな島国を手に入れられた。

ワシは気に入っているよ此処での生活を」

「ありがとうございます。お祖父様」

「だが、気を抜くで無い。

豊かな場所は、他の者も欲しがる。

モリハンと共にファスタバとファスラーザを守ってやれ」

「解りました」


それから後。

祖母が急死した。

ナルフトとリシャルの間に産まれた息子 ハルドを抱いて海を見ながらあやしていた。

祖父を手招きしてハルドを抱かせた。

そして、自分の手を祖父に回してこう言った。

「あなたは長生きしてね。ドラウド」

それが最後の言葉。

祖母ミダイ100歳を越えたばかり。

ドラーザとしては、短い一生だった。


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