放浪の始まり 20 葬儀
しばらく空いてしまいました。
又、投稿を再開します。
Saka ジ
祖母ミダイ 享年102歳
あまりに早い死だった。
突然ではあったが、長男のモリハンが最後の別れを告げに一家を率いてドラウドへ渡って来た。
モリハン王も多忙な身。
そう長くは国を空ける訳にはいかない。
友好国から、そして今は冷戦状態にあるアスアッドからも使者が参列する。
ミダイは、アスアッドの貴族の娘。
実家を捨てての結婚。
ムオイが棺に横たわるミダイの鱗を抜き、医師が肺に穴を開けて埋葬する。
一緒に埋葬される二枚の青い鱗。
母マルシと祖母ルオの物だ。
裏には同じ様に、本を窓辺で読む姿が描かれていた。
こうして、三人で横に並ぶと良く似ている。
兼ねてからの約束通り、東の海を見下ろす丘に埋葬した。
これで、この島の土になれる。
近年、ミダイは体調が優れず、30ほど歳上の夫より先に生涯を終える事を確信して居た。
『この海を、私達の子孫が舵を取る新たな船が進むでしょう。私はその姿を見送り続けたい』
『ならば、私もその傍に並ぼう。待っていてくれるか?』
『えぇ、ドラウドを待つのは好きですよ。貴方は必ず来てくれますから』
早くから二人で埋葬される場所を決めていた。
ドラーザは、故人の胸の鱗を墓標代わりにする。
王族、貴族などは屋敷の廟に飾る。
故人の姿を描いて、その胸に実物の鱗を飾り付ける職人も居るほどだ。
だが、ミダイは廟に祀られる事を拒み、ムオイはミダイの鱗を常に身に着ける事を選んだ。
ゴンザの工房が鱗の加工を引き受け、裏にありし日の本を読むミダイの姿を描きいれた。
ミダイが、肌身離さずに持っていた二枚の鱗に、母と祖母の姿を書き入れさせた様に。
「苦しい時に、そばに居てやれなかったんだ。
せめて余生は、一緒に居てやりたい。
そう願って、この地に来たのだ。
これからも、一時でも離れたくない」
アスアッドが建国されて益々、ドラウド国との関係が悪化の一途を辿る頃。
50歳を越えようとするドラウドが、二十歳になったばかりのミダイを婚約者にした。
ファスタバの年齢では珍しい事だったが、ドラーザ、ファスラーザではごく普通の事。
ドラウドはファスタバに直せば30前になるし、ミダイも16を越えた程度なのだ。
これから10年ほど待てば、ミダイの身体も成熟して子を成せる。
この婚約は、アスアッドの武家貴族フォト家とロウベリア家に伝えられた。
ミダイの実家フォトでは、その様な娘は存在していないと言い切り、父親であるロウベリアに至っては殺す様にと言って来た。
更に悪質なのはアスアッド。
塩漬けにしたファスタバの肉を樽に詰めて祝いにと贈って来た。
ドラーザの貴族の古い慣わし。
やってくるだろうな。
そう思っていたが、やはりやってきた。
丁寧に弔ってやって【ファスタバ法】で死刑だと返事を返した。
入学して行く17歳のドラーザ達と入れ替わる様に、三年間を学園で過ごしたドラーザの若者が、学園からそれぞれの自宅や王城に帰ってくる。
武家貴族の娘、ロウベリア家の第三后の娘 ミダイも、その筈であったが夜になっても卒業の挨拶にも来ない。
翌朝、彼女が育ったフォト家に向かうも、こちらにも帰って来ていなかった。
慌てるロウベリアとフォト家の家人。
午後には、アスアッドの王城でドラーザの卒業を祝うパーティーが催しされる。
これは、卒業を祝うだけでは無く王城の幹部や就職先への挨拶も兼ねているし、女性は将来の婚約者としての顔見せと見合いを兼ねている。
ミダイも学園に入るまで全くと言って良い程、屋敷の外には出なかったが、
学園から帰ってきた卒業生が
『是非とも、妻にしたい。それ程美しい』
と、多くの貴族の息子が声を揃える。
その噂を聞いた高位の貴族も美しさと、その家柄から見合いの申し込みが来ている。
王家からも真っ先に、王城に連れてあがれと言われていた。
慌てて他の貴族の卒業生に聞いて回るが、ミダイは最後に岩に触れたらしく、どこへ消えたかハッキリとしなかった。
だが、庶民層の娘からミダイが緑の寮監と仲が良かったと聞いてロウベリアは気付く。
ドラウドの王城に向かったと・・・・・
祖父にあたるフォトの前当主を問いただす。
「マルシの遺言はなかったのか? マルシの母、お前の第ニ后ルオはどこへ消えた!」
「マルシの遺品は、ルオが管理して一切見せてもらっていません。
マルシにも、貴方が私どもの屋敷に帰してから会わせてくれませんでした。
あの娘が亡くなったのも、私は後で知ったのです。
ルオも出て行ったまま帰って来ておりません!
周囲には『エルベの山中の温泉に行く』
と言っておりましたが、まだ帰って来ていません」
「お前は馬鹿か! ルオはモリハンの乳母の共仕えであったろうが!
裏切られる前に、鱗を抜いてファスラーザにしておけば良かったものを!」
王太子ドラウドは、ミダイが入学する日。
一緒に学園に入学する貴族の娘に、ニ通の手紙を持たせて入学式に送り出した。
この娘も本好きで、王家の手伝いをしてくれる事になっていた。
彼女ならば、きっとあの娘も心を開いてくれる。
そう確信して手紙を託した。
そして、三年後。
ドラウドの王城に、アスアッドの貴族の娘が現れた。
ドラウドが夢に見るマルシのドレスを身にまとい、マルシと見間違えるほどの愛らしさで。
同時に旧エルベ国の東の間道を使って、ファスラーザの密偵と共にルオが王城でモリハンと再会した。
アスアッドの実家への帰還を拒み、ドラウドの王城に現れた敵国の貴族の娘。
それが、後に王妃となったミダイであった。
驚く貴族達。
きしゃな身体付き。
噂通り美しい娘。
ギルは客人として王城に住まわせる。
彼女の実家の事は良く知られていた。
フォト家。
アスアッドでも有名な【ロウベリア】の家臣。
勇猛果敢な武家の貴族の孫娘。
父親はロウベリア。
母親のマルシは、妊娠と同時に身体と精神を病み実家に帰された。
マルシはミダイが幼い頃に亡くなった。
マルシの母ルオは、ロウベリア家にミダイを帰さず彼女は祖母に育てられた。
17歳の秋。
ミダイは寮監の迎えを、母が残した荷物だけを握って迎えた。
母が身に付けていた衣服を『時代遅れ』と言われても身につけて、学園では図書館に引き篭もり日々を過ごして卒業の日を待った。
ドラウド達には、その姿が伝えられていた。
当然、ミダイの実家からは『アスアッドに帰せ』と言う。
家の恥だ。
だが返せば、間違いなく殺されるか、胸の鱗を抜かれてファスラーザとして暮らす事になろう。
ドラウドはミダイを王城の図書室に誘った。
多くの本が、ミダイを迎える。
「こんなに!本が! これ!学園の図書館にあった本と同じタイトルです。
まさか、本当に図書館の本を書き写したんですか?」
「ウチの決まりなんだ。
学園に行ったら、与えられた表に書かれた本を書き写す。
殆どが異国の農業や建築物、河川の保守・点検についての本になる。
後は医学書かな!
私も農業と漁業の本を、訳もわからずに書き写して来たよ。
ほら、ここだな」
ドラウドは、ギッシリと詰め込まれた本棚のひとつを指し示した。
「こんなに!
学園で、こんなに本を書き写していた人を見た事ありません。
私は、とにかく読む事だけを続けましたから!」
「だから、ウチの一族だけだ」
「でも、同じ王族から別れた筈なのに、アスアッドには図書室には殆ど本は置いてありません。
あったのは・・・・・幼児教育の本くらいでしょうか?」
「かもな。
アスアッド王。
私の大叔父にあたるが、彼の名は図書室のどの本にも記名が無かった」
「全部見たんですか?」
「父から言われたんだ。
戦う事になる王族の知識がどの程度かがわかる。
だから全ての記名表を調べろとね。
君に手紙を届けた彼女も、手隙の時は新しく追加された本を手に取り、王族と貴族の名前を書き写して来たよ。
その中にも、君を除いてはアスアッドの関係者は少なかった。
エルベの王族が、本をよく読んで居たのは驚きだった。
それを、書き写したのがこの表だ。
他の王族、貴族、戦士の名も調べたよ。
アスアッドの貴族、戦士達の読書した本の数は明らかに他の国の者より少ない」
「そんな事で、相手を知る事ができるんですね。
でも、良くそんな事を私に?」
「君も記名表を見て読んで回ったんだろう? マルシの名前を探して?」
「母を!覚えていて頂けたんですか?」
「私は、こうして王太子でありながら妻を持っていない。
【マルシ・フォト】
彼女を越える存在に、今まで巡り合って居ないからね」
「あ〜あ〜。お母様。
本当にドラウド様は、お母様の事を忘れずに居てくださいました!
それでは、ギル王の名で書かれたあの手紙。
『寮監に帰りたい場所を伝えてご覧』とだけ書かれたあの手紙」
「あぁ、私が書いた。寮監はこの星の事を考えてくれる者の願いは聞いてくれるからね。
マルシは、よく本を読み、いろんな産業について学ぶ娘だったよ。
ほら、ここに彼女が書き写した本が並べられている」
愛おしそうに、その背表紙を指すって一冊の本を抜き出しミダイに差し出した。
【製鉄】
そこには、間違い無く母マルシの名が刻まれていた。
記名の欄には数々の王の名とドラウドの名。
しかも何度も読み直しをしている。
学園に習い、本は貴重と持ち出しを禁じて本に記名してから司書の前で読む決まりだ。
今も、ギルの第二后が医学書に目を通して、こちらにチラリと視線を寄越して微笑んだ。
「私を支えてくれる武家貴族が教えてくれたんだ。
『妻にするなら彼女だ』と。
アスアッドの貴族の娘だと知っていた。
だが、彼女自身は【ファスタバ法】に賛同している事。
その為なら、家を出る事を厭わないと言い切っていた。
王族や貴族との食事は苦手なのか、パンだけを齧りながら本を読む。
私は、ひとつ下のその娘のために、緑の寮の食堂から皿を借りて外で食事を一緒にした。
父の勧めで緑の寮監と仲良くなったのも助けになったがね。
彼女も、ファスタバを食べてしまっていた。
身体が弱い孫を案じた祖母の気遣い。
今までとは違う柔らかい肉。
少し元気が出た。
肉も多く食べた。
『美味しいわ。何のお肉?』
と聞いて後悔した。
それ以来、ファスタバと遊べなくなった。
いやファスタバだけでは無くドラーザも・・・・
血に塗れた姿に見える。
そう言っていた。
そして、17になって自分の身体が両親や兄達、そして何と言っても、あの祖母と同じ竜人になるのが嫌だった」
ドラウドは、何かを思い出す様に窓の外を見る。
歪んだガラス窓越しに、外には少し雪が舞っていた。
それから、ドラウドはマルシに結婚を申し込んだ時の事をミダイに話して聞かせた。
マルシは、学園で鱗を抜く気で学園に入った。
部屋で休もうとしても、王族貴族の寮では竜人の姿になる貴族がいる。
それが、怖くて仕方がない。
もう無理だった。
遅くまで図書館に篭り、敷石の灯りを頼りに帰る。
その横をドラウドは歩いた。
時には図書館に泊まる。
『ファス。
私ね。夜はそんなに怖くないの。
夜はドラーザに合わなくて済むから。
我が家は戦闘系の貴族の家系。
余計にドラーザの姿でいようとする。
私は同じ様に身体が弱い母から産まれた。
母は怖かったそう
『赤ん坊が、あまりにも弱い様なら鱗を抜こう。
そして、食べてしまおう。
そうすれば、次の子は丈夫な子供が生まれる』
そう言う夫の母親。
ドラーザの共喰いの記憶が蘇ったそうよ」
頭を降り怖がるマルシ。
「だから私は嫁にはなれない。
母にもなれない。
そう言われた母の恐怖を思い出すの。
今、母は父が新しい妻をアスアッド王から与えられた事で、離れにファスラーザの家政婦と共に住んでいる。
きっと、その女性。
王が飽きたんでしょうね。
私は、ここを出る時に鱗を抜くわ。
ドラーザを捨てるわ」
ドラウドは泣きそうになっている彼女を抱きしめた。
「私は王になる。
全ての命を守る王に!だからお前を守る。
俺の妻になれ!
お前は、私が戦っている間。
ファスタバを守る事を考えてくれ。
土地を得たならファスタバと、どんな農業をすればいいか考えてくれ」
「どこへ? ファス。それよりもあなたは一体?」
緑の寮から食事を持ってくる農業技師だと思っていたのに?
だのに王になると言ったり、新しい土地だという」
ドラウドは、初めて自分の正体を明かす。
深い海の様な青い鱗に、マルシが見たこともない様な金の縁取り。
「あなたは王族?」
「あぁ、本当の名はドラウド・ファス。
本来ならばドラウド国では無くファス国なんだ。
だけど、私に新しい国を作れと、この名前を私に与えた。
重い足枷だ。
アスアッドとの骨肉の諍いと【ファスタバ法】を懸念して、婚約は全て取りやめになった。
私も、今までは相手を思い妻を娶る事は考えて居なかった。
だが、お前が居る。
私の求婚を受けて欲しい」
マルシはドラウドの求婚を受ける事にした。
だが、アスアッドに帰ってしまったマルシ。
母との別れだけはしておきたかった。
だが、マルシは母親と共に幽閉される。
同じ歳のアスアッドの貴族の子女が、ドラウドとの仲を密告した。
婚約が認められる訳も無く、無理矢理、婚姻を行わされて身体が幼いうちに娘を孕んでしまう。
その姿で実家に送り返された。
自分の姿を重ねるマルシの母親ルオ。
夫はロウベリアに逆らえず、ルオと同じ様な女に娘をしてしまった。
もう、夫とは一緒に居られない。
マルシと生まれたミダイと共に離れで暮らす。
食事はマルシの母親が、自ら市場に行き手に入れた食材で作り与える。
ミダイを外には出さない。
何をされるか解らない。
そして、ミダイが12の時に母は亡くなった。
父親で有るフォトには、その事を知らせなかった。
遺体はファスラーザの手で運び出されて海に流された。
鱗だけはミダイが持つ。
17になった有る夜の事。
祖母が秘密と決心を打ち明ける。
「今、アスアッドが勢力を拡大して、自分の本家で有るドラウドへ攻め込む準備をしている。
次代の王となるドラウド・ファスは、娘のマルシを愛し結婚を申し込んでくれた。
娘が嬉しそうにした姿は初めて見たわ。
だけど、翌日。
この家を、ロウベリアの軍が包囲した。
『王命に従いマルシを差し出せ!ドラウド国と繋がっているとの報告があがっている』
あの人はロウベリアに逆らえず、マルシを家の外に出した。
後は、解るわね?」
「はい。母から聞いています。
無理やりの婚姻。
そして、暴行。
身体も出来ていないのに私を身籠った。
アスアッド王の蔑んだ眼を忘れない。
そう母は言っていました。
ですが、私には罪はない。
私と同じ様に貴族寮には帰らず図書館で過ごしなさい。
きっと、緑の寮監が手を貸してくれる。
ドラウド王家からも何かの接触が有る。
だから、自分を信じて過ごしなさい。
間違っても鱗を抜いてはダメ。
ドラウドがきっと助けてくれる。
そう、言って聞かせてくれました」
「そう、解っていたのね。
私が、あの娘を送り出す時に心を決めて、この胸に剣を潜り込ませたら良かっただけなのに。
出来なかった。
今夜。寮監が迎えにきます。
夜ですから誰も止められません。
私も見送る事は出来ません。
これが、貴女と最後の語らいになるでしょう。
卒業の日に緑の寮監に、『ドラウドの王宮へ!』
と、お願いすれば。
この屋敷には帰ってこなくていい筈です。
マルシにも言っておいたのに・・・・・
だから、もうあなたはアスアッドに帰ってきてはダメ。
マルシの記名がある本を読んで、それを理解して。
きっとそれがあなたを、ドラウド国を助けるわ」
あの日、ファスの貴族の娘が寮監に渡した手紙。
緑の寮監に、ファスの王城で受け入れる事が書かれていた。
だが、ミダイはドラウドが必ず迎え入れてくれると母マルシから聞かされていた。
「ドラウド王家には、学園で過ごす間にする事があるの。
『図書館で本を書き写す事』
本の多くは持ち出しを禁止されていて、本が読みたければ図書館に泊まる事もできる。
学園の図書館。
ドラウド王家の図書室には、私が書き写した本がある筈よ。
きっと、あの人はその本を大事に読んで居てくれる。
そう思うと幸せなの。
ドラウドについて行きなさい。
ミダイ!」




