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精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~  作者: 忌野希和
6章 領地開発のすゝめ

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310話 birthday eve

 精力的に働いていると、あっという間に月日は流れた。

 シキの拡張画面に映るカウントダウンタイマーは24時間を切り、残り5時間弱となっている。


「シキく~ん、ハッピーバースデイ。プレゼントはわ・た・し」


「はいはい。5年後以降にもらうね」


「ふふん。言質取ったんだから」


 満面の笑みを浮かべるアリエと苦笑いのシキ。

 奇しくもシキの誕生日と、Break off Online 運営から連絡のあった新シナリオ〈外征輝星(がいせいきせい)たちの伝承詩(バラッド)〉は同じ日であった。


 明日から……というか数時間後には忙しくなる。

 というわけで誕生日の前祝いとしてささやかなパーティーを開いていた。


 会場はエアスト村の食堂。

 Break off Online 製の設備を〈ショップ〉から購入し設置しているので、ここだけは近代的な光景が広がっていた。 


 参加者はスプリガンたちで、大きな食卓テーブルには美味しそうな料理が並んでいる。

 セラを筆頭にしたお料理得意組が、腕によりをかけて作ったものだ。

 ちなみに得意組以外には、盛り付け組と食べるだけ組がある。


 通常の樹海防衛任務があるため全員集合はせず、交代でシキの誕生日を祝っていた。

 また誕生日を毎年祝うという風習はアトルランにないため、現地組は参加していない。

 現地組を交えて盛大に祝うのは、十五歳の成人した時だろう。


「身を差し出すのはプレゼントの前提条件として」


「前提なんだ」


 周囲で聞き耳を立てていた他のスプリガンたちの眼光が鋭くなる。

 まるで獲物を狙う狩人のよう。


 まぁ5年後のことはその時の自分がなんとかするだろう。

 シキは現実逃避した。

 一応5年後〈以降〉と予防線は張ってあるし……。


「他に欲しいものはありませんか? 御屋形様」


 グラスになみなみと注いだ赤ワインを傾けているスースがシキに尋ねる。

 アトルランに飲酒の年齢制限はないが、前世の倫理観も残っているため成人するまでは飲まないとシキは決めていた。


 だから俺の分も飲んでくれと言ったら、スースは何故かシキの歳の数だけボトルを開けると宣言。

 既に折り返し七本目のボトルに手を付けていた。


 とはいえスースは無理はしておらず、楽しみながら飲んでいるようだ。

 酒豪なので顔色はひとつも変わっていない。


 なお治療薬を使えばアルコールは分解できる。

 だから緊急出動になっても、換装式汎用人型機動兵(スプリガン)器を飲酒運転するようなことにはならない。


 そういえば前に二人でタクティス子爵領の冒険者ギルドを訪れた時も、現地の冒険者と飲み比べで無双してたなぁ。

 昔のことを思い出してシキは懐かしくなった。


「御屋形様?」


「ああごめん。欲しいものはこれといってないんだよなぁ。現状で満足してるから。ただ……」


「ただ?」


 シキの横に座り、しなだれかかってきているアリエが首を傾げた。

 こっちは一滴も飲んでないのに、酔ったようなとろんとした表情をしている。


 言い淀んだのは気恥ずかしいからだ。

 いずれにせよ激励はするつもりだったので、シキが意を決して口を開く。


「もうすぐ始まる外伝シナリオを、皆が無事に乗り越えて欲しいなぁと。つまり、あれだよ。勝利が欲しいなぁって」


「『!?』」


 この場とボイスチャットの向こう側の両方で、息を飲む音が聞こえる。

 食堂の様子は小型情報端末経由で防衛任務中のスプリガンと共有しているので、シキの声は届いていた。


「心得ました! 御屋形様。このスース、不撓不屈と一意専心を胸に、万里一空し至誠一貫を誓い、気魄一閃の志を以て外伝シナリオに挑む所存です!」


「なんて?」


「要するに頑張るってことよね~。お姉さんだって頑張っちゃうんだから」


 だん、と力強く立ち上がり、掲げた赤ワインを一気に飲み干すスース。

 それを見てアリエが頷いている。


『私もご主人様のためにがんばります!』


「お兄様に勝利を約束しましょう」


『メナスなんて全部蹴散らしてやるぜ』


「ん、まるくないし殲滅でおっけー」


「みんな……ありがとう。色々と対策はしたつもりだけど、本格的なシナリオは初めてだからね。どうなることやら」


 シキは改めて拡張画面のメニューにある【運営からのお知らせ】を確認する。




平素より弊社〈ストラクティア・インダストリー〉が構築する Break off Online をご利用いただきありがとうございます。

大変お待たせいたしました。

前回シナリオ〈第53次機棲骸冊封戦役〉の配信から基底現実時間にて早くも332年、ついに新シナリオが実装となります。

その名は〈外征輝星たちの伝承詩〉。

地球圏とは別の生命居住可能領域 (ハビタブルゾーン)にある惑星を舞台にして、スプリガンと機棲骸の新たなる戦いが始まります。

こちらは本編を離れ外伝となりますが、通常シナリオと変わらないボリュームでお届けしますので、奮ってご参加ください。




 この文面からして、これまでの332年間の戦いはシナリオとは無関係である。

 シキはウルティアが神託で視た魔王の情報を思い出す。


 瓦礫を寄せ集めて作ったようなその巨人は、掌からビームを放ち聖樹守りを一撃で倒してしまった。

 奴が〈無敗をもたらすもの〉ことムハイや亜神ベリーズ、それどころか宇宙空間で戦った外様の神〈暗黒龍〉より強い可能性もある。


 少なくともアトルランの皆には任せられない。

 神託の通り滅ぼされるだろう。


 だから魔王はスプリガンで対応し、それ以外のことに協力してもらうつもりである。

 具体的には防衛ラインのフォローだ。


 魔王との戦闘にスプリガンのリソースを割けば割くほど、樹海の防衛が手薄になる。

 樹海で魔王が暴れることによって、元々生息している魔獣が逃げ惑い、エンフィールド辺境伯領まで溢れる可能性もあるだろう。


 異世界あるあるのスタンピードだ。

 もしスタンピードが起きても対応できるよう、辺境伯の権限で冒険者ギルドには通達してある。


 好き勝手冒険していたランディたちも、今は辺境伯領に戻って待機してもらっていた。

 また聖樹守り、ガルム、ロジャー、シュヴァルツァ、捕まえて仲間にした獺祭爪獣(レイ・オッター)のレイにも樹海の治安維持に協力してもらう。


 準備万端だが、それでもシキは一抹の不安が拭えなかった。

 刻一刻と減るカウントダウンが、妙なプレッシャーを与えてくるのだ。


 シキが眉毛をハの字にしていると、膝元からオルティエがにゅっと生えてきた。

 彼女は空気中の分子で造形し投影された立体映像なので、幽霊のように物体をすり抜けるような動きも可能である。

 オルティエは悩めるシキの頬を両手で包み込むと、聖母のように微笑んだ。


「マスター、問題ありません。いざとなれば難易度を下げればよいのです」


「……なんて?」


「難易度です。シナリオはクリアするためにあるのですから、当然難易度調整も可能です。メニュー欄をご確認ください」


「そんなの………あ、あったわ。そっかぁ、難易度調整できるかぁ。もしかして今までも調整できた? いや、選択できないか」


「はい。残念ながら対象外でしたので」


「ふぅむ。でも新たな気付きを得たな。シナリオが始まる前に、改めて各種メニューを確認しておくか。難易度以外にも有効活用できるものがあるかもしれないし。気になる項目があったら解説してもらってもいい? オルティエ」


「はい、喜んで」


 こうしてシキはオルティエと Break off Online のシステムを確認しながら、十三歳の誕生日と外伝シナリオ〈外征輝星たちの伝承詩〉を迎えるのであった。

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― 新着の感想 ―
> 昔のことを思い出してシキは懐かしくなった。 第77話の件か…現在やっと第1話から1年経つかどうかという作中時期だけど、色々すごい事が起こりすぎてシキの感覚が麻痺しちゃってる感じだね。 > 勝利…
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