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精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~  作者: 忌野希和
5章 奈落にて星辰は揺蕩う

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254話 真っすぐいってぶっとばす

 オルティエがシキと合流する少し前。

 迷宮〈祖霊の渓〉の最奥では、偽物の祖龍とライカたちの激しい戦いが繰り広げられていた。


「ぐるるるるるる」


「シーちゃん、前に出すぎっ」


 シキが行方不明になりシアニスは冷静さを失っていた。

 いつもの屈託のない笑顔は消え去り、低く唸り声を上げながら片手剣で連撃を繰り出している。


 祖龍の左足の脛は斬り刻まれ、真っ黒い血が噴き出す。

 他のスプリガンも少なからず動揺していたが、シアニスの反応を見て逆に冷静さを取り戻した。


 その一方でシアニスと同様に暴走しようとしている者もいる。

 ライカだ。


 シキが消えてしまって深い絶望と悲しみ、そして怒りがこみ上げる。

 それは自身でもよくわからない、制御できない、初めての感情であった。


「あああああああ!」


 踏み込むと同時に魔術具である手甲の〈雷撃〉を開放する。

 首狩りの魔石に込められている魔力のすべてと、【風雷神の加護】による相乗効果(シナジー)によって、ライカは地上を走る稲妻と化した。


 耳をつんざく雷鳴と、網膜を焼く閃光。

 ライカの渾身の右ストレートが祖龍の右脛に突き刺さり、爆散。

 膝から下が消し飛ぶ。


 これにより両足に深手を負った祖龍であったが、転倒どころか体勢を崩すこともなかった。

 蝙蝠の翼をはためかせその場に留まると、何事もなかったかのように反撃する。


 鋭い爪の生えた腕が、全力攻撃の後で隙だらけのライカに振り下ろされた。

 ライカの攻撃が早すぎた故に、周囲のフォローが間に合わない。


「あ……」


「姫様ぁぁぁ!」


 呆然と見上げることしかできないライカ。

 生涯仕えると誓った主の死を目前にして、悲痛な声で叫ぶモア。


 ―――その時、不思議な事が起こった。


 祖龍の振り下ろした腕が音もなく千切れたのだ。

 狙いが逸れた爪はライカの頬を掠めて地面に突き刺さった。


「な、なんだ今のは」


 後方から見ていたカルナノーラが胡乱気に呟く。

 祖龍の腕を撃ち抜いたのは、〈SG-070 エイヴェ・サリア〉の装備するライフル〈LR-017 RHODES〉だ。


 上空から非表示状態で戦況を見守り、援護射撃を行ったのであった。

 一応これはシキがライカに渡した、《守護》の指輪による防御効果という設定になっている。

 事情を知らないカルナノーラからすれば、不可解な現象であったが。 


『シアニス、落ち着きなさい!』


「ルーちゃん、フォローおねがい!」


「うんっ」


 両足と片腕を破壊されても尚、祖龍の攻撃は止まらない。

 龍の顎を大きく開き口腔内が(あか)く光らせると、灼熱の吐息(ブレス)を放ってきた。


 これはようやく追いついたルミナが、タワーシールドを掲げて防いだ。

 吐息は溶岩の塊のような形状をしている。

 タワーシールドの表面で弾けると周囲に飛び散り、石畳の広範囲を焦がした。


「はいはい、みんなおちつく」


 リオンを瞬殺したエルが、気絶した彼の足を掴み引きずりながら登場する。

 スプリガンたちはそれを見て溜飲を下げ、他の面子は一国の王子への酷い扱いにぎょっとした。


 エルはリオンをぽいっと投げて祖龍戦に合流。

 何にせよこれがきっかけとなり、混乱していた場が落ち着きを取り戻す。


 それからは安定した戦いを繰り広げた。

 ルミナが最前線に立ち、シアニスとライカ、エルが隙を見て攻撃。


 モアとカルナノーラは後方支援。

 エキュースが全体を見て指揮を取る。


 祖龍は再生能力を持っていて、時間経過と共に四肢は元通りになっていた。


「このまま削り続けてくださいっ」


 エイヴェの出番もなく一進一退の攻防を繰り広げていたが、不意に祖龍の姿が揺らいだ。

 四肢や翼の先が崩れ、黒い霧に変化して霧散した。


 新手の攻撃かと思い皆が警戒する中、祖龍の体はどんどん崩れていく。

 やがて頭部以外は消失し、ギラついていた紅玉の眼も光を失う。


 最後に残ったのは頭蓋骨のような真っ白い塊だ。

 ぽてりと地面に落ちると転がってライカの足元までやってきた。


 頭蓋骨がもぞもぞと動き、丸めていた体を伸ばすと短い四肢と首が生える。

 潰れた大きな鼻と眠たげな大きな黒眼。


「っぷはぁ。やっと解放された!」


 それは頭蓋骨などではなく、真っ白い謎の生物であった。

 ライカが油断なく、甲高い声で喋ったそいつの腹を踏みつける。


「ぐぇ」

 

 続けて頭を潰そうと拳を振り上げると、そいつは焦った様子で命乞いを始めた。


「ちょ、待った。待つのだ。吾輩は悪い龍ではないのだ」


「龍? どこが? カバの子供じゃなくて?」


 拳を振り上げた姿勢のまま、ライカが首をかしげた。

 確かにそいつは龍と呼ぶにはずんぐりむっくりし過ぎている。


「なにおう! この鋭い爪にカッコいい翼が目に入らぬか」


「爪は爪でも蹄だね。あと翼はなくない?」


「見せる、見せるからこの足をどけるのだ」


 足の裏でじたばたしているそいつを暫く観察したライカは、脅威ではないと判断してから足を退ける。

 そいつはもたもたしながら体を起こすと、背中をライカに見せつけた。

 何の凹凸もない、つるりとした背中だ。


「翼なんてないよ」


「どうだこの神々しい神の神翼は……えっ?」


 器用に後足で立ち上がり、前足で背中をまさぐる……が届かない。

 それでも翼がないことはわかったようだ。


「くそう! 外様の奴に神力と一緒にもってかれたのだ!」


「で、君は一体何なの?」


 今度は四つん這いになってがくっと項垂れているそいつに、ライカが問いかける。


「おっとそういえばまだ名乗っていなかったのだ。聞いて驚け! 吾輩こそが本物の祖龍なのだっ!」


「みんな~」


「あっ、シキ!」


「ご主人様ーーーーーー!」


 丁度シキとオルティエが帰ってきた。

 巨大な玉座の後ろから顔を出したシキの胸元に、真っ先にシアニスが飛び込んだ。


「ご主人様。怪我はありませんか?」


「うん、大丈夫だよ。心配かけてごめん」


「うおおーーーい!吾輩の名乗りを最後まで聞くのだ!」


 全員からシカトされた自称本物の祖龍は、ひとり寂しく地団太を踏んでいた。

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