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魔王軍集結

「魔王様?」

 イリマが動かないゴランの顔色を窺う。暫くして、意を決したようにゴランは口を開いた。


「ゴランです。ゴラン・ザスタレス。それが私の名前です。今回は西の国の王女、キャロル・ペリアティの命で援軍として来ました」


「魔王様、それは一体──」

 ゴランは戸惑うウェイスに片手で待つように静止をかけた。


「ですので、顔を上げてください。言われのない功績で立てられることを私は望みません。──もし、再び私の力が必要になれば、その時は()()との約束通り、私は貴方方を率いて戦いましょう。それでも、今はその時ではない」

 ゴランに顔を上げるように言われた以上、彼らはそれに逆らう術を持たなかった。


「魔王様、我々は──」

 ゴランの言葉を聞き、尚も食い下がる意思を見せたアンナに、ゴランは柔和な笑みを浮かべた。


「私たちは共に魔族社会の繁栄を目指した同士であり、同じ死線をくぐり抜けて来た盟友です。思い出話を語らうくらいなら、喜んで付き合いましょう」

 今はそれで良いではないですか。そう締めくくったゴランは、部屋へと一歩踏み出した。


 少し意外そうにゴランの対応を見ていたリディアも、アルマと共に部屋へと入る。

 下は喧騒に包まれていてここの会話が聞かれていることはないだろうが、それでも早く防音の機能を持つ会議室に入った方が良いと判断した為だ。


「──ゴラン様。生前【アギテルシア】に選ばれ、《烈火のダヴィド》として微力ながら一軍の指揮と統治を務めさせて頂いておりました。今は《中央の影》のウェイス・ウィリアムとしてこの世に生を受けております」

 ウェイスの言葉に、ゴランは記憶を辿るように天を仰いた。


「知っています。──ただ、私の記憶と少し齟齬があるようだ」

「齟齬、でございますか?」

「はい。少なくても、私の記憶にあった貴方の活躍は決して“微力”などではなかった。今はその時ではありませんが、貴方の活躍にも期待しています」

「必ずや、ご期待に応えてみせます……!」

 普段冷静であるウェイスの瞳が、フードの下で烈火の如く煌めく。

 《中央の影》として無感情に仕事をこなす中で、ゲオギオスとの再会と誰よりも心待ちにしていた彼が、自身の存在意義を再確認した瞬間であった。


「元魔王軍《神速のアルキス》、デッド・ハンディラ。ここに」

「喋った……!」

 バートリーがつい声を上げる。パーティーメンバーとして長い付き合いのある彼女も、ついぞ彼が口を開くのを見たことがなかった。

 刹那、訝しむような視線をバートリーヘ送ったハンディラは、すぐゴランへと視線を戻す。


「はい。魔王軍最速であった貴方との再会に感謝を」

 ゴランは、ハンディラに対して多くの言葉が要らないことを知っていた。いつだってこの二人の関係は、成果と報酬という信頼によって成り立っていたからだ。


 ハンディラに続き、《中央の影》の一人であるモーザス・シトレイも名乗りを上げた。


◇ ◇ ◇


「それで、今回の首都(ペルシャン)防衛に関してですが……」

 一通り紹介の終わったところで、アンナがそう切り出した。


 言いながらも、彼女の視線はゴランへと向かっていた。

 前魔王である彼がこの場に現れたことで、バートリー以外のメンバーが魔王軍から構成された《中央の影》の指揮権を手放した方が良いのではないかと判断したからだ。


 この判断はゴランに気を遣ったというよりかは、彼らがゴランの指揮下で働きたがるであろうという彼女の予想からのものだった。


「作戦指揮は任せます。智将としての貴女の能力は知っていますし、私はあくまでも援軍ですから。──まさか、私の言葉でなければ動けない、なんてことは言わないですよね?」

 ゴランが彼らを見回すも、彼らの中にはゲオギオスの意見に異議を唱える者は出なかった。


「ところで、お二人に関してですが……」

 この二人にどこまで話すべきで、先までのやりとりをどう説明するべきか、それをアンナは推し量れずにいた。


 それなら、二人がいる時にゴランの正体に触れるべきではないことは明白だったが、それが叶うことがないことをアンナは理解していた。

 それだけウェイス──《烈火のダヴィド》が魔王ゲオギオスに心酔していることを知っていたからだ。


「えっと、私たちのことはお構いなく。私たちは何も聞いていませんので。席を外しても良いですが、私たちだけがここを離れるとルシェフ・ブラウンがそれを怪しむのではないか──と王女様から言われていますので」

 アルマは今思い出したかのように、口早にそう説明する。そこまで聞いたアンナは、安堵のため息を吐いた。


 アルマたちがルシェフたちと合流してまだ日が浅い頃。アルマが夕食後にゴランを連れて馬車を離れた時、いち早くルシェフが二人の元に飛んできた事をアルマは覚えていた。


「助かります。ところで──」

 ここに来て、アンナの視線が初めて正確にリディアを捉えた。

 リディア──正確にはその裏にいるであろう何者かの存在に、アンナは気づいていた。


「一援軍の身分で口を挟むのは申し訳ないですが、彼女についての言及は禁じます」

「……御心のままに」

 アンナはリディアの裏にいるであろう人物が故意に自分たちからゴランを遠ざけていたのではないか、という推論を立てていたが、ゲオギオスに止められた以上、アンナはその推論を胸の内に留めざるを得なかった。


◇ ◇ ◇


 まだ遠巻きであるが、索敵には既に二十前後の反応がある。どうやら、平均五人一組で行動しているようだ。

 住民の避難も既に済んでいるようで、国立図書館に多数人間の反応が確認できた。


「ねぇ、そういえば、何でクーデターなんて起きたの?」

「理由までは知らない。前に起きたときは、クーデターを裏で支援していたらしい北の国のギルドから、誰かの身柄を取り戻せなんて指令も出ていたらしいが、それが誰なのかもわからなかったからな……」

 確か、北の国の要人とかと聞いていたが、向こうは通称でしか語らなかったみたいで、名前すらわからなかったんだよな……。


「アメリア、今回の相手は多分ソロでも十分に戦えるが、相手の能力もわからないし、念のために二人で行動するぞ」

「わかった」

 アメリアは強い。だが、こんな勝って当たり前みたいな戦いで間違えて怪我をされても嫌なので、今回は二人で行動することにした。


 気配を消して敵へと接近し、敵がそれなりに近づいてきたところで、建物の影に隠れる。


 タイミングを合わせるため、隣の建物の影にいるアメリアに視線を送る。

 アメリアが小さく頷いたところで、指でカウントダウンを行い、ゼロになると同時に一斉に飛び出した。


「いt──」

「ユプシロン」

 俺たちの存在に気づいた男の一人が声をあげようとしたが、それよりも早く、彼らに一つの魔法を放つ。


 勿論、殺すつもりで放ったわけではない。生捕りにすることが可能なだけの戦力差だったからな。

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