能力制限
ダンジョンに入ってからここに来るまで戦闘がなかったから、アドルフも戦い足りなかったのかもしれないな。
念のために、【ロニギスメイシュ】だけ取り急ぎ付与しておく。
「ふむ」
アドルフは小さく頷くと、勢いそのままゴーレムの元へと駆ける。
「فساد!」
ゴーレムが雄叫びのようなものをあげ、アドルフを迎え撃とうとするが、ゴーレムの右腕を振り上げようとした時には、既にゴーレムは文字通り八つ裂きにされていた。
「فساد──‼︎」
八つ裂きにされたゴーレムの肉体の断片が、それぞれ欠損した部位を再生させながら、各々がコーラスのように雄叫びをあげる。
だが、彼らの再生は中途半端なままに終わり、指の欠けていたり、片足の無い状態までの再生しか出来ていないようだ。
水製のゴーレムは、再生力が自慢な個体が多いため、確実にアドルフが何らかの治癒阻害をしているのだろう。
俺たちはといえば、アドルフが複数に分裂したゴーレム相手どって縦横無尽に暴れまわっていたため、手を出さないでいた。
下手に手を出して巻き込まれても嫌だしな。
「アドルフ、核を潰してくれ!」
ゴーレム討伐は、核の破壊をするのが定石だったが、ゴーレムを八つ裂きに出来たのに何故か核を破壊しなかったアドルフにそう伝える。
「──なぁ、ルシェフ。この個体がどこまでの粘るか、少し興味がないか?」
斬られる度に数の増えるゴーレムをひたすら斬り裂き続けるアドルフが、ニヒルな笑みを浮かべる。
──こいつ、ゴーレムで遊んでやがる……!
結果的に、それから一分も経たずに床一面が水浸しになり、ゴーレムの姿は消えていた。
「次の階層に行くぞ」
ゴーレムの核を無造作にポケットへしまったアドルフが何処かつまらなそうに告げる。
核は傷が付いた途端に価値が暴落する品だから、もう少し丁重に扱って欲しいものだったが、彼が自力で手に入れたものだし、そこまで言うつもりはなかった。
その日の内に二階層目の探索まで終えた俺たちは、道中アメリアが偶然見つけた隠し部屋から、金貨のような金属を無数に手に入れていた。
金貨に記されている言語が俺たちの知っている言語ではなかったので、価値の程はわからないが、金属としての価値くらいはあるだろう。
翌日、朝食を済ませてから三層目の探索に取り掛かる。
三層目に入るなり、俺たちを待ち構えていたらしい蝙蝠の大群が奇襲をかけてきた。
「──っ!」
開幕飛び出したアドルフに遅れ、レオナが慌てたように【エルロン・スフィア】で周囲を覆い、陣地を形成する。
それと同時にニコが飛び出した。
「ふむ」
飛び出したニコと、何かに気づいて一人頷いたアドルフに【ロニギスメイシュ】をかけておき、俺も四人でアメリアと共に前線へ出ようとしたところで、異変に気づいた。
念のために後ろを振り返っても、そこに俺の姿はない。
……もしかして、この階層内では一部の能力が使えないのか?
「──え?」
能力が使えないのはオリビアも同じようで少し困惑している。
「オリビア、詠唱だ!この空間内は、恐らく一部の能力が使えない……!」
それだけ叫び、【四次元空間】から【アクワグラシェリア】を取り出そうとしたところで、【四次元空間】も使えなくなっていることに気づく。
「チッ!」
短く舌打ちをし、バッグから鉄製の剣を一本取り出すと、動き出したゴラン、アルマと共に【エルロン・スフィア】の外へ蝙蝠の討伐に出る。
俺たちが近接戦で蝙蝠の群れを減らしていく中、独自の魔方陣により詠唱を省略できるレオナが、【炎の弓】で高い位置の蝙蝠を射抜く。
火を恐れた蝙蝠たちが高度を下げてくれたお陰で、大分戦いやすくなっていた。
レオナに続き、リディアもどこからか大弓を取り出し、疎らに聳える柱の付近に隠れた蝙蝠を射抜いている。
リディアは能力を失うと一番困るのではないかと思われたが、どうやら他にも戦う手段を持ち合わせているようで、少し安心した。
「撃ちます!下がってください!」
詠唱を終わらせたらしいオリビアが叫び、俺たちがその場を離れたところで、オリビアが六十前後の光球体を放つ。
軌道までは扱いきれないようだが、撃てば当たると判断したんだろう。
「わぁ……!」
オリビアの魔法を始めて間近で見たアルマが、目をキラキラとさせながら、それに魅入っていた。
先の階層でもアドルフが暴れているだけだったし、ここまでの道のりで大した戦闘もなかったため、そういえば、アルマがオリビアの本格的な魔法を見るのは初めてだったな。
一割ほどの蝙蝠が生き残っていたが、それらは危なげなく仕留めることができた。
「リディア?」
戦闘が終わり、大弓を地面に置いて祈っていたリディアに声をかけた。
「少しだけ、時間を頂戴?もしかしたら、アーカム様と連絡が取れるかもしれないから」
「わかった」
彼女の言う通り少しだけ待ってみることにする。ダンジョンを探索するにあたって、リディアの能力の有無は重要だしな。
リディアを待つ中、俺も【アクワグラシェリア】等の一部アイテムを【四次元空間】から引き出す必要があったので、それとなくいなくなることを伝えて門を潜り、【四次元空間】にあったアイテムの一部をバッグへと移してから彼らの元に戻った。
全員が静かに見守る中、目を閉じて祈りを捧げていたリディアが目を開き、そっと立ち上がる。
「どうだった?」
「何とかアーカム様と連絡が取れたよ。妨害が激しいけど、集中すれば天啓も使えそう」
「なら、良かった」
理由まではわからないが、【天啓】が使えることの確認が取れたところで、ダンジョンを進む。
初めの内は【天啓】で進路の確認をとっていたが、【天啓】は使うまでに時間がかかることと、リディアの負担が大きくなるため、進路を確認するために【天啓】を使うことはせず、別れ道に来たところで、アドルフ、アメリア、ニコ、レオナと、俺、オリビア、アルマ、ゴラン、リディアの二組に別れて探索を続けることにした。




