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トラウマ

 メルゼブルグに着くなり、真っ先にウィルの店を訪ねた。東の国に行く前に、彼に問い詰めなければならないことがあったからだ。


「ようルシェフ。久しぶ──」

 店に着くなり、問答無用でウィルの首根っこを掴み上げる。


「ルシェフ──⁉︎」

「ぉ、おい、何のつもりだ……!」

 止めに入ろうとするアメリアを片手で制止し、ウィルを睨む。彼の表情を見る限り、この状況に至る原因に心当たりがあるのだろう。


「知ってることを全て話せ。もし、拒むのなら……!」

「そこまで」

 ウィルの首を掴む腕に少し痛みが走り、彼の首から手を離してしまう。


「何のつもりだ──ニコ」

「今のルシェフ、様子が変」

「……」

 一度呼吸を深くする。自分でも気をつけているつもりだったが、あの頃の事が絡むと、どうしても普段抑えている“俺”の抑制ができなくなることがあった。

 ニコの手刀によって手を離してしまっていたが、彼女にはそれができるだけの腕力はないし、痛みも少ない。

 【狩人の心得】を持つ彼女だからこそできた芸当だろう。


「悪い……」

「謝るなら、彼に」

「……悪かったな、ウィル」

「別に構わねぇ。一発殴られるくらいは覚悟してたからな」


「それで、何が聞きたいんだ?」

 何が聞きたいか、なんてウィルもわかっている筈だ。それでもそれを確認するのは、何か隠したい情報もあるからなのだろう。

 少し質問を考える必要がありそうだ。


「今まで作った魔剣(レプリカ)についてだ。誰の依頼で何をどれくらい作った」

「数が多すぎて覚えてねぇ」

 あくまで白をきるつもりなのか……。


「ウィル──!」

「私の依頼です。数は十本程」

 再びウィルに迫ろうとしたその時、背後から鈴の音のような声が聞こえた。同時に、あまり気付きたくなかった“圧”の存在に気づく。


「王女……」

 振り返ると、彼女の前に立ち塞がるアドルフと目があった。

 アドルフは既に自身の愛剣を構えており、求めていた戦いに対する高揚感が彼の圧から感じ取れてしまう。


 間違えても、彼は本心からキャロルの身を案じて彼女の前にいるわけではないだろう。彼にとっては、キャロルの存在自体も戦い(ゲーム)一部(ルール)でしかないのだ。


「剣を納めろ、アドルフ。争うつもりはない」

「ようやく役者(プレイヤー)が揃った。──今なら問題あるまい?」

 アドルフはニヒルな笑みを浮かべる。彼の口調から、まるでオリビアの正体を察しているのかと疑ってしまう。


 オリビアがいれば、瀕死程度の傷は難なく治せる事をアドルフは知っているのだ。だからといって、こんなところで戦闘を始めたら後でウィルに怒られるだろうが。


「問題はあります。剣を納めなさい」

「──」

 キャロルの言葉を待っていたかのように、アドルフはニヒルな笑みを崩す事なく剣を納めた。


「件の魔剣については、食事でもしながら話しましょう。──これも何かの縁ですから」

 一切の邪気も見えない作り笑いを浮かべたキャロルの視線が、カールへと向かう。

 理由はわからないが、どうやらキャロルの目的は彼のようだ。


 それぞれの読みようがない思惑が錯綜するこの状況も、彼女の周囲では日常茶飯事だった。


「それでは、アリオンの店を一つ貸し切っていますので……」

「──待ってください!」

 キャロルの言葉を遮るように、オリビアが声を上げた。


「何でしょう?」

「一箇所、どうしても寄りたい場所があるんです」

 涙声で懇願するオリビアに、キャロルは柔和な笑みで返した。


「構いません。──()()()()()()()()()()。現場まではアドルフに送らせます」

 キャロルの意味ありげな言葉をオリビアが疑問にもった様子はない。それほどオリビアにとって大事な用事なのだろう。


「行き先は何処だ?」

「ソクネ霊園までお願いします」

「そうか」

 アドルフの返事と共に、オリビアに袖を掴まれた。


「ブラウンさん──その、一緒に来てもらっても良いですか?」

「わかった。──行ってくるよ」

 不安げに見つめてくるレオナの頭を軽く撫でる。彼女の傍には未だに護衛依頼の解約をされていないニコがいるから、心配はいらないだろう。


「──アドルフ、さん」

「なんだ?」

 レオナの言葉にアドルフが立ち止まる。


「──」

 彼の元に歩み寄ったレオナが彼に耳打ちで何かを伝えている。何を話しているのかは聞こえないが、何故かアドルフは不穏な笑みを浮かべていた。


 二人の話が終わったところで、アドルフの転移でソクネ霊園まで移動する。

 アドルフを始め、鈴木剛や上山湊、なんかの一部転生者は大抵この転移が使えるらしい。


 全く羨ましい限りだったが、俺が本当に望めばキャロルは転移用に人を寄越してくれることも知っていた。まぁ、それを理由に彼女の元で働く気はなかったが。


「半刻後に迎えにくる」

 それだけ言うと、アドルフはウィルの店へと戻っていった。

 正直、三人だけになったらいきなり斬りかかってくるくらいのことは覚悟していたが、彼にその気は無いようだった。


「──それで、あんな演技までして二人きりになりたかった理由はなんなんだ?」

「久しぶりの再会なので、積もる話があっただけです」

 悲しげな表情をしていたオリビアは、先程までとは打って代わり、平坦な声でそう告げた。


 彼女も別に父親の死に何も思っていないわけではないだろう。

 感傷に浸っていられる程余裕がある世界に彼女(セレイナ)が身を置いていなかっただけの話だ。


「安心してください。話が終わったら彼女と代わります。──別れを済ませるべきは私ではありませんから」

「話って言うのは?」

「まずはこれを」

 オリビアがバッグから何やら一つの剣を取り出した。


「何処で、これを……!」

 彼女の取り出した剣を受け取り、そう尋ねる。剣を手に取るのと同時に、背中を嫌な汗が流れた。心臓が痛いくらいに鼓動を刻み、目の前の剣を直視することを拒むように視界が眩む。


「──そういうこと、でしたか」

 俺の異変に気づいたオリビアが俺の額に手を当てる。同時に視界が戻り、呼吸も落ち着いてきた。

 手から落とすように【四次元空間】に聖剣をしまう。


 一体何故彼女が【聖剣ダインスレイヴ】を持っていたのかはわからないが、【四次元空間】になかったということは、()()()()()()なんだろう。


「オリビア──」

「今はセレイナと呼んで下さい。貴方なら、きっと私と彼女(オリビア)の違いもわかるでしょうから」

「わかった」

 彼女がそう望むのなら、そうさせてもらおう。俺自身も、二人の分別を上手くつけられる自信がないからな。


「時間もありません。歩きながら話しましょうか」

 セレイナは迷うことなく霊園を進む。彼女はオリビアの記憶もしっかりと保有しているのだろう。

 多分、オリビアが無意識に忘れようとしていた記憶も含めて。

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