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シルウォルト・フリエンセ

「っ!」

 少し体勢を崩した俺をカバーするために、フレディが前に出た。


「悪い!」

「気にすんな!」

 俺の頭上から迫る巨剣をフレディが弾き返したところで俺が繰り出し、攻撃はもう片方の巨剣で防がれるものの、フレディが無防備になったスケルトン・ナイトの頭蓋めがけて力一杯に斧を振り下ろす。


 それから間を置かずに、スケルトン・ナイトの体は灰になって消えた。


「ブラウンさん、不味いです!」

 スケルトン・ナイトを倒してからすぐ、オリビアが慌てたようにそう叫ぶ。

 俺がどうしたのかを聞くよりも早く、俺の索敵にも無数の反応が出る。


「すぐに退くぞ!」

 慌ててそう叫び、スケルトン・ナイトの魔石と消えずに残った“割れた大盾”を【四次元空間】にしまい、竜化したフレディに乗って、取り急ぎ三層への門を目指す。


 オリビアたちは、竜化しているジャックさんが乗せてくれていたので、向こうは大丈夫だろう。獣人の勘でも働いたのか、ニコも既にジャックさんの背中に飛び乗ってたしな。


 奴等がかなりの速度で移動していることもあり、索敵に反応があった奴等の姿を視認することが出来るようになる。

 よくよく見ると、スカルドラゴンに乗ったスケルトン・ライダーを筆頭に、複数のスケルトン・ナイトやスケルトン・ジェネラル、スカル・ロードの姿まであった。

 勿論、その全てが黒色変異種である。


 スケルトン・ライダーやスケルトン・ジェネラル、スカルロードは、カルレランでは今まで確認されていない。ここにきて一つ嫌な推論が浮かんでしまったが、それについては考えないことにする。今は逃げるのが最優先だからな。

 ──まさか、あのスケルトン・ナイトが、斥候や時間稼ぎとしての役割しか持っていなかったなんて考えたくない。


 無事に三層に続く門を潜った俺たちは、そのまま脇目も振らずに二層へ続く門を目指す。


「“変なの”が来ます!数七体です」

「足止めはするから、止めお願い」

「わかりました!」

 ニコがジャックさんから飛び降りたので、彼女に【ロニゲスメイシュ】を掛け直す。


 オリビアのいう“変なの”というのは、今俺の視界にも入ってきたスケルトン系統の魔物の事だ。

 恐らく、スカルビーストの変異種だと思われるが、何故か合成獣(キマイラ)の骨組みだけみたいな姿をしている。カルレランでは勿論のこと、他のダンジョン含めて俺の知る限り初めて見る魔物だった。


「مرحبا هناك!مع السلام‼︎」

 “変なの”たちは雄叫びをあげると、前方の三体が一斉に火属性の吐息を放とうとする。が、実際に放てたのは一匹だけだ。ニコはそれを悠然と避け、“変なの”との距離を詰める。

 何があったのか視認することは出来なかったが、“変なの”の喉元にナイフが刺さっている事から、ニコが吐息の発動を阻害したと見て間違いないだろう。


「撃ちます!」

 ニコが“変なの”の眼前に辿り着く頃には、大物が狩れると、嬉々とした表情の《戦慄の魔女》が【戦慄の光球体】を四重で発動させ、計八十の光球体が放たれた。


 七体に囲まれているということもあり、ニコは無理に“変なの”を倒そうとはせず、回避に専念する。


「えいっ」

 その合間に、【旋律の光球体】よりも一回り小さい球体を自身のバッグから取り出し、それを“変なの”めがけて投げる。


「حب!」

 ニコの投げた球体が着弾と同時に破裂し、黄緑色の液体が絵の具のように飛び散る。今ニコが投げたのは、彼女特性の塗料玉(マーキングボール)だ。


 【戦慄の光球体】が着弾する前にニコも戦線を離脱する。

 彼女から嫌がらせのようにカラフルな絵の具まみれにされた、先頭にいる“変なの”の弱点を見た【戦慄の魔女】の光球体が、彼らの弱点を寸分違わずに貫く。

 そして、残りの光球体がだめ押しとばかりに“変なの”を蜂の巣にした。


 どさくさに紛れてしっかりと魔石を回収したニコがジャックさんに飛び乗り、無事に第二層へと続く門を潜った俺たちは、そのまま第一層を目指す。

 第二層まで来れば敵も大分弱くなるので、敵と遭遇しても足を止めずにジャックさんとフレディが吐息で倒しながら進む。


「敵、来ます!数は沢山です!」

 オリビアの声が届いてからすぐに俺の索敵にも反応がある。相手はスケルトンやスケルトン・ソルジャーだったが、今反応があるだけでも、優に二百は越えている。


 ヤバイな……。後ろからは、五十以上のスカルライダーが迫ってきている。彼らの相手をしていたら、スケルトン・ジェネラルやスカルロードも間違いなく追い付いてくるだろう。


「ブラウンさん、もっと近くに来てください!」

 先行するジャックさんに乗っているオリビアが、少し慌てた様子で叫ぶ。


「わかった!」

smr(スメラ) abel(アベル) {wer(ウェア) ard(アード) nde(ノーデ)}-mgi(メギ) sh-wo-de(スワデ)……」

 それからすぐ、静かに唱うようにして紡がれた詠唱を聞いて目を見開く。この声は──レオナか。彼女の足元には、久しく見なかった三種の魔方円が展開していた。


「フレディ、ギリギリまでジャックさんに近づいてくれ‼︎」

「わかってるよ!」

 念のためにレオナの詠唱を解読していた俺が慌ててそう叫ぶと、フレディも急いでジャックさんの横に並ぶ。


 あの詠唱は、俺が勇者と呼ばれていた時代にこことは異なる世界で使われていたもので、今は失われてしまった先人たちの叡智の結晶だ。

 何故レオナがあの世界の知識を持っているのかは知らないが、この詠唱式には心当たりがある。


 そしてその心当たりが正しければ、この魔法は非常に不味いやつだ。

 現に、周囲の気温は急激に下がっており、空には暗雲が立ち込み始め、唯一の光源である、空にあった紅い双月の怪しげな月光を遮っていた。


 今レオナが詠唱しているのは、俺が知るなかで最も広範囲に破滅をもたらす魔法、所謂対軍用の広域殲滅魔法だ。

 その中でも、この魔法は当時俺のパーティーメンバーであり、【魔杖ラプシヌクル】に選ばれた少女、“泡沫の君”が得意としていたものだ。心なしか、詠唱の仕方も彼女に似ている気がする。


 これは時代背景を鑑みるとまずあり得ない話だが、レオナないし彼女の親族──この場合は恐らく《厄災の魔女》経由と見るべきか。

 件の魔女と“泡沫の君”との接触があったのかもしれないな……。その時に得た知識が秘密裏に口伝で伝えられ、数万年の時を越えてレオナにまで伝承された可能性がある。

 北の国(ノースランド)に異界との交流が記載された古文書が見つかっている程度だし、まずあり得ない話なのだが、泡沫の君自体が神出鬼没な人物であったため、絶対にないとも言えなかった。


 っと、少し物思いに耽ってしまっていたみたいだ。慌てて思考の海から這い出る。

 今は取り急ぎ安全を確保する必要があるだろう。

 レオナの【エルロン・スフィア】を模倣した防御壁をジャックさんとフレディを覆える大きさで作り、身の安全を確保する。


 案の定、防御壁(スフィア)で安全を確保してからすぐに(ひょう)が降り始める。雹の勢いは止まることなく、むしろ段々と勢いづいてきていた。


「ブラウンさん、これって……」

 この世界の詠唱ではあり得ない精霊の反応と聞き慣れないレオナの言語に怯え、寒さも相まってか少し震えているオリビアが不安そうにそう尋ねてくる。


「大丈夫、この中は安全だ」

「はい……」

 尚も不安そうなオリビアが心配だったので、ジャックさんの方に飛び移る。


「失礼します」

 そう言ってから彼女の元へ向かい、【四次元空間】からフラッフィーベアの毛皮で作られたコートを取り出してオリビアに羽織らせた。


「ありがとうございます」

 それからすぐ、オリビアがそっと肩を寄せてくる。

 ニコは俺の反対からそっとオリビアに寄り添った。オリビアの事を心配してかとも思ったが、彼女もカタカタと震えている事から、単に暖を取りにきただけのようだ。


「私も交ぜて!」

「ぐふっ……」

 俺たちの様子を見ていたアメリアが、好機とばかりにニコに抱きついた。

 アメリアの場合は暖を取りにきたというよりかは、ニコ毛並みに触れたかっただけだろう。


 もう暫くこの寒さは続くので、【四次元空間】から複数の香辛料を調合して作られたスパイスドリンクと人数分カップを取り出す。

 スパイスドリンク程の効果はないが、ジャックさんとフレディには耐寒の魔法をかけておいた。


「ニコ、辛いけど平気か?」

 よほど寒さが堪えているのか、少し青い顔をしているニコが、辛いものが苦手なのにも関わらず勢いよく頷く。

 そして、案の定ニコはホットドリンクをチビチビと飲みながら目尻に涙を溜めていた。


 こうして俺たちが暖をとっている間もレオナの詠唱は途切れることはなく、そのまま詠唱の締めの言葉が紡がれた。


「──シルウォルト・フリエンセ」

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