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オリビア包囲網

「よぉ、兄ちゃん。忙しそうじゃねぇか」

 憲兵たちから逃げる俺たちの前に立ちはだかる、数人の男のなかの一人、カニ男が下衆な笑みを浮かべながら話しかけてくる。


「そうだ。見ての通り忙しいんだ。用件なら後にしてくれないか?」

「そんな態度とってて良いのか?今の俺たちには、あの《ブラッディ・シュリンプ》がついてんだ。あのときの俺たちと一緒にしてもらっちゃあ困るぜ」

 あのって、どのだよ。

 取り敢えず、言われてカニ男の指す方を見ると、腰に上等な鞘を差すやせ形の男の姿を確認できる。

 やせ形の男の方は、俺の事など存在しないかのように、オリビアの方に情熱的な視線を向けていた。


「何だ、蟹の次は海老か?仕方ないな。レオナ、一回降ろすぞ」

「……」

 複雑そうな表情をしたレオナを一度降ろし、彼らと向き合う。

 それにしても、蟹の次は海老か…。海老食いたいなんて、滅多なことは考えるものではなかったな。


 蟹に海老までいるとなると、そのうち二つ名持ちだけでフルコースができそうだな──いや、この思考は危険だ。やめておこう。


「ブラウンさん。あの人、ちょっと怖いです……」

 やせ形の男、エビ男の視線に気づいたオリビアが、少し怯えるように俺の後ろに身を隠す。


「男、お前に用はない。そこを退いてもらおうか」

「退くわけないだろ。怖がっているのが見て分からないのか?お前こそ、すぐに立ち去れ」

「……」

 エビ男からブチブチと血管が浮き出る音が聞こえる。

 多少の使い手であることが窺えたし、少しは話せる奴だと思って説得を試みたが、どうやら悪戯に時間を浪費しただけみたいだ。


「シルフィ」

「良いから退けって言っているだろ──ぷぎっ!」

 発狂したエビ男が斬りかかってきたところで、男が吹き飛ばされて俺たちの前方にある八百屋に盛大に突っ込む。

 勿論、俺は何もしていない。

 やたらと機嫌の悪そうなレオナが、エビ男を吹き飛ばしただけだ。


「コバヤシーー‼︎」

 エビ男が八百屋に突っ込んだことを理解したカニ男が、何やら叫びながら慌てて八百屋の方へと向かう。


「邪魔、退()いて」

 まだ数人の男がこの場にいたが、レオナがドスの利いた声でそう言うと、彼らも逃げるように八百屋の方へと向かっていった。


「」

「ルシェフさん」

 俺とオリビアが状況を理解できずに唖然としていると、レオナが俺の名を呼び、物欲しそうな視線を送ってきた。


「いたぞ!」

 声が聞こえて後ろを見ると、ずっと俺たちを探していたと見える憲兵がこちらへと駆け寄ってきたので、慌ててレオナを抱えて逃げることにする。

 レオナを抱えると、彼女は甘えるように腕を回してきた。

 さっきはやたら機嫌が悪そうに見えたが、気のせいだったのだろうか?


「おっと、こっから先は通行止めだぜ?」

 さらに次の曲がり角を曲がった先で、ヘレンが不敵な笑み浮かべながら槍を構えてくる。

 後方からは三人ほどの憲兵がこちらに駆け寄ってきていた。


「オリビア、レオナ、アイツは任せても良いか?」

 二人が頷いたことを確認してからレオナを降ろし、こちらに向かってくる憲兵に向かって走り出した。


「来たぞ!取り押さ、ぶっ!」

 何やら叫んでいた一人の憲兵の目の前まで駆け寄ると、直前で軽く跳躍、頭上からかかとおとしを喰らわせて地面に頭をめり込ませる。


「ぐぇ……」

 二人も自身の獲物を構えようとするが、手近にいた一人の腕を掴み、そのまま背負い投げする。


「かはっ!」

 最後の一人は、彼らに個別で支給されている長剣で斬りかかってきたが、それを半歩の動きで避け、奴の顔面に右拳のストレートをくれてやった。


 二人が心配で少し手荒い真似をしてしまったが、西の国に逃げられれば、彼らも簡単には追って来れなくなるので、この際気にしなくても良いだろう。


「ルシェフ、そこまでだ」

 俺が三人の憲兵を昏倒させ、間髪おかずに乱入してきたカニ男たちを撃退、集まってきた憲兵二人とアリス、アーヴィンの四人の相手をしていたところで、後ろからヘレンに声をかけられて後ろを振り向いた所で、二人が拘束されていることに気づいた。

 いつからいたのかは分からないが、ヘレンの横にはマルヴィナの姿もあった。


「大人しく捕まってくれないか?もし、暴れたりしたら──まぁ、分かるだろ?」

「……」

 正直、今の状況を簡単に打破する方法がなくはなかった。ただ、それを実行するには少し迷いがあった。

 実行すれば最後、中央の国での雑用係としての活動が出来なくなるであろうためだ。


 ──いや、違うな。きっと、彼女たちに恐がられることを怖れているだけだろう。

 ただ単純に、二人に故郷の人間と同じ目で見られることが怖いだけだ。


 それでも、状況的に選択肢はないと判断するべきか……。

 仕方なく、一度この場の空気を掌握するために両足を部分強化して片足を地面に叩きつける。それと同時に周囲に轟音が伝わり、地面が少しめり込んだ。


「⁉︎」

 周囲にいた全員が俺の方を見てぎょっとしたまま銅像のように制止している。今の俺が普段抑えている魔力を解放し、それを殺気と共に発しているからだ。

 今回は少しではなく、完全に、だ。恐らく、魔力に気圧されて動くこともままならないのだろう。


「シルフっ⁉︎」

 マルヴィナに関しては、彼女と専属契約しているシルフが俺から逃げようとして、彼女の力でマルヴィナの体を浮かせ、後方へと飛ばすことでマルヴィナを俺から遠ざけていた。


「おい、それ以上近づいてきてみろ。近づいてきたやつから三枚におろしてやる」

 その場にいた全員の視線が俺に集まるなか、【四次元空間】から【アクワグラシェリア】を取り出し、それを憲兵含む四人に向けて脅しにかかる。


 さすがの憲兵も自分の命が惜しいのか、彼らのなかに俺の殺気を無視して歩を進めようとする存在がいないことが彼らの瞳から読み取れた。

 そこまで確認してから、踵を返して二人を解放するために、三人の元へとゆっくりと近づく。


「ヘレン、早く離れて!」

「っぁ……!」

 俺の来ることを察したマルヴィナが慌てて叫ぶ。

 マルヴィナの声がなくてもヘレンは逃げようとしていたが、体が上手く動かせないのか、無理に後ずさろうとして後ろに倒れ込んで尻餅を着いていた。


「……ぇレン!」

「待て、アリス!そいつはヤバい!馬鹿なこと考えるな!」

 アーヴィンの声に振り返ると、俺から最も離れた位置にいる関係で普通に声を発することの出来る彼が、ヘレンを助けようとしてか俺に近づいてこようとするアリスに制止をかけている。

 それでもアリスは無理に動こうとしていたが、俺からさほど離れた位置にいないアリスはそれ以上こちらに近づくことすら出来ていない。


「分かった!ルシェフ、降参だ!二人は解放する!」

 さすがにヤバイと判断したのか、アーヴィンが大声でそう叫ぶ。

 恐らくアリスの身を心配しての判断なので、彼に免じて少しだけ魔力を抑えることにした。


「退け」

「──‼︎」

 未だに二人から離れないヘレンの方に目を向けてドスの利いた声で脅すと、彼は声にすらならない悲鳴をあげ、尻餅を着いたまま慌てて後ろへと下がる。


「‼︎」

 レオナの元に向かい、彼女の縄を解こうとすると、レオナが怯えるように震えていることに気づく。彼女には殺気を向けてはいなかったが、魔力を解放したままだったので少し怖がらせてしまったかもしれない。


「悪い、少し怖がらせたな……」

 レオナの頬に片手をそっと当てて謝った後、レオナの拘束を解き、続いてオリビアの拘束も解く。


 二人の拘束を解き終えた頃、遠くから爆音のような音が轟き、次の瞬間には、周囲に影が落ちる。

 何があったのかと上を見上げてみると、確実に翌日の紙面の表紙を飾るに足るであろう出来事が、俺たちの上空で起きていた。

 具体的には、一匹の巨大な黒竜が俺たちの真上で旋回していた。


「ルシェフー‼︎」

「アメリア⁉︎」

 聞き覚えのある声に目を凝らすと、黒竜の背に乗るアメリアの姿を確認することができる。


 ──どうして彼女がここに?

 そんな俺の疑問を疑問として処理するよりも早く、俺の想定を超える人物が姿を表した。


「やっほー。久しぶりぃ」

 曲がり角から唐突に姿を表し、フランクに声をかけてきた女性に、目を大きく見開く。


「嘘、だろ……」

 ──俺の目の前には、《中央の影》のメンバーが一人、バートリー・エルベルトの姿があった。

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