手
ラーゲルトから不可視の圧力が放たれる。六角はそれに当てられ体がすくんでしまっている。
いや、むしろ圧力そのものよりも、六角は強大な縛力を感じて動けなくなっているのだろう。
それが、仮面ライダーからプリキュアまで、変身中は攻撃できないお約束の、この場合のカラクリなわけだな。
だが俺には関係ない。縛力なんかよくわからんから比較しようがないし、これが凄いのかもわからん。不可視の圧力って言っても縛力のわからん俺からしたら、単なる強風みたいなもんだ。
だから、俺は行ける!
奴が変身を完了するまでの、その隙にっ!
「これでも、くらええっ!」
俺は抱えていたアレ――ボンベを投げつける。ボンベはきりもみしながらも真っ直ぐラーゲルトの頭に向かう。
『そんなもノ……』
ラーゲルトが一睨みすると、周囲の雨が水の刃となり、ボンベを切り裂いた。
瞬間――
真っ白な煙がラーゲルトを包んだ。
『なニ? こんな目くらましに意味なド……』
「意味ならあるぜ――俺たちの勝ちだ」
『ハ? 何を言っ……ア? こ、ハ……』
水のようだったラーゲルトの体が、白く、粉を吹き付けられたようになっている。
また、動きもほとんど止まっている。
『何を……しタ……?』
「お前がかぶったのは液体窒素だよ」
『ア……!』
ラーゲルトは顔を驚愕に歪めたが、凍っていたために顔の表面がぼろぼろと砕けた。
理科室から持ってきた実験用液体窒素、みごとに効いてくれたぜ。
「六角! ブチ砕けっ!」
「お、応!」
六角が気を取り直して刀を構え走り出す。
「胎動せし大地、連続なる世界の揺らぎ、砕け散る凍て蕾――切り裂け! 中窪霊戮錬刀!」
これは最初に聞いた呪文とおんなじだ。よく見ると、刀が細かく振動している。
『ひィ……やメ……』
「断!」
『カ……』
刀がラーゲルトを両断した。
刀の振動は凄まじかったのだろう。切断面から細かく崩れ始め、あっという間にラーゲルトは粉々になってしまった。
そのシャーベットのような微細なかけらは、風がひと吹きするとまるで雪のように舞い上がり、やがて消えた。
「か、勝った……のか? 二度も……朽狗級に?」
六角はその場にぺたりと膝をついた。
「そうだぜ? 役に立つだろ俺?」
スマイルを送る。
「あ、ああ……」
引きつった顔で六角は言った。