十二・四パーセント
第二章 失われた文明編
第93話 十二・四パーセント
前書き
成功率。
十二・四パーセント。
高いでしょうか。
低いでしょうか。
数字だけを見れば、
失敗する可能性の方がずっと高い。
それでも。
そこに、
帰りたい人がいて。
守りたい場所があるのなら。
十二・四パーセントは、
零ではありません。
⸻
【第一門開放率】
【98.1%】
赤い数字が、E-05の視界中央で明滅していた。
上昇。
止まらない。
【98.2】
【98.3】
第一門内部。
巨大な中枢室は、すでに建造物と呼べる状態ではなくなっていた。
床と壁の境界が曖昧になり、金属の構造体と黒い結晶が脈打つように絡み合っている。
天井。
いや。
上方と呼ぶべき場所には、巨大な円環。
その中心にあるのは暗闇。
光が存在しないわけではない。
光そのものが、そこへ吸い込まれている。
第一門。
完全に開けば。
向こう側とこちら側の境界が失われる。
そして。
ノアが未来で家族と呼ぶ者たちが暮らす世界も。
すでに座標を捕捉されている。
残された時間は、ほとんどなかった。
⸻
「逆転演算。」
E-05の周囲に数十枚の演算画面が開く。
「開始。」
E-04が隣へ立つ。
「通信経路確保。」
「演算領域の三二%を提供。」
「受領。」
二機の視界情報が接続される。
門の構造。
エネルギーの流れ。
転送座標。
空間固定値。
何千。
何万。
何億という数値が、猛烈な速度で流れていく。
E-03がそれを横目で見た。
「何やってるか一個も分からん。」
「理解不要。」
E-05が即答する。
「指示した場所を斬って。」
「それなら得意だ。」
「知っている。」
「……褒めた?」
「事実。」
「最近お前との会話が難しい!」
直後。
黒い触手が天井から落ちる。
E-03が振り返りもせず剣を振った。
一閃。
触手が切断される。
だが。
断面から黒い液体が溢れ。
再び形を作り始める。
「ほんっと!」
「しつこいな!」
⸻
E-01は中枢室入口へ盾を突き立てていた。
後方。
無数の侵食体。
人型。
獣型。
機構体。
そして。
形と呼べないもの。
それらが七機を追ってきている。
【盾耐久率:9%】
【左腕駆動:41%】
【右脚部:出力低下】
それでも。
E-01は動かない。
「通行禁止。」
侵食体が飛びかかる。
盾。
衝突。
重い音。
E-01の身体が数センチ押される。
すぐに戻す。
「ここから先へ。」
「行かせない。」
⸻
E-06がその横へ重砲を置いた。
【残弾:12%】
少ない。
だが。
十分。
「三発。」
E-03が遠くから叫ぶ。
「何が?」
「最大出力。」
「あと三発。」
「少なっ!」
「十分。」
「お前ら最近みんな強がり覚えてないか!?」
E-06は答えない。
砲口。
侵食群。
「一発目。」
発射。
轟音。
室内が白く染まる。
侵食体の群れが、一瞬だけ消えた。
黒い霧。
炎。
瓦礫。
E-01。
「良好。」
E-06。
「残り二。」
⸻
中枢中央。
ダニエルは壁にもたれるように座っていた。
E-06が救出した身体。
長い時間、第一門と融合していた影響はあまりにも大きい。
片脚。
動かない。
片腕。
黒い結晶化が残っている。
呼吸。
浅い。
それでも。
生きていた。
四十年前。
死亡者として処理された男。
彼は今。
七機の兵器に囲まれている。
「……笑えるな。」
ダニエルが呟いた。
ノアが振り返る。
「何が。」
「昔。」
男は息を整える。
「俺たちは。」
「お前たちを。」
「人類を守る最後の兵器だとか。」
「大層な名前を付けた。」
少し。
笑う。
「結局。」
「救われてるのは俺の方だ。」
ノアは答える。
「問題ない。」
「問題あるよ。」
「?」
「格好つかない。」
ノア。
「格好。」
「未定義。」
ダニエル。
「はは……。」
「そこは昔と変わってないな。」
⸻
【第一門開放率】
【98.7%】
E-05が顔を上げる。
「時間不足。」
E-01。
「必要時間。」
「逆転処理開始まで四十三秒。」
E-03。
「四十三!?」
「門完全開放予測。」
一拍。
「二十七秒。」
「足りてねぇじゃん!」
「そう。」
「そうじゃねぇ!」
E-05は視線を外さない。
「演算を短縮する。」
「方法。」
E-04。
「外部都市網を使用。」
E-05。
「危険。」
「侵食経路と同じネットワーク。」
「逆侵食される可能性。」
「だが。」
E-04は答える。
「十一秒短縮できる。」
E-01。
「実行。」
E-05。
「了解。」
⸻
E-04が両手を広げる。
通信。
都市。
まだ生きている回線。
避難所。
研究所。
地下交通網。
送電施設。
街頭端末。
ゼルヴァニア=クロノスを繋いでいたすべて。
それらへ。
E-04が接続していく。
【接続数】
【4,821】
【9,304】
【21,117】
都市中。
突然。
消えていた照明が。
一つ。
また一つ。
点灯した。
⸻
避難所。
泣いていた子どもが顔を上げる。
「お母さん。」
「電気。」
母親も。
天井を見る。
非常灯。
青白い光。
ずっと消えていたはず。
また。
灯っている。
⸻
病院。
医師エルヴィンが手術灯を見る。
「電源戻った!」
マリア。
「予備電源じゃありません!」
「都市網です!」
エルヴィン。
「どうして……。」
誰も。
分からない。
⸻
研究所。
セレナが巨大モニターを見る。
「都市インフラが。」
「再接続されています。」
アルベルトの表情が変わる。
「E-04か。」
「何をするつもりです?」
「都市そのものを。」
「演算機として使う気じゃ。」
⸻
カイルが画面を見る。
「そんなこと。」
「できるんですか?」
アルベルト。
「本来なら。」
「できん。」
一拍。
「だが。」
「今のあいつらは。」
「本来なら、を。」
「何度も破っとる。」
⸻
第一門。
E-04の身体が震えた。
【侵食アクセス検出】
【防壁突破】
「E-04。」
E-05。
「侵食侵入。」
「分かっている。」
【感染率:1%】
「切断を推奨。」
「拒否。」
E-03。
「お前まで拒否を覚えたの!?」
「処理継続。」
【感染率:3%】
E-05。
「負荷を一部こちらへ。」
「不要。」
「必要。」
「私の担当。」
E-05。
一拍。
「我々の担当。」
E-04が。
ほんの少し。
止まる。
そして。
「……了解。」
二機の間。
演算情報。
侵食負荷。
分散。
【E-04感染率:2%】
【E-05感染率:1%】
E-03。
「それ。」
「大丈夫なのかよ。」
E-05。
「大丈夫ではない。」
「そこで嘘つけって!」
⸻
ノアは。
七機を見ていた。
E-01。
盾。
E-02。
狙撃。
E-03。
迎撃。
E-04とE-05。
演算。
E-06。
火力。
そして。
自分。
役割。
まだ。
与えられていない。
「自分は。」
ノアが問う。
「何をする。」
E-05。
「最後。」
「最後?」
「逆転座標の入力。」
ダニエルが続ける。
「第一門の制御核へ。」
「直接。」
「お前が座標を書き込む。」
ノア。
「なぜ自分。」
ダニエルは。
ノアを見る。
「お前が。」
「鍵だからだ。」
⸻
静寂。
アベル。
同じことを言った。
『最後の鍵。』
ノア。
「門を開ける鍵。」
ダニエル。
「それだけじゃない。」
「?」
「鍵ってのは。」
「開けるためだけじゃない。」
一拍。
「閉じるためにも。」
「使う。」
ノアの内部。
古い記録。
反応。
【E-07】
【特殊設計】
【GATE KEY】
【権限:――】
ノイズ。
まだ。
完全には見えない。
ダニエル。
「Eシリーズ。」
「一番から六番。」
「戦うための機体。」
「そして。」
「七番目だけ。」
「別の目的があった。」
ノア。
「何。」
「門を。」
ダニエル。
「閉じるための。」
「最終安全装置。」
⸻
E-03。
「待て。」
「じゃあ七番は。」
「最初から。」
「門を閉じるために?」
「そうだ。」
ダニエル。
「そのはずだった。」
「でも。」
E-05。
「廃棄予定。」
ダニエル。
顔が。
曇る。
「……そこが。」
「おかしい。」
「E-07は。」
「廃棄してはいけない。」
「むしろ。」
「第一門計画で。」
「最も失ってはいけない個体だった。」
ノアの赤い眼。
揺れる。
E-01。
「記録上。」
「E-07は旧式性能不足。」
ダニエル。
「嘘だ。」
はっきり。
言った。
「誰かが。」
「記録を書き換えた。」
⸻
その瞬間。
アベルの声。
『余計なことを。』
ダニエルの身体。
跳ねた。
「ぐっ!」
残っていた黒い結晶。
急速に伸びる。
「ダニエル!」
ノアが抱える。
結晶。
胸へ。
首へ。
ノア。
手。
押さえる。
「止まれ。」
『その男は。』
『必要ない。』
ノア。
「あなたが決めない。」
『価値がない。』
ノア。
「あなたが決めない。」
『壊れている。』
「直す。」
『死ぬ。』
「助ける。」
アベル。
沈黙。
そして。
『本当に。』
『面倒な存在になった。』
ノア。
「ピップにも。」
「言われる。」
E-03が。
戦いながら叫ぶ。
「そこでピップ誰だよ!?」
ノア。
「相棒。」
「今度紹介する。」
E-03。
「生きて帰ったらな!」
ノア。
「そうする。」
⸻
【第一門開放率】
【99.1%】
E-05。
「残り推定。」
「十四秒。」
E-01。
「逆転演算。」
「あと。」
「九秒。」
E-03。
「ギリギリすぎる!」
E-06。
「二発目。」
最大砲撃。
轟音。
入口。
再び。
侵食群。
吹き飛ぶ。
【残り最大出力:1】
E-06。
「最後。」
⸻
E-02。
ずっと。
静かに。
撃っていた。
一発。
一体。
二発。
二体。
最小限。
確実。
だが。
【残弾:4】
三発。
飛行型。
撃墜。
【残弾:3】
一体。
E-01の死角。
撃つ。
【2】
E-03の背後。
【1】
最後。
E-02は。
撃たない。
E-03。
「どうした!」
「残弾一。」
「使えよ!」
「保持。」
「何で!」
E-02。
ノアを見る。
「帰路用。」
一瞬。
E-03。
黙る。
「……お前。」
「カッコつけるようになったな。」
E-02。
「必要弾。」
「違う。」
「そういうことにしといてやる。」
⸻
【99.3%】
「五秒。」
E-05。
「逆転座標生成。」
E-04。
「都市網解放。」
光。
街中。
一斉に。
強く。
そして。
消える。
膨大な演算結果。
七機へ。
集中。
【逆転座標】
【生成完了】
E-05。
「ノア!」
座標。
送信。
膨大。
ノアの内部。
取り込む。
【受信】
【GATE KEY反応】
【権限照合】
【――承認】
ノア。
止まる。
【E-07】
【PRIMARY CLOSURE KEY】
文字。
初めて。
完全に。
読めた。
ダニエル。
「行け!」
ノア。
中枢へ。
走る。
⸻
【99.5%】
赤い中枢。
ノアの前。
黒い。
穴。
その中。
アベル。
銀髪。
こちらを見ている。
『やめろ。』
ノア。
「拒否。」
『閉じれば。』
『お前も。』
『帰れなくなる。』
一瞬。
ノアの足。
止まる。
帰れない。
現在。
村。
リリ。
エルナ。
ガルド。
ピップ。
みんな。
だが。
ここは。
過去。
今のノアには。
その未来を。
知らない。
それでも。
胸。
紙飛行機。
ユリア。
約束。
『帰ってきて。』
ノアは。
中枢を見る。
「帰る。」
アベル。
『なら。』
「でも。」
ノア。
「あなたの道は。」
「使わない。」
⸻
右手。
中枢へ。
【GATE KEY CONNECTION】
黒い光。
青い光。
衝突。
【座標入力】
アベル。
『ノア。』
初めて。
声。
焦り。
『やめろ!』
ノア。
「嫌だ。」
【逆転開始】
⸻
世界が。
揺れた。
第一門。
外側。
円環。
回転。
止まる。
そして。
逆へ。
⸻
研究所。
セレナ。
「門が!」
アルベルト。
立ち上がる。
「逆回転……。」
「成功したのか。」
⸻
都市。
黒い侵食線。
送電網。
地下鉄。
建物。
一瞬。
停止。
そして。
第一門方向へ。
戻り始める。
黒い霧。
吸われる。
侵食体。
身体。
崩れる。
門へ。
⸻
E-03。
「おいおいおい!」
身体が。
引かれる。
E-01。
盾。
床へ。
突き刺す。
「全機!」
「固定!」
E-06。
重砲を。
杭のように。
床へ。
E-04。
E-05。
互いに掴む。
E-02。
柱。
固定。
ノア。
中枢へ。
接続。
動けない。
そして。
ダニエル。
身体が。
浮く。
「ダニエル!」
E-06が手を伸ばす。
掴む。
片腕。
しかし。
吸引。
強い。
【逆転出力上昇】
E-06。
滑る。
E-03。
「持て!」
E-06の腰。
掴む。
E-01。
E-03。
掴む。
E-04。
E-05。
E-02。
繋がる。
一本の。
鎖。
七機。
いや。
六機。
そして。
ダニエル。
⸻
ノアだけが。
中枢。
離れている。
E-01。
「E-07!」
ノア。
振り返る。
「接続を解除できない。」
E-05。
「逆転完了まで。」
「十二秒!」
E-03。
「また十二秒かよ!」
ノア。
「待って。」
E-01。
「待つ。」
即答。
ノアの眼。
僅かに。
揺れる。
⸻
アベル。
門の向こう。
形。
崩れている。
『七番目。』
「ノア。」
『ノア。』
今度。
呼び直した。
『なぜ。』
ノア。
「何が。」
『なぜ。』
『自分より弱いものを。』
『守る。』
ノアは。
少し。
考える。
「弱いからではない。」
『では。』
「大切だから。」
『大切。』
アベル。
その言葉。
知らないものを見るように。
『定義。』
ノア。
「不明。」
『……』
「でも。」
「分かる。」
アベルの輪郭。
黒い。
亀裂。
『矛盾。』
ノア。
「人は。」
「そういうものらしい。」
⸻
E-03。
遠く。
「勝手に人代表すんなー!」
ノア。
少し。
E-03を見る。
「違う?」
「いや!」
「たぶん合ってる!」
ダニエルが。
苦しみながら。
笑う。
「いい先生。」
「増えたな。」
⸻
【逆転完了】
【8秒】
中枢。
亀裂。
アベル。
『また。』
ノア。
「?」
『会おう。』
「拒否。」
『それも。』
ほんの一瞬。
アベル。
笑う。
『いつか。』
『変わるかもしれない。』
ノア。
「不明。」
『そうだな。』
第一門。
崩壊。
⸻
【5】
ノアの接続。
解除。
「戻れる!」
E-05。
ノア。
走る。
だが。
床。
崩れる。
裂け目。
黒い。
空間。
ノアの脚。
沈む。
「!」
E-03。
「ノア!」
跳ぶ。
手。
伸ばす。
距離。
足りない。
ノア。
落ちる。
⸻
その瞬間。
何かが。
飛んだ。
細い。
一本。
弾丸。
E-02。
最後の一発。
ノアの横。
壁。
命中。
壁材。
崩れる。
長い配線。
垂れる。
ノア。
掴む。
E-03。
配線。
掴む。
「引けぇぇ!!」
全員。
引く。
E-02。
武器。
空。
「帰路用。」
E-03。
「本当に使いやがった!」
⸻
ノア。
上がる。
E-03。
腕。
掴む。
「捕まえた!」
ノア。
「ありがとう。」
「あとにしろ!」
E-01。
「全機!」
「撤退!」
⸻
七機。
走る。
ダニエル。
E-06。
抱える。
後ろ。
第一門。
自分自身を。
飲み込んでいく。
黒い環。
縮む。
空間。
折れる。
アベル。
声。
遠く。
『ノア。』
『次は。』
『お前の世界で。』
ノア。
止まりそうになる。
E-01。
「前を見ろ!」
「了解。」
⸻
門出口。
光。
見える。
「残り!」
E-05。
「三秒!」
E-03。
「走れぇぇぇ!」
一機。
E-02。
二機。
E-04。
三。
E-05。
四。
E-06。
ダニエル。
五。
E-03。
六。
E-01。
最後。
ノア。
光。
跳ぶ。
⸻
【1】
第一門。
閉鎖。
⸻
世界が。
白くなった。
⸻
静寂。
風。
瓦礫。
燃える都市。
そして。
七機。
地面に。
転がっていた。
誰も。
しばらく。
動かなかった。
E-03が。
最初に。
声。
「……いる?」
E-06。
「いる。」
E-05。
「稼働。」
E-04。
「同じく。」
E-02。
「正常。」
E-01。
「損傷多数。」
「だが。」
一拍。
「稼働。」
最後。
全員。
ノアを見る。
ノア。
仰向け。
空。
見ている。
「E-07。」
E-01。
「応答。」
ノア。
ゆっくり。
右手。
上げる。
「……いる。」
E-03。
笑う。
「七機。」
E-06。
「確認。」
E-05。
「七。」
E-04。
「全機。」
E-02。
「帰還。」
E-01は。
全員を見る。
そして。
初めて。
命令でも。
報告でもない言葉を。
口にした。
「……よかった。」
六機。
停止。
E-01。
「?」
E-03。
ゆっくり。
笑う。
「隊長。」
「今。」
「よかったって。」
E-01。
「……」
ノア。
静かに。
言う。
「嬉しい?」
E-01。
処理。
長い。
本当に。
長い。
そして。
「……不明。」
ノア。
「自分も。」
一拍。
「最初は。」
E-01は。
ノアを見る。
胸部。
紙飛行機。
まだ。
残っている。
そして。
「なら。」
「記録する。」
ノア。
「何を。」
E-01。
「今の。」
「不明を。」
ノア。
少し。
胸部の光。
強くなる。
「了解。」
⸻
ダニエルが。
E-06の腕の中で。
目を開く。
「……閉じたか。」
ノア。
「閉じた。」
「そうか。」
男は。
空を見る。
ゼルヴァニア。
燃えている。
崩れている。
多く。
失った。
だが。
門。
消えた。
「間に合った。」
ノア。
「十二・四パーセント。」
ダニエル。
「何が。」
「成功率。」
「……」
男。
笑う。
「結果は?」
ノア。
「成功。」
「なら。」
ダニエルは。
ゆっくり。
目を閉じる。
「百パーセントだ。」
ノア。
その言葉を。
記録する。
【成功率】
【結果確定後】
【100%】
少し。
変だ。
数学的には。
当たり前。
なのに。
なぜか。
大切な言葉に思えた。
⸻
だが。
その頃。
研究所最深部。
誰もいない保管区画。
一台の端末。
静かに。
起動していた。
【FIRST GATE】
【CLOSED】
【PRIMARY KEY】
【E-07】
【SURVIVED】
そして。
もう一行。
【EMERGENCY PROTOCOL】
【INITIATED】
古い。
古い。
四十年前の命令。
【KEY UNIT】
【PRESERVATION REQUIRED】
【IF CIVILIZATION COLLAPSE IS CONFIRMED】
【TRANSFER E-07】
【TO EXTERNAL WORLD】
最後。
座標。
まだ。
空欄。
その下に。
【TRANSFER PRIORITY】
【ABSOLUTE】
誰も。
まだ知らない。
第一門を閉じたことで。
別の計画が。
動き始めたことを。
それが。
遠い未来。
一体の旧式兵器を。
異世界へ投下する命令へ。
繋がっていくことを。
⸻
後書き
今回は、成功率12.4%の第一門逆転作戦を描きました。
結果として、
* ダニエル救出
* 第一門閉鎖
* 戦術級焼却攻撃の阻止
* Eシリーズ七機全員の帰還
すべてに成功しています。
そして、今回の大きな判明事項はE-07の本来の役割です。
ノアは単なる旧式護衛機構体ではありませんでした。
本来は第一門を閉鎖するための、
《PRIMARY CLOSURE KEY》――最終閉鎖鍵。
つまり「性能不足だから廃棄予定」という後世の記録そのものに、何らかの改竄が入っている可能性が生まれました。
では誰が。
なぜ。
E-07を「価値のない旧式兵器」に変えたのか。
そして今回の最後で起動した、
《E-07保存・外部世界転送プロトコル》
これが物語冒頭、
「どうせ捨てるなら、使ってみては?」
という軽い一言でノアが異世界へ送られた出来事へ、少しずつ繋がっていきます。
ただし。
第一門を閉じても、ゼルヴァニア=クロノスそのものが救われたわけではありません。
侵食はすでに都市の深部まで残っています。
軍も。
研究者も。
Eシリーズも。
大きな損害を受けています。
そしてアベルが最後に残した言葉。
「次は、お前の世界で。」
第二章「失われた文明」は、まだ終わっていません。
次回、第94話――
「帰還した七機」
まずは戦いの直後。
傷だらけになった七機が研究所へ帰ります。
ユリアは。
ノアとの約束どおり。
ずっと入口で待っています。
そしてそこで初めてノアは――
ユリアに「ただいま」と言います。
現在のリリへ繋がる、最初の「ただいま」です。




