最後の防衛命令
第二章 失われた文明編
第75話 最後の防衛命令
前書き
命令には、
終わりがあります。
けれど、
使命には終わりがありません。
その日、
七機へ下された命令は、
彼らが受ける最後の正式命令でした。
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黒い柱が天を貫く。
都市中の通信網へ警報が鳴り響いていた。
『侵食指数二五%』
『中央制御区画、通信断。』
『外周避難率七一%』
数字だけが、冷たく更新されていく。
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研究所中央司令室。
誰もがモニターを見つめていた。
レオン・ヴァイスが静かに言う。
「……間に合わない。」
避難民は、まだ一万人以上残っている。
防衛線はすでに三か所が突破されていた。
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アルベルトが歯を食いしばる。
「まだ橋がある。」
「西側の避難橋さえ守れれば……。」
しかし、その橋にも新たな侵食体の群れが迫っていた。
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司令官は決断する。
「Eシリーズへ伝達。」
通信士が全機へ回線を開く。
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『これより最終防衛命令を発令する。』
七機のセンサーが一斉に点灯する。
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『第一目標。』
『避難民の脱出。』
『第二目標。』
『研究所データの保全。』
『第三目標。』
『各機、生存を最優先とする。』
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その最後の一文に、
整備室のイリーナが目を見開いた。
「生存……?」
アルベルトも静かに呟く。
「初めてじゃ。」
「機体へ”生き残れ”と命令したのは。」
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E-01も一瞬だけ沈黙する。
そして短く答えた。
「……了解。」
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その隣でE-03が笑う。
「今さらだな。」
「俺たち、壊れるために作られたんだろ?」
E-02は静かに返す。
「命令は命令だ。」
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E-06は橋を支えたまま通信へ入る。
「了解。」
「橋は、まだ保つ。」
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ノアは胸部収納へ触れる。
紙飛行機。
ユリアとの約束。
その小さな重みだけが、戦場の喧騒の中で確かな存在だった。
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その時だった。
黒き巨人が再び動く。
今度は研究所ではない。
西側避難橋へ向かって歩き始めた。
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カイルが叫ぶ。
「進路変更!」
「避難橋です!」
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橋の上には、
まだ老人も、
子どもも、
負傷者も残っている。
リシアは必死に叫ぶ。
「急いで!」
「あと少し!」
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E-01が巨人を見る。
橋を見る。
そして決断した。
「E-02。」
「E-03。」
「E-04。」
「E-05。」
「私と共に巨人を止める。」
少し間を置く。
「E-06は橋を保持。」
最後にノアを見る。
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「E-07。」
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ノアは静かに隊長を見る。
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「お前は市民を守れ。」
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その場にいた全機が、一瞬だけ沈黙した。
最も危険な敵ではなく、
最も多くの命がある場所を託された。
それは隊長からの命令であり、
同時に信頼でもあった。
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ノアは小さく頷く。
「……了解。」
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E-03が笑う。
「ははっ。」
「隊長も変わったな。」
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E-01は答えない。
ただ前を向いたまま、小さく呟く。
「……七番目なら。」
「守れる。」
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その一言は、
ノアの内部へ深く刻まれた。
【E-01】
【信頼】
【保存】
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七機は散開する。
橋を守る者。
巨人を止める者。
市民を導く者。
誰一人、同じ役割ではない。
だが、その全員が、
ゼルヴァニア=クロノスという一つの文明を支えていた。
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遠くで、ユリアは研究棟の屋上から戦場を見つめていた。
胸の前で両手を強く握り締め、小さく祈る。
「帰ってきて……。」
「みんな。」
その願いは風に乗り、戦場へと運ばれていく…
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後書き
今回は、Eシリーズに最後の正式命令が下されました。
重要なのは、E-01がノアに「巨人を倒せ」ではなく、「市民を守れ」と命じたことです。
これは単なる作戦ではありません。
隊長であるE-01が、ノアは「守る」という役割に最もふさわしい存在だと認めた瞬間でもあります。
そしてここから第二章は終盤へ向かいます。
次回、第76話「西側避難橋」では、ノアとE-06が数千人の避難民を守るために奮戦する一方、E-01たちは黒き巨人との決戦へ挑みます。
この戦いから、Eシリーズの運命は少しずつ、そして確実に変わり始めます。




