第46話 街道の夜戦
前書き
旅の火は、人を集めます。
でも。
光がある場所には、
時々“別のもの”も寄ってくる。
今回は、
街道野営地での共闘回です。
ノアだけじゃない。
ピップだけじゃない。
それぞれが、
それぞれのやり方で戦います。
⸻
夜風が止まった。
焚き火の炎だけが揺れている。
旅人たちの笑い声は、もうない。
全員が街道の暗闇を見ていた。
赤い光。
一つじゃない。
二つ。
三つ。
どんどん増える。
馬が怯えて暴れた。
「落ち着け!!」
護衛の男たちが必死に手綱を掴む。
だが馬は震えている。
本能で分かっているのだ。
“普通じゃない”。
マルタがゆっくり立ち上がった。
巨大な斧を肩へ担ぐ。
「……数は?」
ノアが暗闇を見る。
「九」
周囲が凍った。
「きゅ、九ぅ!?」
ディンが声を裏返す。
ベラスの顔も青い。
「こんな街道近くまで来ているなんて……」
ユナはローブを強く握っていた。
だが逃げていない。
ノアは気づく。
みんな怖がっている。
でも。
ここには逃げ遅れた人が多い。
荷馬車。
馬。
子ども連れ。
だから。
誰かが残らなければならない。
マルタが低く言った。
「護衛組、前へ」
三人の護衛が武器を抜く。
剣。
槍。
弓。
だが。
彼らの目に余裕はない。
ピップがノアへ近づく。
「……どうする?」
ノアは周囲を見る。
野営地。
焚き火。
荷馬車。
地形。
そして。
壊れた存在たち。
動き。
速度。
「……狭い」
「え?」
「ここ」
ノアは荷馬車の位置を見る。
街道は広くない。
馬車を並べれば。
通れる場所は限られる。
「ピップ」
「うん」
「動かせる?」
ピップはすぐ理解した。
「道を作るのか」
ノアが頷く。
「一度に来る数を減らす」
マルタが目を細めた。
「なるほどな」
次の瞬間。
壊れた存在たちが霧の中から飛び出した。
「来るぞぉぉ!!」
⸻
最初に突っ込んできたのは、男だった。
服はボロボロ。
だが。
異常に速い。
護衛の槍が突き出される。
だが。
壊れた存在はそのまま槍を掴んだ。
「なっ!?」
力任せに引き寄せる。
護衛が崩れる。
そこへ。
マルタの斧。
ドゴォン!!
壊れた存在が吹き飛ぶ。
「ぼさっとすんな!!」
マルタが吠える。
だが。
吹き飛んだ個体がすぐ起き上がる。
周囲が息を呑んだ。
「嘘だろ……」
ベラスが震える。
「痛覚が壊れてる……」
別方向。
今度は二体同時。
ピップが叫ぶ。
「今だ!!」
旅人たちが荷馬車を押す。
ガガガガ!!
街道の中央へ馬車が並ぶ。
道幅が狭くなる。
「よし!!」
壊れた存在たちは、一気には来れない。
一列になる。
ノアが前へ出た。
「止める」
一体目。
踏み込み。
ノアが半歩ずれる。
腕を掴む。
回転。
関節制御。
ガギッ!!
壊れた存在が崩れる。
即座に二体目。
首へ触れる。
重心崩し。
膝破壊ではない。
動線停止。
崩れる。
マルタが目を見開いた。
「なんだそりゃ……」
ノアは壊していない。
でも。
立てない。
完全に戦闘不能。
壊れた存在たちは暴れる。
だがノアは、必要以上に力を入れない。
「すご……」
ピップが呟く。
だが。
次の瞬間。
後方から悲鳴。
「きゃあああっ!!」
別方向。
崖側。
壊れた存在が回り込んでいた。
「しまっ――」
ディンが青ざめる。
子ども連れの荷馬車へ向かっている。
ノアが振り返る。
距離。
間に合わない。
その瞬間。
ユナが前へ出た。
ローブの奥から、小さな石を投げる。
地面へ。
パリン。
白い煙。
壊れた存在が止まる。
「え?」
ピップが目を丸くする。
ユナが小さく言った。
「……閃光粉」
壊れた存在たちの動きが乱れる。
光に反応した。
「今!!」
マルタが飛び込む。
大斧が横薙ぎ。
ドゴォッ!!
二体まとめて吹き飛ぶ。
「おらぁぁぁっ!!」
地面が揺れる。
マルタは強かった。
豪快。
でも。
ただ振り回しているわけじゃない。
ちゃんと守る位置に立っている。
ノアはそれを見る。
戦い方。
守り方。
人によって違う。
⸻
だが。
数が多い。
霧の奥からさらに赤い目。
ベラスが叫ぶ。
「まだいる!?」
ノアが見る。
「十四」
全員が絶句した。
「増えてんじゃねぇかぁぁ!!」
ピップが半泣きになる。
鐘は止まっている。
なのに。
なぜ。
ノアは気づく。
「……違う」
「え?」
「これは命令じゃない」
壊れた存在たちの動きが違う。
鐘の時より乱れている。
つまり。
自律。
「残ってる」
マルタが眉を寄せた。
「何がだ」
ノアは赤い目を見る。
「本能」
腹が減る。
光へ集まる。
生きていた時の癖。
そういうものだけが残っている。
だから。
危険。
予測できない。
⸻
壊れた存在が一斉に飛び込んできた。
野営地が崩れる。
火が散る。
馬が暴れる。
悲鳴。
ノアが前へ出る。
だが。
全部は止めきれない。
一体。
二体。
三体。
処理が追いつかない。
「ノア!!」
ピップが叫ぶ。
ノアは振り返る。
ピップが松明を掲げていた。
「火だ!!」
ノアの目が開く。
谷の村。
老人の言葉。
『本能は残っとる』
ノアは焚き火を見る。
そして。
荷馬車の油樽。
「……使う」
「え!?」
ノアが樽を持ち上げた。
周囲が絶句する。
「ちょ待っ、そのサイズを片手で!?」
ノアは地面へ投げる。
ドガァン!!
油が広がる。
そして。
松明。
「ピップ」
「お、おう!!」
投げる。
火が走る。
ゴォォッ!!
炎の壁。
壊れた存在たちが止まる。
赤い目が揺れる。
本能。
恐怖。
まだ残っている。
「下がった!!」
護衛たちが叫ぶ。
マルタが笑った。
「頭使えるじゃねぇか!!」
ノアは火を見る。
熱い。
危険。
でも。
守れる。
「……止まった」
⸻
だが。
その時だった。
霧の奥。
さらに巨大な影。
重い足音。
ズシン。
ズシン。
全員が止まる。
赤い目。
今までより高い位置。
「……熊?」
ピップの声が裏返る。
霧の中から現れたのは。
巨大な獣だった。
だが。
普通の熊じゃない。
片目が潰れ。
肉が裂け。
骨が見えている。
それでも動いている。
赤い目で。
ノアを見る。
「……壊れてる」
熊が咆哮した。
街道中が震えた。
⸻
後書き
今回は、
* 初の街道共闘
* ノア以外の戦い方
* 「本能だけ残った壊れた存在」
を描きました。
そしてラスト。
ついに“壊れた獣”が登場。
旅はさらに危険になっていきます。




