63.黒龍を倒しても終わらない。時空の回路を断ち、洛陽で次の脈動を待つ
洛陽の空に浮かぶ黒い塊が、再び脈動を始めた。
まるで巨大な心臓が再び動き出したかのように、黒い光が脈打ち、空気が震える。
張飛が叫ぶ。
「おい、あの塊、また動き出してるぞ」
趙雲が槍を構え、周囲に指示を飛ばす。
「全軍、黒い塊を囲め。あれを止めなければ、また何が出てくるかわからん」
兵たちが黒い塊を取り囲み、一斉に攻撃を開始した。
張飛の蛇矛が黒い塊に叩きつけられる。
趙雲の槍が閃き、関羽の青龍偃月刀が唸りを上げる。
だが、すべての攻撃が、すり抜けた。
まるでそこに“存在していない”かのように。
張飛が目を見開く。
「な…なんだこれは!?手応えがねぇ」
趙雲も眉をひそめた。
「まるで…幻のようだ…」
関羽が静かに言う。
「攻撃が、届かぬのか」
黒い塊は、ホログラムのように揺らめきながら、さらに強く脈動を始めた。
その時、廠と織が駆けつけた。
廠は槍を構え、叫ぶ。
「俺がやる」
廠の槍が黒い塊へ突き刺さる。
はずだった。
だが槍は、まるで霧を突くようにすり抜けた。
廠は歯を食いしばる。
「俺の攻撃も通らないのか」
織は黒い塊を見つめ、ゆっくりと歩み寄った。
「…これは…」
廠が振り返る。
「織?」
織は静かに言った。
「これは…時空の外側にある。だから、普通の攻撃は届かない」
張飛が叫ぶ。
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ」
織は答えなかった。
代わりに、腰の剣を抜いた。
その刃が光を帯びる。
廠は息を呑む。
「織……まさか……」
織は黒い塊の前に立ち、剣を両手で構えた。
黒い塊が、織の存在に反応するように脈動を強める。
織は剣を高く掲げ、黒い塊へ振り下ろした。
その瞬間。
黒い塊が、まるで“悲鳴”を上げたかのように震えた。
光が弾け、空気が裂け、時空が歪む。
黒い塊は、真っ二つに割れた。
割れた断面から黒い光が溢れ、やがて霧のように消えていく。
脈動は止まり、黒い塊は完全に沈黙した。
趙雲が息を呑む。
「…割れた…?」
関羽は静かに頷いた。
「織殿、あなたこそ、この戦の鍵」
廠は織のもとへ駆け寄り、その肩を支えた。
「織……大丈夫か?」
織は少し息を乱しながらも、しっかりと頷いた。
「…うん。これで回路は、一つ断てた」
廠は織の手を握り、静かに言った。
「ありがとう。織がいてくれて……本当に良かった」
織は微笑んだ。
「まだ終わってないよ。“核”は…きっと、別の場所にある」
黒い塊が消えた空に、不気味な裂け目がゆっくりと広がり始めていた。
----
黒い塊が織の一撃で真っ二つに割れ、時空の回路がひとつ断たれた。
だが、戦いは終わっていない。
黒龍の死骸が横たわる洛陽の中心で、廠は深く息を吐いた。
「三十万の軍を、このまま動かすのは無理かな」
劉備が頷く。
「補給が追いつかない。三十万ともなれば、食料の輸送だけで軍が疲弊する」
実際、後方から届く報告は深刻だった。
・輸送隊の疲労
・食料の不足
・馬の消耗
・負傷兵の増加
このまま全軍を動かせば、異形と戦う前に兵が倒れる。
廠は決断した。
「洛陽に五万を残す。ここを一時的な拠点とする」
張飛が驚いたように眉を上げる。
「五万で足りるのか?」
「黒龍は倒した。異形も、あの塊が消えたことで動きが鈍っている。今は守りを固めれば十分だ」
趙雲が頷く。
「確かに、異形の気配が薄い。今のうちに体勢を整えるべきです」
廠は続けた。
「紅陽の回復を待つ。あいつなしで次へ進むわけにはいかない」
紅陽は鬼神となったが、その代償はあまりにも大きかった。
焦げた皮膚、焼けただれた筋肉、そして全身を蝕む黒煙の毒。
彼が再び立ち上がれるかどうか、それは、まだ誰にも分からない。
----
廠は劉備の前に立ち、静かに言った。
「劉備殿。残りの軍を率いて、神域へ戻ってほしい。帝を守り、後方を整えてくれ」
劉備は驚いたように目を見開いた。
「廠殿は……ここに残るのか?」
「ああ。織と共に、核の手がかりを探す。ここが最前線になる」
関羽が口を開く。
「廠殿。あなたが前線に残るのは危険では?」
廠は首を振った。
「俺と織には、未来の声が届く。核の位置を感じ取れるのは、俺たちだけだ」
趙雲が深く頷いた。
「……確かに。廠殿が動かねば、この戦は進まぬ」
劉備はしばらく沈黙し、やがて静かに頷いた。
「分かった。廠殿の意志、確かに受け取った。神域は我らが守る。廠殿は……どうか無事で」
廠は微笑んだ。
「任せた。俺たちは必ず核を見つける」
----
夜。
洛陽の街には、焚き火の光が揺れていた。
負傷兵のうめき声、治療の指示、兵たちの交代の足音。
その中心で、紅陽の幕舎だけが異様な静けさに包まれていた。
廠は幕舎の前に立ち、夜空を見上げた。
黒い塊が消えた空には、まだ薄く裂け目が残っている。
まるで、次の“何か”が、こちらを覗いているかのように。
織が廠の隣に立った。
「廠……感じる?」
廠は頷いた。
「……ああ。核は……まだ動いている。どこかで、脈動している」
織は廠の手を握った。
「紅陽が回復したら……行こう。核を見つけて、終わらせよう」
廠は静かに頷いた。
「必ずだ」
洛陽の夜風が、二人の間を静かに吹き抜けた。
----
【随分、シリアスになってきただろ?】
「だから…出てくんなって」
【いや、これありきのストーリーなんだよね】
「まあ、いいけど」




