戴冠
アルテナス王国の第一王女、リルカが王冠を戴いた瞬間、聖堂は歓声に包まれた。
その声は、波のように幾重にも重なって響いていたが、リルカの耳にはどこか遠い出来事のように届いていた。
王冠のひやりとした重みは確かに頭上にある。
けれど、それ以上に、彼女の内側は不思議なほど静まり返っていた。
それもこれも、この戴冠は弟が成人するまでの代理のものだとわかっているからであろうか。
父王の時代、国は過去の栄光に縋り、緩やかに衰えていった。
国民や官僚、ましてや王である我が父でさえ、その衰退を受け入れ、誰もが太陽の沈みゆく色を、夕焼けの美しさだと誤解していた。
国を照らし、民を導き、王国に一才の翳りがないよう高く在り続ける存在たる王が、そのような無能では、どれほど強大な国であろうと、いずれ傾くのは言わずもがな。
提言は机の上で眠り、改革案は「時期尚早」の一言で退けられた。
古参の貴族たちは、かつての栄華を語ることに長けていたが、未来を語る言葉を持たなかった。
税は慣例の名の下に歪められ、民の負担は静かに増していった。
地方の農村は荒れ、商人たちは国境の外へと活路を求め、腕利きの職人たちは泣く泣く継承を途絶えさせることしかできなかった。
それでも王都の広場の祝祭と行進が絶えなかったのは民の意地か、貴族の横柄か。
誰もが気づいていながら、誰も口にしなかった。
この国は、もう前に進んでいないということを。
太陽たる王とは、不変を貫く存在ではない。
変わらねばならぬ時に、誰よりも先に変わる覚悟を示すものだ。
だが父王は、父はそれができぬ愚鈍な王だった。
王太子時代は秀才と謳われ、彼の者が王座に就くならばこの国も安泰と言わしめた父王は、実際のところ沈みゆく太陽を引き留めることも、新たな夜明けを迎えにゆくこともできなかったのだ。




