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アリントン公爵家の令嬢との結婚を控え、ノリノリで指輪まで用意しているおっさん。
私のクライバン様をおっさん呼ばわりするこの無礼な女人は何者だ、いや、この際そんな事はどうでも良い。
アリントン公爵家の令嬢との結婚を控え、ノリノリで指輪まで用意しているおっさん!
アリントン公爵家の令嬢との結婚を控え、ノリノリで指輪まで用意しているおっさん!!
「きゃっ。」
屋敷の裏口から外へ出ようとしたレベッカの傍を風が通り抜けた。
と、思ったら、しばらくしてまた風が起き、レベッカの前にオリビアが立ち止った。
「オ、オリビアさん? 私、何か……?」
「レベッカさん、その、人差し指と親指でつまんでいるものは……?」
「ああ、これですか? お館さまの汚、いえ、洗濯物でございますよ。先程ロバートから渡されて……オリビアさん?」
がくっ。
レベッカの言葉にオリビアは膝をついた。
ああ、間に合わなかった……!
「オ、オリビアさん、大丈夫ですか?」
レベッカは恐る恐る尋ねた。
いったい何があったのか、以前のような活発な姿を取り戻したオリビアをレベッカは喜びつつも、それはそれでちょっぴり怖いのだ。
「だ、大丈夫です。あっ、そのお洗濯物は私が後でやりますから、置いておいてください、ねっ!」
オリビアはそれだけ言うと再び風と共に去って行った。
「ロバートさん、ロバートさん。」
ベッドに横たわる主人に付き合ってうたた寝をしていたロバートは、寝室の扉を叩く音で目を覚ました。
「ああ、オリビアさん。」
扉を開けると、オリビアが遠慮がちに、しかし、そわそわしながら身体を半分だけ覗かせた。
「クライバン様のお加減はいかがですか?」
「今はよく眠っておいでです。相当にお疲れのところにお酒をお召しになったものだから。でも、お目覚めになったらものすごい二日酔いが襲ってくるでしょうけどね。」
「そうですか。」
「ええ。」
「……………。」
ロバートは半分だけ覗いているオリビアの物欲しげな視線に耐えられなくなり、口を開いた。
「あのう、オリビアさんが良ければ、変わっていただけますか? 俺、まだ干し草の刈り入れの今日の分が済んでないんで。」
「まあ、それはいけませんね。クライバン様は私が見ていますから、どうぞ行って来て下さい。私もまだ薪割りの途中なのですが、仕方ありませんね。さあ、さあ、遠慮なさらないで。さあ!」
ばたん!
追い出されるようにして部屋を出されたロバートの後ろで勢いよく扉が閉まった。
「ちょっとレベッカ。これ、早く何とかしてよ。ほったらかしてたら発酵しちゃうわよ。」
女中のひとりが使用人の控室に置きっ放しになっているクライバンの洗濯物を指差して言った。
「ダメよ。そんな事したら私がオリビアさんに嫌われちゃうじゃないの。」
レベッカは口を尖らせた。
オリビアの機嫌を損ねる訳にはいかないのだ。何となれば、ゆくゆくは男爵夫人とママ友に、産まれ来る子は男爵家の子息、息女のご学友にと考えているのだから。
寝室に残されたオリビアは、ベッドの傍の椅子に腰掛け、時折いびきをかきながら眠っている「アリントン公爵家の令嬢との結婚を控え、ノリノリで指輪まで用意しているおっさん」をじっと見つめた。
寝室の窓にはカーテンがかけられ部屋は薄暗いが、彼の傷痕もはっきりと見える。
どんなに見入っても見飽きるという事はない。
皆が恐ろしがり、目を背けるこの傷痕。
しかし、オリビアにとっては、懐かしく愛しい傷痕だった。
そう、私はずっと以前から、こんなふうに彼のこの傷を好きなだけ見られる日が来るのを待ち望んでいたのだ。
「マルカム・クライバン様。私のために、指輪を……私の、私の旦那様になる方……。」
「大きくなったら聖戦士となって聖女さまをお護りします。『勇者の勲』のファン・シアー閣下のように。」
顔を輝かせて言う幼い娘を母は優しくからかった。
「あら、あなたは『鍛冶屋のマルカム』のお嫁さんになるんじゃなかったの? 聖戦士とお嫁さん、両方いっぺんはダメなのよ。」
オリビアは真っ赤になった。
「お母さまのいじわる。それはもっとずっと小さい頃の夢よ。マルカム様のお嫁さんになんてなれっこないわ。知ってるくせに。」
「お母さま……。」
そう言えば、ずいぶん前から母や聖女様に祈りを捧げていなかった。
それでも、私をお見捨てにならなかった。私をここへ導いてくださった。
「お母さま、聖女様……。」
オリビアは手を合わせ目を閉じた。
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