第54話 「残虐の貴公子」
「ちょっと落ち着けって。傷跡を見せて見ろって」
鈴村は、その男の左耳付近を覗き込む。
左耳が根元から引き千切られており、大量の血が流れ出ている。
「よしよし、止血してやるからな」
鈴村光兵はそう言うと。
右手の人差し指をにゅっと突き出し。
そして。
すばやく。
その男の左耳の中へ突き刺した。
ずぼぼぼっ!!!
「あ・・ぐふ・・・・・?!?!」
左耳を千切られた男は、余りの衝撃の為なのか、声を上げないまま全身を震わした。
「くふっ!!」
鈴村光兵は、子供の様な笑顔でその男の表情を眺める。
耳の中に入った人差し指は、耳の穴である外耳道を通り、鼓膜・三半規管を突き破り、聴神経までをも破壊していた。
「くふっふっ!」
鈴村はその人差し指を、耳の中で円を描く様に掻き混ぜる。
ぐちゃぐちゃぐちゃっ!
その行為。
残虐非道。
「あ・・・ご・・・え・・・?!」
その男は、余りの衝撃の為に、大きな口をパクパクと開けると全身を痙攣させる。
「この役立たずがぁ!!!」
鈴村は、左手をその男の口の中に力任せに突っ込むと、下顎を掴んで力一杯引き下げた。
バキバキバキッ!!!
顎の関節が破壊され、下顎がダラリと伸びる。
「あ・・・がっ・・・!!!」
その男は、下顎をダラリと下げたまま、大きな口を開けて呻く。
「くふふっ!!」
鈴村光兵の表情は、子供の様な笑顔である。
「それじゃあ、ばいばーい」
鈴村は、その男の耳の中から、すばやく人差し指を引き抜く。
ずぼぼぼぼっ!
赤い鮮血が、空中を横一線に円を描く様に飛び散る。
その瞬間。
鈴村光兵は、右足を大きく振り上げた。
重く速い蹴りである。
ボキイィツッ!
耳を引き千切られた男の首に、鈴村の右足が突き刺さる。
「あ・・・ぐぎ・・っ・・・!!!」
その男は、首をぐんにゃりと曲げて、天然芝の上に力の抜けた人形の様に崩れ落ちる。
頚椎圧迫骨折。
いや、完全なる頸椎破壊である。
その男は、全身を痙攣させていたが、数秒後にはピクリとも動かなくなった。
即死である。
香川浩介に、指を噛み千切られ左耳を失った男が、決して弱いわけではない。
むしろ、街にいる不良などとは比べものにならない程の強敵なのである。
だが。
香川浩介と鈴村光兵の強さは、その男の比ではないのだ。
「大金を払っているのだから、もう少しは役に立てよな・・・」
鈴村は、綺麗に整えられている自分の金髪を触る。
「鈴村~殺してやるぞ~」
香川は、長い舌をチロリと覗かせる。
「くふっ!!反対に殺してやるよ」
鈴村は満面の笑顔でそれに応える。
日本裏社会「暴武」部門に置いて、鈴村光兵は異端であった。
齢、三十歳。
身長、百八十七センチ。
体重、八十九キロ。
金色に染められた髪が特徴であり、顔は堂顔で可愛らしい。
その顔の可愛らしさから、「ベビーフェイス鈴村」と呼ばれている。
しかし、日本裏社会「暴武」の部門に所属している人間であり、その実力は上位から数えて、十本の指に入る程の強者でもある。
では、なぜ異端なのか?
それは、その闘い方が残虐非道であるからだ。
闘いの中に置いて、最終的な目的は相手を倒すこと・殺すことであることは承知であろう。
だが、鈴村光兵の目的はそれとは逸脱している。
相手を倒すことではなく。
相手を殺すことでもない。
ただ。
相手を。
蹂躙。
蹂躙したいだけ。
なのである。
圧倒的な力で相手を服従させる。
それのみが、彼の生きる糧なのだ。
その為であれば、大人数を使って相手を襲うこともあれば、道具も使用することも厭わない、残虐非道の異端児なのである。
そして。
付けられたニックネームが。
「残虐の貴公子」である。
鈴村は、ゆっくりと天然芝を噛み絞める様に歩くと、香川浩介を笑顔で見る。
「お前が裏社会に入って来てからは、俺も困ったものだよ」
鈴村は話を続けた。
「俺とお前が同類だなんて言われてなぁ」
「だが・・・」
「それは違うだろ?」
鈴村は子供の様な笑顔で言う。
たしかに、そうである。
鈴村光兵と香川浩介。
相手を壊す過程は一緒かもしれないが、大きく違う所がある。
それは。
香川浩介は、「自分の快楽の為」に相手を壊すのだ。
それに反して。
鈴村光兵は、「相手を蹂躙する為」に相手を壊すのである。
だが、その違いのわからない人間達は、二人を同類だと認識し、闘えばどちらが強いのだ?と噂し始めたのである。
「お前と~一緒にするんじゃねぇ~」
香川は鈴村を睨んだ。
「くふっ!!だから、俺とお前は水と油なのよ」
鈴村はそう言うと両手を前に出した。
異常な空気が二人の周りを包み込む。




