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SAIGA《サイガ》  作者: 大西アキラ
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第53話 「衝突」

「ぶち殺すだと?香川」


鈴村光兵(すずむらこうへい)は、香川浩介(かがわこうすけ)を見る。


「鈴村~何をしに来たのだ~?」


香川浩介にとって、鈴村光兵は裏社会の先輩なのであるが、彼にとってはそんなことは一切関係がない。

戸倉一心(とくらいっしん)に敵対する人間は、誰であろうと敵なのだ。


「おいおい、口の聞き方がなってねぇなぁ?戸倉一心の金魚のフンが・・・」


鈴村はニコリと笑って言う。


「なんだと~?!殺してやるぜ~鈴村光兵~」


香川は鈴村を睨んで吠える。


「そうかそうか、それは嬉しいことだな」


鈴村は笑顔を崩さない。


郷田梅雲・香川浩介と鈴村光兵と四人の男達の間に、異様な緊張感が走る。

空気は重く、お互いの熱気がじりじりとその場を包み込んでいく。


「さて、お前らが一心の闘いを邪魔するというのなら、ワシらも動くしかないからのー」


郷田梅雲が口を開いた。


それは、静かな脅しでもある。


このまま引き下がるのなら、こちらも何もしない。


だが、引き下がらないのなら、排除するしかないのである。


ピリピリとした空気が流れる。


「邪魔ですか?そんなことはしないですよ」


鈴村は郷田を見て言う。


「だって、あの相手に少しでも戸倉一心を弱らせてもらわないと駄目でしょ?」


ニチャリ。


鈴村光兵は満面の笑みを浮かべる。


どこまでも汚い男である。


「この野郎~!」


香川浩介が怒りで一歩前に進む。


その時。


鈴村光兵の隣にいた男が動いた。


体を低く構えると、そのまま香川の両足にぶち当たる。


電光石火の高速のタックルである。


だが、香川浩介もすばやく全体重を前方に傾け、倒れない。


(な、何?!)


高速タックルをした男は驚愕した。


なぜなら、今まで相手をした人間達は、ほとんどこの高速タックルで地面に転がっていたからだ。

中学校時代からレスリングを習い、大学時代ではレスリング部の主将を務め、国体の補強選手にも選ばれた元実力者なのである。


(ば、馬鹿な!)


タックルして来た男は、背中に冷たい悪寒を感じた。


「何をしているのだ~お前は~」


香川は長い舌をチロチロとだすと、タックルして来た男の背中に左肘を振り下ろす。


ずどおぉん!


香川の左肘が、タックルして来た男の背中に喰いこむ。


「あ・・・がっ!」


その男は、香川の両足から両手を離すと。


上半身を捻って両足を上空に上げた。


そして。


香川の首に両足を絡ませて、両手で香川の両足首を払った。


どーーーん!


と言う轟音と共に、香川とその男が倒れる。


「チッ~!」


(コイツ~なかなかやりやがる~)


香川は、すばやく起き上がろうとするが、その男が馬乗りになってくる。


「お前に恨みはないが、金の為に死んでもらうぞ」


その男はそう言うと、香川の首根っこを左手で抑えようとした。


その瞬間。


「ぎやあぁーーーっ!」


と言う叫び声が、フィールド上に響き渡った。


香川浩介の体に馬乗りになっていた男が、飛び上がり体を弓なりに曲げる。


「貴様あぁーーーーっ」


その男は左手を右手で抑えて震えている。


「・・・・・」


香川はゆっくりと起き上がると。


口の中をもごもごとさせた。


そして。


ブッ!


と何かを吐き出した。


その吐き出された物体は、天然芝の上を転がった。


その数、四つ。


そして。


それは。


人間の指であった。


親指以外の指である。


「この野郎・・・!!!」


その男は、香川浩介を睨む。


「ガタガタ~騒ぐなよ~」


香川浩介は長い舌をチロチロと出すと、ニチャリと笑う。


長い舌は赤い血で染まっている。


二人の間に異様な殺気が漂う。


「どれだけ凶暴なんだよ」


その様子を見ていた鈴村光兵が、静かに動く。


「よっしゃ!良いことを思いついたぞ」


鈴村はそう言うと。


指を噛み千切られた男の背中を、左足で力一杯蹴った。


「え?!」


背中を蹴られた男は、自分が何をされたのかを理解できなかった。


(俺は何をされたのだ?!)


そして、体ごと香川浩介に突進する。


「何~?!」


香川も、鈴村の異常な行動に動揺した。


突進してくる男の体を受け止め、攻撃を加えようとする。


その瞬間。


香川の顔面に衝撃が走った。


その時間、コンマ数秒である。


香川浩介は顔面の衝撃と共に、天然芝の上に倒れ込んだ。


(何が起こったのだ~?!)


香川は頭を大きく左右に振った。


そして。


悟ったのだ。


鈴村光兵だ!


奴が、上段蹴りを放ったのである。


そう、突進して来た男は囮だったのだ。


「ひゅ~!」


鈴村光兵は口笛を吹くと、香川の顔面に当てた右足をゆっくりと地面に下ろした。


「お前ら三人は・・・郷田梅雲を頼むぜ」


鈴村は、残りの三人にそう言うと。


フィールド上の天然芝を蹴り上げて、倒れ込んでいる香川浩介の頭部に両足からダイブする。


その跳躍力、人間業ではない。


「チッ~!」


香川は頭部を右に曲げて、瞬時に回避する。


しかし、突進して来た男が香川の体に馬乗りになっている為に、自由に身動きが出来ないのだ。


(まずは~コイツをなんとかしないと~ヤバイぞ~)


香川は上半身を大きく捻って向きを変えると、腕立て伏せの状態になった。


その動き、コンマ五秒。


天然芝を両腕の筋力で押し返して、突進して来た男を背中に背負ったまま、地面に立ち上がる。


合計、一秒の出来事である。


「いつまで~張り付いていやがる~」


香川は、突進して来た男の左耳を右手で掴むと、そのまま引き千切る。


「ぎやあああーーーっ!」


突進して来た男は、大声を上げると香川の背中から飛び降りた。


その男の左耳が、赤い鮮血と共に空中に舞う。


香川浩介は体をぐるんと回転させた。


千切れた左耳が、まだ空中を彷徨っている。


と。


同時に。


そこには、鈴村光兵の顔もあった。


その距離数センチメートル。


満面の笑みを浮かべている。


「チッ~!」


香川はすばやく両腕で顔面を防御する。


鈴村の右拳は、その両腕を引き裂く様に滑り込み、香川の顔面に突き刺さる。


バチイィィーーーン!


爆音が響き渡る。


香川浩介の大きな肉体が、ぶるっと揺れながらニメートル程後退した。


「お?やるじゃん」


鈴村光兵は、金色に染められた髪を人差し指と中指で軽く撫でた。


その横では、指を噛み千切られ左耳を失った男が、両手で左耳付近を押さえて唸っている。


「おいおい、大丈夫か?」


鈴村は、左耳を千切られた男に声を掛ける。


「殺してやる!あの野郎は俺の!俺の!俺の獲物だぁぁ!」


左耳を千切られた男は、両眼を血走らせて声を荒げた。


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