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SAIGA《サイガ》  作者: 大西アキラ
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第50話 「決戦」

何を隠そう、あの郷田梅雲である。


郷田梅雲(ごうだばいうん)。


またの名を、「破壊の帝王」「クラッシャー郷田」とも言う。


身長・百九十二センチ。


体重・百三十五キロ。


年齢・四十歳。


髪は黒くボサボサで、少し長い。

顎髭も適当に伸びしているのか整えられていない。

眉は太く、両眼は柔らかく大きい。

肌は褐色で、体の大きさに比べて動きがかなり軽やかである。


特徴は、その大きな体格から繰り出されるパワー攻撃であり、プロレスを基本としている為に、打撃から関節技まで全てを網羅しているのだ。


日本裏社会の「暴武」部門の頂点に、戸倉一心と共に君臨している猛者でもある。


服装は、上下の迷彩柄の戦闘服を着用している。

靴は、軍隊で使用しているブーツを履いている。


じゃりっ。


じゃりっ。


西牙と郷田は歩を進める。


「な・・・なぜ・・・?」


戸倉一心は、郷田梅雲が西牙丈一郎と一緒にいることに動揺している。


「どういうことだ~?これは~?」


香川浩介も驚きを隠せない。


じゃりっ。


じゃりっ。


西牙丈一郎はニチャリとした笑みを浮かべると、フィールドの天然芝に足を踏み入れる。


郷田梅雲も同じ様に足を踏み入れ、天然芝を踏み付けていく。


「・・・・・」


戸倉は下唇を噛み絞めると、黙って郷田を見る。


郷田はボサボサの黒髪を右手で掻き毟り、居心地の悪そうな顔をして戸倉を見た。


じゃりっ。


じゃりっ。


戸倉一心と香川浩介。


西牙丈一郎と郷田梅雲。


じゃりっ。


じゃりっ。


お互いの距離間が縮まる。


競技場のフィールド中央部で、お互いの距離間が五メートルに達した時。


西牙と郷田は歩を止めた。


生温い風が、四人の体を舐める様に包む。


「ククク、どうした?戸倉一心」


西牙丈一郎は、ニヤニヤとした笑みを崩さない。


その笑みは、何をそんなに驚いているのだ?と言う含みを込めていた。


「これはどういうことですか・・・?郷田さん」


戸倉は、西牙の方を一切見ずに郷田に話し掛ける。


「ガハハ!」


郷田は大声で笑うと、戸倉と香川を交互に見た。


「まぁ、なんというか・・・コイツの下に付いただけのことじゃ」


ボサボサの黒髪を右手で掻き毟って、サラリと言う。


「な~な~何~?!」


香川浩介は両手の拳をぎゅっと握り締めた。


「・・・・・」


戸倉一心は、少し沈黙を続けた後。


「そうですか・・・。郷田さん、それがどういうことかわかっているのでしょうね?」


戸倉は立て続けに言葉を放つ。


「わかっとるわい。裏社会からは・・・今日限りで卒業じゃのー」


郷田梅雲はニコリと笑って言った。


「郷田さん~あんた~見損なったぞ~」


香川は、怒りの表情で一歩前に進む。


香川浩介にとって、戸倉一心と郷田梅雲は暴力の世界での憧れの存在であったのだ。


それがどうだ。


あの憧れの男が、自分と同い年のわけのわからない男の下に付いているのだ。


これ程の屈辱はあるのだろうか。


「こうなったら~俺が~あんたを~ぶち殺してやるぞ~」


香川はさらに一歩前に前進する。


「待ちなさい」


戸倉が、香川浩介の動きを左手で止める。


その表情は怒りで満ち溢れている。


両眼は大きく見開き、両眉は吊り上り、顔は少し紅潮している。


それはそうであろう。


一番怒っているのは、この男の筈である。


日本裏社会に入った時から、共に闘ってきた親友が、敵対する男の下に付いているのである。


それも、日本裏社会から脱退すると言うではないか。


日本裏社会から脱退すると言うことは、今後一切、裏社会とは関わりを持たないと言うことである。

もし万が一、裏社会と関わりを持とうものなら、日本裏社会を深淵で牛耳っている「執行部」が動き、郷田梅雲を確実に亡き者にするであろう。


「わかりました・・・。それ程の決意なのですね・・・」


戸倉一心は、ゆっくりと西牙と郷田に背を向ける。


そして。


白色のスーツを脱いだ。


真っ赤なネクタイも首元から剥ぎ取ると、香川浩介に預ける。


西牙丈一郎は一歩前に出た。


「丈一郎」


郷田梅雲が、西牙を呼び止める。


「なんだ?おっさん」


西牙丈一郎はニチャリと笑う。


「一心は、俺よりも数段強いからのー。侮ると痛い目を見るぞ」


郷田は、西牙の横顔を眺めて言った。


「ククク、安心しな。全力で潰してやるからよ」


西牙はそう言うと、前を向いた。


戸倉一心は、シャツの首元にあるボタンを外す。


そして。


クルリと踵を返すと、西牙と郷田のいる方向に向き直った。


西牙丈一郎と戸倉一心。


ピリピリとした空気が、周りを漂う。


二人の距離間は約三メートル。


「西牙さん、とうとう闘えますね」


戸倉は静かな口調で話す。


「そうだな」


西牙も答える。


「やっと、本気で闘える相手に巡り合えたかもしれません。なので・・・」


戸倉は一息付く。


「なんだ?」


西牙は聞き返す。


「簡単には、死なないでくださいよ」


戸倉一心は、左右の口角を上げて大きく笑った。


その笑いは、全ての感情を凌駕していた。


嬉しさ、喜び、悲しみ、怒り、全ての感情を掻き混ぜて出来上がった様な異質の笑みなのである。


「それは、俺のセリフだろうが・・・」


西牙丈一郎がそう言った瞬間。


お互いが動いていた。


天然芝が波打ち、フィールドの土が抉れる。


戸倉は右手の掌を大きく振り、西牙の頭部を狙う。


バチィーーーーーン!


西牙はその攻撃を左手で防御し、前蹴りを放つ。


ズドォーーーーーン!


お互いの攻撃が炸裂し、衝撃音と打撃音が響き渡る。


西牙の前蹴りは、戸倉の左腕で受け止められている。


ズジャッ。


同時に後方へ飛んだかと思うと。


瞬時に、前方へ飛び跳ねる。


戸倉一心は、左右の掌を連続で放つ。


ドパパパパパパパパパパッ!


西牙丈一郎は、左右の蹴りを乱打する。


ガガガガガガガガガガガッ!


お互いの攻撃が相手の体に炸裂する度に、ジャパンサッカースタジアム内に爆音が響きわたる。


「えげつないのー」


郷田梅雲は、胸の前で両腕を組みながらポツリと呟いた。


「最高だぁ~」


(まさしく~怪物同士の闘いだぞ~)


香川浩介は長い舌をチロリと出して、二人の闘いを凝視した。


二人の激しい攻撃の為に、フィールド上の天然芝が大きく揺れる。


戸倉は、左右の掌を飛ばしながら、西牙の蹴りを両腕でブロックする。


ババババババババババッ!


西牙も、左右の蹴りを放ちながら、戸倉の攻撃を両腕で防御する。


ズドドドドドドドドドッ!


まさしく、一進一退。


お互いの力が拮抗している為に、全ての攻撃と防御が相打ちとなっている。


戸倉一心が横に動けば。


西牙丈一郎も横に動く。


お互いが吸い寄せられる様に近付き、攻撃と防御を繰り返す。


西牙は、ニチャリと笑う。


そして。


左拳に力を込めると。


大きく振りかぶり、戸倉の顔面に放った。


戸倉は、頭部をすばやく動かして、その攻撃を避ける。


だが。


西牙丈一郎の攻撃は、その動作よりも速かった。


カシャン!


戸倉一心が掛けていた金縁のメガネが、天然芝の上を走る。


戸倉一心の動きが止まる。


「そろそろ・・・本気出して来いよ」


西牙は、口角を大きく上げて戸倉を見た。


「それもそうですね」


戸倉は、天然芝に転がっている金縁のメガネを見ながら、上下の歯を食い縛った。


ギリギリ・・・。


気味の悪い異音が、フィールド内に響き渡る。


ギリギリ・・・。


(ついに、暴走モード発動かいのー)


郷田梅雲は、両腕を胸の前で組んだまま、戸倉を見た。


ギリギリ・・・。


(戸倉さんの~暴走モードが~来るぞ~)


香川浩介は、長い舌で自分の上唇を舐めた。


ギリギリ・・・。


歯と歯が擦れ合い、気持ちの悪い異音を奏でる。


歯軋りの音である。


「・・・・・」


(なんだ?!)


西牙丈一郎は、その異音を聞いて顔をしかめた。


ギリギリ・・・。


・・・・・。


気味の悪い異音が、ピタリと止まる。


戸倉一心がユラリと顔を上げ、西牙丈一郎を睨む。


その表情は、異形であった。


両方の眉毛は吊り上り、眉間には五本程の筋が入っている。両眼は見開き血走っている。


「おどれ・・・」


戸倉がドスの効いた声を発するや否や。


競技場のフィールドを、すでに蹴っていた。


天然芝が大きく抉れ、芝と土が宙を舞う。


「ぶち殺すぞーーー!ワレ!」


戸倉一心の関西弁が、ジャパンサッカースタジアム中に響き渡る。


(コイツ、豹変しやがった!)


西牙は後方に跳ねた。


戸倉一心の右掌が、空気を抉る様に横殴りで放たれる。


ボオオォッ!


異様な快音が響き渡る。


戸倉は、西牙との距離を縮める。


そして。


左掌を西牙の頭部に放つ。


ボオオォッ!


轟音と共に、西牙の頭部に大きな衝撃が走った。


「チッ!」


西牙は、右腕でその攻撃を防いだが、強烈な衝撃に体ごと横に滑った。


(チッ!さっきの攻撃よりも・・・速さも威力も格段に増してやがる!)


西牙は舌打ちすると、腰を落として前蹴りを放った。


「おどれこそ・・・本気ださんかい!」


戸倉は、その前蹴りを右掌で弾き返すと、体をグルンと回転させて、西牙の頬に左掌をぶち当てた。


バチイイィーーーン!


西牙丈一郎の頬に、戸倉一心の左掌が減り込む。


みちみちみちっ。


「・・・・・」


西牙は、その掌底を喰らいながらも両眼を大きく見開いている。


「最高じゃねぇか・・・お前」


西牙はニチャリと笑うと。


空中に跳ねあがった。


そして。


空中で一回転すると。


右足のかかとを、戸倉一心の頭頂部に落とす。


めきめきめききぃっ!


戸倉一心の頭頂部に、西牙丈一郎のかかと落としが炸裂する。


「あがっ・・・?!」


戸倉の全身がブルッと震えた。


後頭部で纏めていた銀髪の長い髪が、その衝撃でザンバラ状態になる。


「おどれ・・・」


戸倉は、頭部を左右に振って身構える。


成人男性の二倍はあろうかと言う掌を両方前に出すと、小指から順番に掌の内側に終いこんでいく。


小指。


みちりっ。


薬指。


みちりっ。


中指。


みちりっ。


人差し指。


みちりっ。


最後に、親指をその四本の指の上に乗せた。


最強の拳の完成である。


戸倉一心。


暴走モード覚醒。


さらに、両拳の解放である。


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