表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SAIGA《サイガ》  作者: 大西アキラ
39/60

第39話 「クラッシャー郷田」

ユラリと。


西牙丈一郎の上着が砂利の地面に落ちる。


そして。


郷田梅雲は、西牙丈一郎の上半身を見て目を疑った。


「な、なんじゃい?その体は?!」


驚きの理由は二点ある。


一点目は、その肉体構造の凄まじさである。


骨格、筋肉の付き方、柔軟性、全てが常人の人間を遙かに超越しており、見た瞬間に理解できる程である。

スポーツ選手が、それぞれの分野で必要な筋肉やバランスを身に付ける様に、彼の肉体は人を殺す為、人を壊す為だけに造られた肉体なのである。


そして、二点目は。


上半身にある無数の傷跡である。


切り傷、刺し傷、銃痕など、無数の傷跡が数百と全身のいたる所にあるのだ。


「・・・・・」


郷田はゴクリと唾を飲んだ。


「ククク、何も恐れることはないぞ、おっさん。俺の生きてきた世界とお前達の生きてきた世界が、余りにも違い過ぎただけだ」


西牙丈一郎は、両手を横に広げると右足の歩を進めた。


じゃりっ。


次に左足を進める。


じゃりっ。


ゆっくりと。


ゆっくりと。


郷田梅雲に近付いて行く。


「お前・・・」


(コイツは、どんな世界で生きてきたと言うのじゃい?)


郷田は近付いて来る西牙に向かって両手を構える。


(一心の言うとおり・・・表の世界にいる様な人間じゃねぇぞ。いや、裏の世界でも滅多にお目にかかれない程の逸材じゃわい)


郷田は、西牙の禍々しい空気感をひしひしと体に感じていた。


じゃりっ。


西牙の体が近付いて来る。


じゃりっ。


「ふうぅんーーー!」


郷田梅雲は、大きく左拳を振り上げる。


西牙は両手をゆっくりと動かすと、飛んで来る郷田の左拳に触れる。

攻撃の流れをゆっくりと変える様に、両手で軌道修正して、郷田の左拳を外に逃がす。


「ぬう!」


郷田は唸り声を上げて驚嘆した。


その瞬間。


バチイィーーーン!


郷田の顔面に光が走った。


体重百三十五キロの巨体が揺らぐ。


西牙丈一郎の左拳が、ノーモーションで放たれたのだ。


(まったく見えなかったわい・・・)


郷田は揺らぐ巨体を重い重心で支えると、体を大きく捩って右拳を飛ばす。


バチイィーーーン!


またしても、郷田の顔面に光が走った。


頭部が衝撃で後方に持って行かれそうになる。


西牙丈一郎の右拳が襲ってきたのである。


(なんという速さじゃい・・・)


郷田の右拳は空を切り、巨体がバランスを崩す。


「本当の地獄は・・・ここからだぞ」


西牙丈一郎はぽつりと言葉を吐いた。


その刹那。


西牙の体が大きく躍動したかと思うと。


バランスを崩している郷田の体に、無数の打撃を加えたのである。


バシバシバシバシィーーーン!


両手・両足による乱打撃。


バチバチバチバチィーーーッ!


一秒間に五・六発の猛攻撃。


ガガガガガッーーーッ!


郷田梅雲の体が、サンドバックの様に揺れる。


両足でしっかりと砂利の地面を踏んではいるが、一発一発の攻撃を受ける度に、ブルッと巨体が揺れるのだ。


(コイツ!まさしく・・・化け物じゃわい!)


郷田は、亀の様に両腕で顔面と胸を防御している。


西牙の蹴りは、ムエタイ選手のキックの様にしなり、郷田の体に傷跡を付ける。


バチバチバチバチイーーーッ!


怒涛の乱打撃は一向に収まらない。


ずるっ。


郷田の巨体が後方へ押しやられる。


ずるっ。


(信じられぬわ・・・。ワシの巨体が押し負けるなど・・・)


郷田は意を決した様に両腕のガードを解くと。


西牙の蹴り足を両手で掴んだ。


そして。


体ごと宙に飛び上がると、西牙の右足首を抱えたまま大きく回転する。


「チッ!」


(俺の膝を壊すつもりか?!)


西牙は掴まれた右足首を守る様に、郷田と同じ方向に体を回転させる。


どりゅっ!


お互いが空中で体を横に回転させて、砂利の地面に降り立つ。


「やってくれるじゃねぇか」


西牙は両拳を郷田の顔面に放つ。


ドパパパパアッーーーン!


無数の光が郷田の顔面を襲う。


赤い血が空中に舞い散り、砂利の地面にしたたり落ちる。


だが。


郷田は、西牙の右足首から両手を離そうとしない。


そのタフネスさは、昔にプロレスラーとして鍛えた賜物ではなかろうか。

攻撃を受けることに関して、プロレスラーの右に出る者はいない。

それ程のタフネスさを、プロレスラーは持っているのである。


「それじゃ、いかせてもうおうかのー」


郷田は、両眼を大きく輝かせる。


そして。


西牙の右足首を捩ろうとする。


がくん。


「ん・・・?!」


郷田の体が前のめりに揺れる。


(なんだ?!どうしたのだ?)


両手はしっかりと西牙の右足首を握っている。


がくん。


今度は郷田の体が後方に揺れた。


「なぬ・・・?!」


体重百三十五キロの巨体が前後に揺れたのである。


(な、な、なんだと言うのじゃい?!)


郷田梅雲は、ゆっくりと西牙丈一郎を見る。


そこには、ニチャリと笑った笑顔が存在していた。


「ま、まさか・・・?!」


郷田は、その時になって初めて悟ったのだ。


西牙丈一郎は、右足の筋力だけで、体重が百三十五キロもある郷田を動かしていたのである。


(ば、馬鹿な・・・?!なんという筋力じゃい・・・)


郷田は掴んでいる西牙の右足首を引っ張る。


だが。


ピクリとも動かない。


「ククク、残念だったな」


西牙丈一郎は、両腕を胸の前で組むと、左足一本で地面に立ちバランスを保っているのである。


右足に力を入れて、ゆっくりと体へ引き戻す。


「ぬう・・・」


郷田も負けてはいない。西牙の右足首を両手で掴んだまま、絶対に離そうとはしないのだ。


まさしく、綱引きの状態である。


そして。


その均衡を破ったのは、西牙丈一郎であった。


胸の前で組んでいた両腕を横に広げると、郷田の頭部に向かって放ったのだ。


バチイィーーーン!


「ぐぬっ!」


郷田は、両耳に激痛が走るのを感じた。


西牙丈一郎が両手の掌で、郷田の両耳を叩いたのである。


そして。


郷田梅雲が、痛みで一瞬気を抜いたのを感じると。


西牙は、左足を空中に振り上げて、郷田の顔面に飛ばした。


グシャアァッーーーッ!


郷田の顔面に、西牙の左足による膝蹴りが炸裂する。


空気中に大きな振動が鳴り響く。


西牙の膝が郷田の顔面にズボリと減り込み、赤い血が空気中に飛び散る。


西牙丈一郎は、その隙を狙って右足を力一杯引き抜いた。


ずるっ、と。


郷田の両手から右足が引き抜かれる。


(ククク、この程度か・・・)


西牙は、ニヤリと笑うと後方に跳ねる。


その直後。


目の前に、郷田梅雲の右腕が迫っているのを見た。


「何・・・?!」


西牙丈一郎は声を上げていた。


自分の首下に大きな衝撃を感じて、空中を回転していた。


後方伸身宙返りの如く、西牙の体が舞う。


郷田の右腕が西牙の首下に直撃したのである。


「恐ろしい程、強いのー」


郷田は、赤く染まった顔面で満面の笑みを作って、ふわりと宙に飛ぶ。


空中で回転している西牙に向かって重い蹴りを放つ。


(チッ!)


西牙は両腕でその蹴りを防御する。


バチイィーーーン!


大きな火花が散り、西牙の体が吹き飛ぶ。


砂利の地面に転がる様に滑る。


郷田も同じ様に地面に飛び降りると。


ゆらりと動く。


その巨体からは信じられない様な動きで、西牙の体にすばやく近付く。


西牙丈一郎は、砂利の地面に転がりながら、瞬時に両手で地面を押して立ち上がる。


だが。


目の前には、すでに郷田梅雲の両手が迫っていた。


郷田は両手で西牙の頭部を掴むと、右足を上空に飛ばす。


ボオツッ!


と言う爆音が響く。


空気を裂く音である。


メキメキメキイィーーーッ!


次の瞬間には、郷田の膝蹴りが西牙の顔面に突き刺さっていた。


「ガハッ・・・!」


西牙の頭部が揺れる。


それはそうであろう。


体重百三十五キロの巨体が放つ膝蹴りを、顔面にモロに喰らったのである。


さらに。


郷田は西牙の頭部を両手で掴んだまま。


今度は、左足を飛ばす。


ボオツッ!


またも、空気を裂く音が聞こえる。


メキメキメキイィーーーッ!


郷田の左膝蹴りが西牙の顔面に突き刺さる。


「グハッ・・・!」


西牙の全身がブルッと震える。


赤い血が、ボトボトッと砂利の地面にしたたり落ちる。


郷田の猛攻は、それでも止まらない。


左右の膝蹴りを交互に放つ。


怒涛の如く。


その巨体からは想像も出来ない程のスピードで。


バチイィーーーン!


西牙丈一郎は、両手でその膝蹴りを防ぐ。


メキメキメキイィーーーッ!


しかし。


余りの重い膝蹴りの為に、両手ごと持っていかれてしまい、結局は顔面に衝撃を喰らう。


「死んでもしらんでのー!」


郷田は大きい声で叫ぶ。


バチチイィーーーン!


メキメキメキイィーーーッ!


西牙丈一郎の体が衝撃でブルブルッと震える。


数十発の膝蹴りを放ち続ける郷田梅雲。


数十発の膝蹴りを受け続けている西牙丈一郎。


(なかなかに強かったわい、お主は・・・)


郷田は西牙を見る。


すでに全身の力が抜けており、両手で顔面を守っているに過ぎない。


(悪いが、お主にはここで死んでもらうでのー。お主が生きていると・・・いろいろと邪魔くさいことになるからのー)


郷田梅雲は、西牙丈一郎の頭部から両手をゆっくりと離す。


「さらばじゃ」


そして。


右足を地面に降ろすと、大きく円を描く様に振り上げた。


上段蹴りである。


両手で顔面を守っている西牙丈一郎の首を狙う。


首の骨を折って、殺そうとしているのだ。


轟音が空気中の粒子を震わせる。


バキイィーーーッ!


(決まったわい!)


郷田は、自分の右足が西牙の首にぶち当たった感触を感じた。


両手で顔面を守っている西牙丈一郎。


ぐらり、と。


そう。


普通ならば、ぐらりと体が地面に倒れるか。


ぐんにゃりと首が折れ曲がり崩れるか。


どちらかであろう。


しかし。


そうはならないでいるのだ。


(ん・・・?!)


郷田はゆっくりと右足を戻す。


西牙丈一郎は、両手で顔面を守ったままピクリとも動かないのだ。


「ククク・・・」


嫌な音声が建設中の駐車場に響き渡る。


「な、な、何・・・?!」


郷田梅雲は、ギョッと両眼を見開いた。


「ククク、いいねぇ・・・」


西牙は、顔面を守っていた両手をゆっくりと下方向に降ろす。


顔面は血で塗れていたが損傷は少なく、口を大きく開けてニチャリと笑っている。


「ば、馬鹿な・・・。ワシの攻撃をあれだけ喰らって・・・」


郷田は驚きを隠せないでいる。


「最高じゃねぇか、おっさん」


西牙丈一郎は、口の中に溜まった血の塊を地面にペッと吐いた。


両手を前に出すと、郷田の両手首を掴む。


「ん・・・・・?」


郷田が言葉を発した瞬間。


西牙丈一郎の右足が動いていた。


ズドオォーーーン!


郷田の腹部に、西牙の蹴り足が突き刺さる。


「あ・・・がぁ・・・!」


郷田梅雲は、巨体を九の字に曲げて、両眼を大きく見開いた。


(あれだけの攻撃を喰らって・・・倒れないじゃと?!)


郷田は、掴まれている両手首を引き抜こうと動く。


ズドオォーーーン!


今度は、左足が飛んで来る。


「あ・・・ぐはっ・・・!」


郷田梅雲の腹部に突き刺さる。


「さぁ、楽しませてくれよ」


西牙丈一郎はそう言うと。


郷田の両手首から手を離す。


そして。


右足を大きく動かした。


下段蹴りだ。


ズバアァーーーン!


と言う、轟音が鳴る。


その蹴りは、尋常ではない程の重量感と速度を兼ね揃えていた。


郷田の左足膝辺りに激痛が走る。


(なんという蹴りじゃい・・・。今までの蹴りとは別物じゃぞ?!)


郷田梅雲は後方に飛んだ。


西牙丈一郎は、ゆっくりと前方に進む。


「お主は・・・何者じゃ?」


郷田梅雲は両手を顔の横に上げて構えた。


「何者だと?人間に決まっているだろうが」


西牙は、血に塗れた顔面を両手で拭いた。


「そう言う意味じゃねぇ。お主の様な強者が、表の世界で生まれるわけがないのじゃ。常識的に考えてのー」


郷田は話す。


「だ・か・ら、言ったじゃねぇか。お前達とは生きてきた世界が違うと」


西牙は歩みを止めた。


「生きてきた世界が違うじゃと?」


郷田は問い掛ける。


「ククク、おっさん。特別に俺の生きてきた世界を語ってやろう・・・」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ