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転生!貧乏貴族の下剋上物語  作者: かめねこ
第一章 タイゼック家の使用人
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第32話 起動!コード:オーバーB!

 ウキリがひとしきり泣き終え、今は俺たちみんな縄から解放されていた。


「それで? これからウキリさんはどうするんですか?」

「え?」

「ウキリはとりあえずここを辞めなさい。その後は私がなんとかするわ」


 それはダメだ。

 そんなことになるなんて考えたく無いけど、ウキリに優越感を少しでも感じてしまったヒラムにその対象のウキリを渡すわけにはいかない。

 他の手段が見つからなかったとしても、実の妹のウキリをいじめるというやり方に出てしまったヒラムにすべてを任せるのは怖い。

 なんとか言いくるめないと......。


「それならぼくの家で雇いますよ?」

「え? い、いやいいわよ。そこまで迷惑かけたくないし、私の屋敷に相談するわ」

「でも確定してないですよね? それよりはぼくの家に来たほうが無難だと思いますけど?」

「......それは私がなんとかするから大丈夫よ」


 俺がウキリを渡すまいとしてることがヒラムにもわかったみたいだ。

 顔つきが強張ったあと、目を細めた。


「それに、あなたの家は貧乏で明日が貴族でいられるかもわからない状態でしょ? 妹をそんな危険なところに送れないわ。無難どころか将来を見据えるならあなたの所の方が危ない賭けよ」


 流石(さすが)ヒラム。痛い所をついてくる。


「じゃあこうしましょう。ウキリさんの衣食住はすべて良質なもの、つまりぼくたち家族と同じぐらいのものをずっと保証します。また、貴族から平民に堕ちたとしても月金貨1枚の仕送りを約束します」

「な!? そんなことを信じろと? 第一あなたにそれを決める権利があって? 子供との口約束ほど信じれないものは無いわ。せめて契約書を持ってくることね。そしたら許可してあげてもいいわ」

「じゃあ契約書を書きましょう」

「は?」


 俺は隠すことなく[亜空間収納箱無限(アイテムボックス∞)から紙とペンを取り出した。

 周囲を見渡すとクイキ以外は全員驚いた顔をしている。

 ......ん? 何か違和感を感じた。何故だろう。気になるけど、今はこっちを優先する。


「あれ? 言ってませんでしたっけ? ぼくアイテムボックス使えるんですよ?」

「き、聞いてなかったわね。でもいくら紙とペンを出したって正式な書類じゃないと......え?」

「正式ですよ? ちゃんと書いてあるでしょう?」


 その紙には『契約者は契約相手に対し、良質な衣服、食事、住まいを提供し、それが不可能となった場合、毎月金貨一枚を贈呈すること。また、これらが一週間の猶予を持っても破られた場合、契約者は死する呪いがかかるものとする』とかかれてある。

 さらにその下には『契約者{ソルト=ヨーベクマ} 契約相手{  } 見届け人{フォルダ=ヨーベクマ}{  }』と書いてある。俺と俺の父さんの名前だ。

 さらに父さんの名前のところにはヨーベクマ家の紋章判子が押されている。


「言われた通り用意しました。どうぞ書名を」

「な、なな......。まさか...私は...あなたに踊らされたって...いうの?」

「いや、そこまで大層なことしてないですけど......」

「そ、そんな......!」


 幼児にいいようにされたのが余程ショックなようで、俺の話を聞いてくれない。

 まぁいいや。とりあえずウキリにサインしてもらおう。


「ウキリさん、ここに名前を...」

「な、なんかよくわからないですけど...私、お姉ちゃんとまた離れてしまうのは嫌です...」


 くそ、ウキリはバカなんだった。

 リスクとリターンのことぐらい計算できるようにして欲しいな。これは家に来たら有能メイドサラヌギの超濃密授業を受けてもらおう。そうしよう。


「大丈夫ですよ。家にいても会おうと思えばいつでも会えます。それに不安なところにいくより、主人と知り合いのところに行った方が安心ですよ。悪い扱いをしないと約束もされてますし...」

「そ、そうなのですか?」

「そうですそうです。さ、ここにサインを」


 ......あれ? 卑怯な手口とか嘘とか言ってないのに俺が詐欺師みたいになってるな。

 んん?今回の悪役ってどっちだったけ?


「......ソルト、今回はヒーロー似合わない。......ドンマイ」


 おおうクイキ。悲しいこというなよ。

 おかしいな。目に汗が...。


 とりあえずウキリには書名してもらった。

 じゃあ見届け人はメイド長にしよう。


「メイド長! 話は聞いてましたね。ここにサインを......?」


 おかしい。メイド長が見当たらない。

 さっきの違和感はこれか!?


「何やってんだよメイド長!!」


 ちょうどその時、庭から悲鳴が聞こえた。

 嫌な予感がする。俺らは急いでそこに向かった。

 あ、男三人はあいつらの大好きな縄に括っておいた。


   *


 庭に出るとある範囲を囲うように人だかりができていた。

 なんとか人混みを掻き分けてでるとぽっかり空いた中心には料理長とメイド長が向かい会っていた。

 耳を澄ますとどうやらメイド長が料理長に追い詰められてるらしい。


「なにしてんだよメイド長! それはBランク以上の魔物が出た時用のゴーレム起動装置だろ!? 何でそんなもん持ち出してんだよ!? 魔物なんて近くにいねぇぞ!!」

「知ってますよ! 私は魔物じゃなくてこの屋敷を破壊してやるんです! ご主人様が私に惚れてしまう前に!! だから帰ってくる前にやらないと!!」

「な、なんの話かわからないが、そんなことしたら俺等全員職無しになっちまうぞ!」


 なるほど。状況説明ありがとう。

 つまり俺の話を聞いたメイド長がここの主人に好かれてしまったら人生が終わると知り、さらに自分が主人に惚れられてしまうと大きく勘違いしたため、それを回避すべくゴーレムで屋敷を破壊しようと思った訳か。

 そんなことしたらどっちにしたって人生詰むと思うけどな。


「そんなこと知らないわよ! どうせゴーレムがここで暴れたら大半が死ぬでしょう!!」


 わぁお、だいぶご乱心のようで...。

 そうだな、まず自分がここの主人に好かれると思ってる時点で......いや、ここの主人はふくよかな人が好きなのか?

 ダメだよな。自分の趣味が他の人も同じって訳じゃないだから。


「うわ、メイド長イタい勘違いしてるなぁ。ご主人様がメイド長を好きになるわけないのに.」


 そう呟いたのはいつの間にか俺の隣に来ていたラリアだ。

 結局メイド長は自意識過剰らしいな。

 でも目はマジだ。

 周りの野次馬(やじうま)はまだ危機感を感じていないようで、メイド長の言葉に動揺はしているが逃げ出す者はいない。


「ラリア、もしゴーレムが暴れ出したらパニクった使用人達を誘導してくれ」

「言われ無くてもやるつもりだったよ」


 さすがラリアだ。

 使用人にしとくのが惜しい人材。もし伯爵家の使用人じゃなかったら勧誘してるのにな。


 それからメイド長の暴走を料理長は必死に止めていたが、それでもメイド長は止まらなかった。


「もういいわ! すべてをなかったことしてやる!! ご主人様も、お坊っちゃんも、あのくそガキのことも、ここで働いていたということも、全部を消してやる!!!」


 あのくそガキって俺のことか? なんでそのワード達の中に俺も入ってるんだよ。

 そんなこと考えてるうちにメイド長はゴーレム発動条件らしき言葉を叫んだ。


「起動!コード:オーバーB!」


 安直な言葉を放ってから数秒、地面がゴゴゴ......と揺れだした。

 すると、一瞬だけ地面がパカッと空き、その間に7メートルほどのゴーレムが飛び出した。

 相変わらずこの屋敷は男心をくすぐるな。

 もしかしたら俺とこの家の主人は気が合うかも知れない。

 ただ、ゴーレムにロボット感が無いのがもったいない。手足はあるけど指はなく、首が無いため体と頭の境目がわからない。


 そんなことを考えている場合じゃなかった。

 ついにゴーレムが現れたことで使用人達はパニック状態だ。


「外に向かって! 慌てずに! とりあえずゴーレムの攻撃が来ない所まで!!」


 ラリアも声をかけて誘導しているが、全員がそれを聞いてる訳じゃない。


「速く逃げてください! さぁ!速く!!」

「ほら落ち着いて。まだゴーレムは動いて無いでしょ? 今の内に走って」


 中にはラリアと同じように誘導してくれる人もいる。

 おそらくこの調子なら全員逃げれるだろう。


「...ソルト。...あのゴーレムのこと」

「おお、クイキか。あのゴーレムがどうした?」

「...あのゴーレムの身体は金とヘマタイトの合金でできてる。...金の方が割合多いけど、少しヘマタイトが入ってるから防御力強い」

「なるほど」


 鑑定したのか。

 金の特性は(やわ)い、重い......あとは、錆びない、焦げないってのもあるけどこれは今は関係ないな。

 ヘマタイトの特性は魔力を通すと防御力が上がること、防御系の付与を付けやすいこと、それと微弱ではあるが治癒の効果もついている。


 金の性質から重量系の攻撃が主と考えていいだろう。

 重い拳で叩き潰すとか、体当たりとか。

 付与レベルにもよるが、金の柔いという弱点はヘマタイトでカバーされてるし、浅い傷だとヘマタイトの治癒効果で治ってしまう。


「情報をありがとう。クイキも逃げて」

「...いい。...あの人はいるのに、私だけ逃げることはしない」


 クイキがあの人と言って指を指した方に目を向けると、そこにはラリアが庭から出ないでこちらを見ていた。

 さらにそこから少し離れた所からはウキリやヒラム、あと料理長や[狐ちゃんファンクラブ会員]のフェイルなど、見知った顔ぶれが俺に向かって口々に何かを叫んでいる。たぶん逃げろ的なことだろう。


「...それに、ソルトなら安心」


 クイキはそれだけ言うと、ラリアの方へ走っていった。

 そんなこと言われたら頑張るしかないな。

 さてこの強敵をどうやって倒したものか。

読んでくださりありがとうございます。

「面白い!」「続きが気になる!」「起動!コード:オーバーB!」と思った方は是非下の評価ボタンを押してください。

それを励みに作者も頑張りたいと思います。


さて、もうそろそろクリスマスですね。

みなさんは何かご予定はありますか? え?作者?何も聞かないで下さい(目汗)

はい。そんな訳でクリスマスに一緒に過ごす恋人を描いた短編小説を書いてみました。小説が好きな人は楽しんでいただけると思います。

クリスマス イブの12/24の午後8:00に投稿しますので是非読んで見て下さい。

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