第33話 激闘!vsゴーレム
さて、倒すにしても力を、スキルや魔法を使うしかない。
使いたいけど見える範囲にクイキ、ラリア以外の人が居る。
ここで使ったらウキリ、ヒラム、料理長、メイド長に俺のチートがバレて後々面倒になる。
しょうがない、一回ラリアたちにお願いしてあの人たちを離れさせるか。
早速ラリアたちの方に向かおうとしたが、その前にゴーレムからゴゴゴ...と音がして引き留められた。
振り向くとゴーレムが屋敷に向かって腕を振り上げていた。
「なろ...っ!」
俺は咄嗟にアイテムボックスからウルセルクをとりだしてスキルを発動する。
「[剣術技・十二支剣技 寅、午、卯]!!」
午の効果を使って全力で走りだす。そのまま卯の跳躍力強化を活かしてゴーレムの腕と同じ高さまで飛び上がる。
俺は降り下ろされるゴーレムの腕に一直線に突っ込み、底上げされた筋力でその腕を弾くことに成功した。
しかしゴーレムの降り下ろす腕の攻撃力は思ったより高く、俺自身も弾かれ、地面に叩きつけられた。
「ぐぁぁっ!!」
くそ、背骨が折れた。
良かった、臓器には損傷はないようだ。
すぐさまミドルヒールをかける。傷が治ったのが自分でもわかった。
腕を弾かれぐらついていたゴーレムも体制を立て直し、今度はこちらに向かって腕を降り上げた。
どうやら俺を敵と認識したようだ。
良かった。これで屋敷が壊されない......。
ん? 俺は何でこの屋敷を守ろうとしてるんだ?
そう考えている間にゴーレムは俺に殴りかかる。俺もそれを横に飛び退いて避ける。
俺がこの屋敷守ることの利益はなんだ? むしろ壊された方がヨーベクマ家的には得な気がするのだが。
このまま壊すのを見守るのは少し罪悪感が残るよな。それは嫌だけど、でも言っちゃえばそれだけじゃないか?
少し働いただけなのに守る価値なんてあるのだろうか。
そう考えた時だった。
「この騒ぎはなんだ! .........ほえ?」
屋敷の窓からボウラが顔を出して、アホみたいな声をだした。
お前まだ逃げてなかったのか!
幸い今ゴーレムの標的は俺になっている。今のうちに逃げて欲しいが、玄関はゴーレムが暴れているせいで出ると危ない。
裏門があれば裏庭から出れるのだが、この屋敷に裏門はない。
まったく、しょうがない奴だな。
俺がさっさと片付けるしかないか。
「[剣術技・十二支剣技 子、丑、未]」
さらに剣技を重ねがけする。
......凄いな。このゴーレム弱点らしき弱点がない。
子の効果でゴーレムの弱点を探したが、弱点はゴーレムの心臓の位置にある"核"のようなものだけ。
つまり心臓にダメージを与えるのは自分の実力でやれってことだ。めんどくさい。
そうこう考えているうちにゴーレムが踏み潰そうとしてきた。
それも横に転がって避けた。
さすがに潰されたらたまったもんじゃない。
しかし避けた先に今度はゴーレムのパンチが迫ってきた。
咄嗟に避けることもできず、俺はそのパンチをもろに食らってしまった。
回る視界の中、2回の衝撃が襲い、3回目の衝撃で俺は止まった。おそらく2回バウンドしてから塀にぶつかったのだろう。
近くから俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。
「ソルト様! 大丈夫!?」
「ああ、たいしたダメージはないよ」
「え......あれ、で......?」
ラリアの顔が少し強ばった。というか引いた。
別にこれは剣技の未の効果であって俺が凄い訳じゃない。
未の効果は打撃ダメージ軽減。俺の身体の周りにモコモコの透明バリアができて衝撃を押さえてくれるようなイメージだ。
一応、殴られる寸前のところで身体を引いて衝撃を和らげはしたが、これだけじゃここまでダメージを減らすことはできなかっただろう。
「そうだ、ラリア。クイキ以外の人を俺が見えない位置に移動させてくれないか?」
「もうバレちゃってると思うけど?」
「うっ......」
確かに。
でもだからってこのまま見せとく訳にもいかないしなぁ。
「今からでも遅くないと思うから。よろしく」
「わかっt――!?」
もうここまで来たのか!?
咄嗟にラリアの身体を突き飛ばしたけど、俺は間に合わ無かった。
いや、ギリギリ間に合ったと言うべきか。身体は大丈夫だったものの、ゴーレムの腕が左足を潰したのだ。
「―――っ!!!!!」
言葉にならない叫びがでる。
この剣技はそこまでチートじゃない。バリアを張れるのは1日1回までと決まっている。
つまり1回攻撃を使うとそこから24時間経たないと再発動できないのだ。
おかげで今俺の左足は太ももの半分から下がぺっしゃんこ。一応皮が繋がってるけどぺっしゃんこ。
回復魔法はできるけど、痛いことに変わりない。あの拷問だってだいぶ痛かった。まだ我慢できるぐらいだったけど。
でもなんだ、痛覚軽減系のスキル持ってないのに、骨折れて我慢できることを考えるともしかしたら前世より素のステータスが高いのかもしれないな。
もしくは俺の精神がすでにぶっ壊れてるか。
......いや、俺の精神はいたって普通のハズだ。...たぶん。
それはともかく、今回はゴーレムの腕が俺の足を潰したまんま動かないから回復魔法がかけれない。
このまま回復してもゴーレムの重さに耐えれなくてまた潰れるだけだからな。
なんて冷静に判断できている時点でもうアウトじゃん。いやまて、ポジティブに考えてみよう。俺は精神が壊れたんじゃない、強くなったんだ。そのおかげで痛みに強い。
そうだろ? 俺は精神が強い精神が強い精神が強い......。
オーケー。俺は精神がとっても強い。自己暗示完了。
『レアスキル[精神強化]を修得しました』
ナイス!!
おお、まだ1レベルなのにだいぶ違うな。
なんか心が折れない気がする。
それにしてもいつこの腕を退けてくれるだろうか。
そう思って上を見上げると、俺に追撃しようと腕を降りかぶっているゴーレムが見えた。
いやいやいやっ!! さすがに死ぬって!!!
俺は咄嗟に左足をウルセルクで付け根から切り離して、もう片方の足で押さえていたゴーレムの腕を蹴り、剣技 卯の跳躍力強化を最大限に使い脱出する。
か、間一髪......。ギリギリで避けることができた。
にしても部位破損か。
新しいスキルでなんとか自我を保てているが、これが無かったら発狂して崩れ落ちていただろう。
あ、むり、だんだん痛くなってきた。痛い......痛い、痛い痛い痛い痛い......っ。
「いっっってぇぇぇぇぇぇぇ!」
訂正、レベル1じゃたいしたこと無かった。
こういう大きな怪我って後から痛くなるんだな。初めて知った。
部位破損は上級光魔法のミドルヒールじゃなおせない。だが、俺はまだ特級以上の勉強をしていない。
おそらくミドルヒールの上位互換はハイヒールだと思うが、俺のイメージが乏しいと俺の足が変な風に生えてくる。
それでもなんとかやるしかないのだが、イメージをしっかりとするには時間が必要だ。
しかしゴーレムがそんな大きな隙を見逃すはずがない。
どうしたものか......。
ゴーレムが俺の方に迫ってくる。
そう悩んでいるとゴーレムの後頭部にコツンッと石が当たった。
何事かと石が投げられた方へ目をやると、クイキが今また新たな石を投げようと振りかぶっていた。
「クイキ、なにしてんの!!!?」
「......ソルト、助けてる」
それは、分かるしありがたいけど、そんなことしたら標的がクイキに変わってクイキが危険だ。
「なんでそんなことしたの!!?」
「......いいから回復」
クイキは心配だが、この状態じゃ俺も何もできない。
今の一瞬だけ甘えて回復に専念させてもらおう。
*
私は何でこんなことしているのだろう。
わざわざ危険な相手を挑発して。
私だって怖い。今私の足は怖すぎて動けないぐらいガクガクしている。
こんなことしてたら私は死んでしまうかも知れない。それなのに私の体は気付いたら動いていた。
ソルトが光魔法を持っているのは[鑑定の目]で分かっていた。でも、あの怪我では詠唱にも時間がかかる。
少しでも時間を稼がないとソルトはこのゴーレムに殺されてしまう。
そんなの嫌だったからなんだと思う。
私はもう一個石を投げる。
ゴーレムはゆっくりとこちらを振り向いた。
......女の子がはしたないと思うけど、少し漏らしてしまった。怖いから許してほしい。
こんな自分の数倍もある相手と戦っているソルトは相変わらず凄い。
あの怪我だって私なら叫ぶだけじゃ治まらない。きっと失神してる。痛すぎて死んでる。というかその前にあそこで自分の足を切り離すなんて決断できない。
ゴーレムが腕を持ち上げた。
このゴーレムの武器であり弱点であるのは重さだ。
殴るという動作一つでも、腕が重いために"ため"が長く、その間は隙だらけ。
しかし、その時間を全力で逃げることに使っても身体の大きなこのゴーレムはほんの数歩で追い付いてしまう。
こんな短時間じゃ詠唱も終わる訳ない。私はここで死ぬのだろう。
でもソルトが生きてくれるなら、それでいい。
一度はソルトに救われた命。まさかこんなところで出会えるとは思わなかったけど、その命をソルトのために使わせてくれるなんて神様も粋なことをしてくれる。
誰かの役に立って死ねるんだ。悔いがないと言えば嘘になるけど、こんな形で終わる人生もいい。
嘘です。死にたくないです。
ソルトの助けになることが嬉しいのはホントだけどまだやり残したことがたくさんある。
ゴーレムの腕が降り下ろされた。
「クイキ!!!!」
ソルトが私を呼ぶ声が聞こえた。
なるほど、身体が重いから降り下ろす腕も勢いがついてとんでもない威力になるんだね。
私がそんなことを考えてるうちに、ゴーレムの腕は大きな音を立てて砂ぼこりを巻き上げた。




