第19話 討論!ぼくは無実だぁぁ!
◇2日目ー真夜中
どこにも明かりのない真夜中。
アルジニアには悪いけど急いでるから卵をもらっていこう。鶏舎の場所は分かっている。
音が出ないようにススス...と廊下を歩く。なんか忍者みたいだな、なんて思っていたら
「ひっ...! ど、どろぼ――んーーー!」
声がした後ろを振り返るとデールが叫ぼうとしていた。
とりあえず今はデールの口を左手でふさいで右手で肩を押さえる。
それでもデールはなんとか逃げようと必死なのか手足を俺に向かって振り回す。
「あ、こら、暴れないで。泥棒じゃないから――おおぅ!!」
振り回した腕が俺の頭を直撃しそうになったのでそれをのけ反ってよける。が、無防備になった俺の下半身のアレにデールの足がおもいっきり蹴り上げられた。
「っ...!!!?」
俺は言葉にならない叫びをあげ、その場で崩れ落ちデールから手を放してしまう。
「おじい様!! 泥棒!!!」
デールが叫ぶと少ししてアルジニアが部屋からナイフを持って出てきた。
アルジニアは俺にナイフを向けてデールを背後に隠すと大声を出してきた。
「おぉい、泥棒!! ここには渡せるものなんてない! 帰れ! これでも昔は騎士団のはしくれだったからお前なんぞ相手じゃないわ! じじいをなめるなよ!」
「.........」
「...なぁ、こいつ何で倒れてるんだ?」
「さぁ?」
デールさん、あなたのせいです。
俺は勘違いされ続けのも恐いからなんとか頑張って声を出す。
「...、...ぁ...ソ、ソルト...です。泥棒じゃないです」
「え? ソルト?」
「光魔法 [照明]」
俺の上にできた拳ほどの球体から光が発されると、家の中が昼間並に明るくなった。
「...本当にソルトか。どうしたんだ?そんなところで寝て。お前あれか、ムユウビョウとか言うやつか!?」
「違いますよ」
痛みがほんの少し治まったので床に手をつき、起き上がる。
「おじい様! この人泥棒じゃなくて、私たちが寝ている隙に殺そうとした殺し屋なのです! きっと」
「なんでだよ!」
デールがアルジニアの後ろからギャンギャン吠えてくる。デールの言葉を聞いたアルジニアがナイフを更に強く持ち直したのがみえた。このじいさん、孫のことすごい信頼してんな。
「じゃあ証拠を出してください!」
「そ、それは...武器を持ってないとか?」
なんだよ証拠って!! 裁判じゃないんだからさ。
しかしこの子、無口なのかと思ったが喋る時は結構喋るな。
「そんなのじゃダメです。一流の殺し屋はその場にあるもの全てが武器になるっていいいますし」
どこの漫画だよ。いや、このファンタジーな世界ならあり得る...のか?
「...じゃあ、ぼくが殺そうとしたっていう証拠はあるの?」
「あります。1つ目...」
何個もあんのかよ!
デールは指を1本立ててから話し始める。
「歩き方です。歩いている時に全く音がしませんでした」
「それは2人を起こさないように...」
「いや、音が全くしなかったのです。ただの貴族じゃない証拠です!」
「そんなの殺し屋だという証拠にはならないですよ...」
確かにただの貴族ではないけどね。貧乏だから他の貴族の使用人にまでなる貴族です。はい。
デールは2本目の指を立ててまた話し始める。
「まだありますよ。私を黙らせる時に普通の5歳とは思えない動きをしてましたよね!」
「それは武芸をたしなんでいるので...。っていうか、なんでそんなにぼくを殺し屋だと思うんです? 第一、殺し屋ならさっきの黙らせる時点で殺すことができてましたよ」
「うっ...! それは...そうですが」
お? 怯んだ。押せば勝てるかな?
「ぼくは卵を買いに来ただけです。今すぐ戻らないといけないので、お金をおいて卵を貰って行こうとこんな夜中に起きたんです」
「なんでそんなに急いでいるのですか?」
「それは事情があって、話すと長くなります」
「...かまいません、話してください」
俺はここに来た経緯と急いでいる理由をできるだけ省略して伝えた。
「...なるほど、辻褄はあってますね。完全には信用できませんが、卵は売りましょう」
「そうですか...! お金はこれです。この分の卵をください」
お金の入った袋をデールに渡すと卵の入った抱えるぐらいの大きさの木箱を持って来た。お礼を言って受け取ろうとしたら避けられた。
「その前に1つ教えてください、何故貴族の学校に行くためにわざわざそんなことをするのですか? そんなところに行ったらもっとひどいことになるかも知れませんのに...」
「...料理が美味しいって聞いたからです!」
「...は?」
「それに面白そうじゃないですか! 貴族は個性の強い人が多いから毎日暇をしなさそうで」
「あなた貧乏貴族って言われているのでしょう? いじめられるかも知れないのよ?」
「大丈夫です。やられたら10倍にして返してやりますよ。それができるだけの力を入学までにつけるつもりですから」
「...そう。それで武芸を...。強いのですね、あなたは」
まるで自分は違うみたいな言い方だな。まあいいや、さっさと帰ろう。
木箱を受け取り2人に挨拶をしてドアに向かう。
ガチャッ...
「村長!」
「ぶふぇろ! ...痛い」
「お、おお、ゴメンな坊主」
ドアの前に来た瞬間、ドアが勝手に開いた。開く方が内側だったため派手に顔をぶつけ、変な声を出してしまう。
見上げてみるとドアから30代ぐらいの男性が顔を出していた。
「あれ?お前どこの...いや、そんなことより村長! オークの群れがこの村に向かって来てます!」
そう言った男性の後ろからはたくさんの慌てた声が聞こえる。アルジニアってこの村の村長やってたのか。
「オークの群れか...数は?」
「見た感じだと50以上はいます!」
「ご、50!? なんて数だ...。この村はもう諦めるしかないか...」
「っ...! せっかくここまで...」
「今回はしょうがない、女と子供は直ぐにオークの群れと反対側に逃がせ! 男共は少しでも時間を稼げ! 俺はみんなをまとめてくる。お前はこの二人を頼むぞ!」
「わかりました。いきますよデール様、それと...」
「あ、僕はいいです。自分の帰るところがありますので」
男性がデールの手を握り、俺にも手をさしのべて来たから丁寧にお断りする。美人さんなら喜んでつなぐ...あ、いや、今は急いでるんだった。どっちにしても無理だわ。
やっと用事を思い出した俺は卵を取り、デールたちの家を出て直ぐにタイゼック家に向かったが走ろうとした瞬間、誰かに腕を掴まれた。
「何してんだ坊主! そっちはオークがいる方だぞ!」
掴んだのはさっきのドアから出てきた男性だ。勿論デールも横にいる。
「で、でも帰りがあっちで...」
「それでも今行ったら死ぬぞ! 家より命の方が大切だ!」
おそらく親切心でしてくれているのだろう。気持ちは嬉しいのだが、俺はオークなんて別に恐くない。多分1人で倒せるのに。ああ、時間が...!
そんなこと言える訳もなく男性は引きずってでも連れて行く。デールはその男性と手を繋いでテクテク歩いているが、たまに俺と目が合う度ピクッと反応する。かわいい。
じゃなくて...まだ警戒してるのだろうか? だったらなおさらこのまま戻させて貰える訳ないよな。どうしたもんか...。
ん? 向こうの方に見えるのは倒れた女の人?
「あ、あの! あそこで誰か倒れてます!」
「...! ゼリス!」
急いで近づくとやはり女の人がぐったりしていた。
「はぁ...はぁ...あな...た...!もう...頭が...出てる!」
「な!? 来週のはずだったじゃないか!」
「そんなこと...言ったって」
「よりによってこんな時にっ...くそ! デール様と坊主! そこで待っててくれ!」
会話からしておそらく、倒れているのはこの男性の妻で、予定より早く出産が始まってしまったのだろう。
男性は俺らを少し離れたところに誘導すると、妻と思われる人の方へ急ぎ足で戻った。男性は近くに通りかかるおばちゃんたちをなんとか説得して出産の手伝いをしてもらっている。
デールは出産に興味があるのか集団の方に近づいていく。
あれ? 今なら逃げ出せね?
俺は木箱を抱え直すとそこからそっと抜け出した。
いつも読んでいただきありがとうございます。
*お知らせ*
◎そろそろ活動報告を始めてみようかと考えています。始めた場合、修正や細かいお知らせ等はそちらに載せることになると思います。もし気になる方は是非とも活動報告の方もご覧下さい。
◎投稿ペースがだんだん落ちてきてしまっておりますが、極力早く投稿できる様に頑張ります。
これからもこの作品をよろしくお願いします。




