花咲く季節に
季節が廻り、春。
あのイベントから一週間後、王は元の姿に戻った。2人の姫はそれを支え、王国は再興への道を歩み始めている。
俺は、そんな花が咲き誇るギムレッド王国の下町を歩いていた。
ピンク、黄、橙。色とりどりの花が咲き、華やかな香りがあたりを包んでいる。
冬のイベントの頃は沈んだ表情をしていた住人達も多かったと思う。でも、今は下町には出店が並び、客引きの声が響いていた。
それはマナウスと同じような賑やかさで、環境や人種が違っても変わらない、生活の活気だ。
そこに、富士からのコールが届いた。
「よう富士。そろそろかとは思ってたけど、そっちはどんな感じだ?」
『ああ!凄えぞ。モンスターの種類から強さまで、マナウス方面とは違う奴ばっかりだからな。失敗も多いが、面白えよ』
冬の終わり。富士たちセントエルモのメンバーは、新たなモンスターとの戦闘を求め、マナウスを離れた。
拠点として選んだのは、南西へと進んだ先にある帝国領。
亜人種の存在が明るみに出ると、見つけたら倒してよし、と即お達しが出たくらいの人類至上主義の国だ。他国の人間も排斥するらしいから、帝国至上主義って考え方らしいけど。
まあ、色んな意味でおっかない国だ。
別に帝国の空気に合わせる気なんて、セントエルモにはさらさらない。だからこそ、時には面倒もあるらしいが、それでも楽しくやっているそうだ。
あいつらなら、どこにいても自分たちの楽しさを見つける連中だ。そういうクランだからこそ、心配はしていない。
通話が切れると、今度は鉄心からの連絡がきた。そういえば、そろそろか。
『やっほーカイ!やっと着いたから連絡だよ!』
「お疲れさん。で、そっちはどうなんだ?」
ハンドメイドはというと。
彼らは話し合いの末、先日ハンドメイドのクランとレストランを手放し、南東に旅立った。
ちなみに、情報の提供者だった妹も一緒に行ったらしい。
南西に広がるのは商業連合領。
そこに利益があるのなら、善悪、種族を問わずに利益を生み出すことに情熱を捧げる者たちの集まる連合国だ。
新天地で周りのプレイヤーと切磋琢磨しながら、誰かを支える生産をテーマに、活動を加速していくつもりらしい。
あれからも、みんなはそれぞれの道を歩き続けている。それを思うと、自分もやってやろうと思えるのだから不思議だ。
『それじゃあね!また、連絡するよ!カイもギムレッド王国の再興、頑張って!』
「ありがとう。お互い楽しくやっていこうな」
そして俺は。
あれから、時にソロで、時にパーティーで。その時々のプレイヤーやNPCと関わりながら、王国の復興に関わるクエストを受けつつVLOを楽しんでいる。
近隣に出る厄介なモンスター討伐。食材やポーション類の材料になるアイテムの探索。クエストは尽きることがなく、様子に合わせてマナウスとギムレッド王国を往復しながら活動していた。
特に王国の周辺の森は、モンスターの強さも、サイズも一段階は引き上がり、大いに苦戦している。
まあそれも込みで、工夫と挑戦の狩猟生活を送っているわけだが。
「カイさん、今日は何を狩りましょう!美味しいやつがいいですね!」
ウェンバーは、今もリゼルバームを拠点にしている。彼曰く、王都を奪還してもあそこが自分の故郷とのことだ。ただ、今は少し偉くなったようで、王国を陰から守る存在として、日夜奮闘している。
「はあ。カイ、いいかしら。ハーフリングの商人が交易で人気のレビランの雫を買い取りたいと言っていたわ。そちらを進めれば、より多くの財貨がみんなの手に渡るわね」
シルフレアは戦いの後に故郷へと帰った。この戦いで得たことを伝え、新たなエルフ族を王国へと導いている。それは困難な道のりだ。それでも、変化は少しずつ現れ始めている。
下町の商店街。賑やかな町角で、ウェンバーの尾が楽し気に揺れる。シルフレアはあきれながらも、楽しそうに口元が笑む。
二人の話を聞き、少し考える。
レビランの雫はここから北東で集められるな。その近くで食料になる獲物。数と強さは。こちらの戦力と準備で行けるか。マナウスとギムレッドにとってどの程度の利益になるか。…よし。
そうして口を開く。
「それなら、両方やっちゃおう」
だって、このパーティーだ。やれるなら、やらない手はないだろう。
「それなら、明日までの遠征を組むのが効率がいいだろうな」
後ろを歩いていたガイルが素早く遠征計画を整える。
ガイルは騎士団において、もっとも亜人種への理解が深い貴重な騎士となった。今はマナウスから王都に派遣され、両者をつなぐ架け橋として奔走している。
鳥が春を歌っている。
空を長剣を佩いたホークマンが飛ぶ。
青空の下でハーフリングがドワーフと交易をしている。
パラソルの日陰で、人間がエルフの屋台で昼食を頼んでいる。
下町に溢れる花を巡り、妖精族が蜜を集めている。
すべてが解決されたわけじゃない、変化の渦中にある都。
そこで、俺は今も物語の続きを歩いている。
「さあ、今回は何が狩れるかな」
前よりも少しだけ広くなった世界。この世界には、まだまだ知らないことがたくさん眠っている。
俺はソロで、パーティーで、そういう世界に触れながら、これからも狩りを続けていくんだろう。
それが、このゲームでの俺なりの猟師プレイなのだから。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
長かったようで、振り返ればあっという間だったカイの一年間の物語が、ようやくひとつの区切りを迎えました。
この物語はここで一区切りですが、カイたちの旅はまだ続いていきます。
季節の風に枝葉や花が揺れ、遠くで獲物が鳴き、沢山の未踏の地が待っている。そんなゲームのどこかで、今日もカイは銃を担いで森へ向かっていくことと思います。
またいつか、彼らの物語を語れる日が来たら嬉しいです。
その時は、ぜひまた一緒に旅をしていただければと思います。
筆不精で更新もすぐに止まり、止まれば年単位で動かない。
そんな拙作を読み、感想や反応を頂けること。それが私にとっての大きなモチベーションとなり、最後まで書こうとパソコンの前に向かうことが出来ました。
返信はできていませんでしたが、感想やご指摘、アドバイスなど、すべてに目を通しております。
拙作を書いた動機など、活動報告にでも書こうと思います。各キャラクターについてや聞きたいことなどありましたら、答えられる範囲でお答えしたいと思いますので、感想にでもお書きください。
また、拙い筆者の頭のなかに興味のある方は、一度覗いてみてやってください。
ここまで読んでくださった読者の方に、心からの感謝をこめて。




