プロローグ「サヴァー・アルベルト氏の日記」
ジャルファ王国、ヒヤマ地区。そこにかつて住んでいた、ある男の書き残した日記と、その日に起きた出来事の一端。日記はほとんど焼け焦げてなくなっており、かろうじて読めたのもこの程度だけである。
ヒューマ神歴1083年9月1日。
魔法学研究者として仕事を終えた夜のことだった。
その日は新月で、このヒヤマ地区では珍しく一つの星も見えない夜。星明かりなき暗闇は些か物寂しく、かすかに不安を感じる。
明日はまた、朝早くから仕事だ。『聖魔法』の原理解明を急げと、王都の役人は口うるさい。
研究資金は他国との戦争に使ってるせいで素材や魔導書が買えず、高度な魔力測定機を作れないというのに………]
「……ふぅ。」
羽根ペンを置いてため息をつき、澄んだ夜空をみあげる。星明かり照らす夜は、自然と私に安らぎを与えてくれるのだが、あいにくの今日だ。
相変わらず空には何も…いや、星があった。わずか1つ。まるで寝坊でもしたかのように、激しく光り輝いている。
その今まで見てきたどの星々よりも強い輝きを放つその星に、興味を抱かざるを得なかった。
しばらく眺めていると、星が増えていた。
2つ、3つ、4つ、5つ………9つある。はじめに見た大きな星を取り囲んでいる。その光景には、ある種の美しささえ感じた。
直後、私の視界を閃光が覆い尽くした。
ドゴォォォォォォォン……………
轟音を立て、木々が崩れ落ちる。動物たちは勿論、そこに巣食う凶暴な魔物たちですら、恐怖に慄き逃げ出している。
村人たちの喧騒で、この惨状を理解した。
火の手は私の家にも及ぼうとしている。このままでは、魔導書に燃え移ってしまう。大切な仕事道具を守るために、疲れた身体に鞭打ち、
「『冷魔結』ッ!!」
魔導書を手に取り、呪文を唱える。放った魔力は
氷となり、魔導書を守る防壁となる。氷が炎を食い止めている間に倉庫から宝箱を引っ張り出し、ありったけの魔導書を詰めていく。宝箱があってよかった。詰め終えたら、早く家を出ないと。
ドタドタと音を立て、扉を開ける。外はここよりもひどい大火事だ。炎から逃れるもの、消しに向かうものたちがごった返している。彼ら皆、魔法は使えない。
私のように魔法を扱えるものは少数で、この世界の人口のわずか3割近くしかいないらしい。そのなかでも、1割にも満たない、神からの祝福を得た者たちが使える特殊な魔法。
個人個人によって能力がまるっきり異なる、独自性の強く、法則性がまるで掴めない魔法。
それが『聖魔法』。扱えるものなら、この状況を打破できたかもしれない。
根本を断つべく、炎を消しながら進んでいった。あの星々は、もう空にはいない。そんなことを考えながら燃え盛る森林を歩いていると、不自然にひらけた場所にたどり着いた。
焦げ付いた木々、焼けて消え去った緑。そして大地をえぐる円状の大きなくぼみと、中心に突き刺さった10個の岩のようなもの。間違いない。ここが炎の原因だ。
プシュー………
煙の音。だが、何かがおかしい。
音は突発的に、そこに現れた。
悪寒が走った。私は、一度物陰に潜み、様子を探ることにした。
「な、なんだあれは!!」
偶然、近くを通りかかった2人の冒険者が、この岩を発見した。どうやら騒ぎを聞きつけてやってきたらしい。
冒険者の2人は、周囲に罠がないことを確認して、奇異の目で岩を観察していた。
「これは…!こんな物体、見たこともない…!
自然の物とはとても思えない!」
「まるで宝物…!空から落ちてきた宝物なんて…!
ねぇリノア、なんだかロマンチックじゃない?」
「ディーム!冗談言ってる場合じゃないだろ!」
……これはこれは、お熱いカップルだこと。
リノアと、ディームといったか。彼らが話していると、突如として岩から魔力が噴き出した。彼らが岩を割ったのか。かいいや、
岩がひとりでに割れた。
岩の中から姿を現したのは、黒く、重々しく、そして何より禍々しい鎧に全身を包んだ大男だった。素顔はおろか、素肌すら見えない。ただ兜の隙間から、目が赤く光っている。
あれは一体何なんだ。そもそもあれは、人間なのか。
「人間………か…………」
男はゆっくりとつぶやいた。冒険者たちの顔から笑みや驚きが消え、恐怖に染まっていった。
「お、お前は……誰なんだ……?」
リノアが恐怖に震えながらも、大男に質問する。
リノアたちは、まだ駆け出しの冒険者だったのだろうか。
しかし、私も観ていて震えが止まらない。
私が彼の立場にいたら、同じ質問をしていただろう。
「……我は『ナルガ・マドラ』。
貴様ら人間は、9つの極罪を犯した大罪人。よって
わが創造主の命の下に、滅びという裁きを与える。」
そう言い放つと、ナルガ・マドラと名乗る大男の足元から
黒い魔力が噴き出し、大地を覆う。地面に流れた魔力は隆起し、鋭い槍を形成していく。
何なんだ、アレは!?あれも魔法なのか!?
まさか、今見たアレが、アレこそが『聖魔法』だとでも言うのだろうか!?
ナルガ・マドラはおぞましき黒い魔力を操り、いとも容易く、そして容赦なく貫いた。ほんの数秒で二人を物言わぬ肉塊へと変えてしまったのである。
恐ろしい。ただ恐ろしい。あの圧倒的な力の強さが、一瞬のうちに何の抵抗感もなく相手を殺す残忍さと冷酷さが!!
彼の言うことが正しければ、彼は人類を滅ぼす気だ。
それは一体なぜ…?彼の言った『大罪』とは、一体なんなんだ!!
謎が謎を呼ぶ。恐怖で息が詰まる。
私のなかの何かが、逃げろと叫んでいる。
即座に、そして静かにその場を離れようとした。
……真後ろに伸びていた、真っ黒い槍に気づくことなく。
初めて書いた作品でござんす。
文章的に拙いところ、誤字脱字等様々あるかと思われますが、楽しんでいただければ幸いです。




