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覚醒


……肘掛けが妙に硬かった。


いや、そもそも自室の椅子に肘掛けなどあっただろうか。


勉強でもしたまま寝落ちたのだろう。覚醒時特有の倦怠感に身を委ねながら、私は瞼を閉じたまま指先で肘掛けをなぞった。


「…………?」


金属のようにひんやりとした感触が返ってくる。装飾なのか、表面には細かな凹凸が刻まれていた。

自分が何に触れているのか気になり、薄く目を開く。できることなら、このまま微睡みの中に沈んでいたかった。


 …………法廷?


その瞬間、眠気は跡形もなく吹き飛んだ。

目の前には証言台を思わせる台があり、みすぼらしい身なりの少年が一人立たされている。周囲を囲む人々は、誰もが険しい視線を彼に向けていた。


夢だろうか。


ふと落とした視線の先にあったのは、見慣れないほど小さな手だった。幼い子どものものとしか思えない。これは誰だ。


慌てて周囲を見回す。


どうやら私は部屋の中でも一段高い場所に座っているらしい。そのおかげで、この異様な空気に包まれた空間全体を見渡すことができた。


「何かございましたか?」


隣に控えていた壮年の男が、声を潜めて問いかける。


「えぇと……」


状況がまるで理解できず、私は言葉に詰まった。

気づけば、右手に握っていた杖を強く握りしめている。

意識を逸らすように視線を落とすと、杖の先端には深い青色に輝く大きな宝石が嵌め込まれていた。


その輝きを目にした瞬間――


私は激しい記憶の奔流に呑み込まれた。


 思わず頭を抱えて座っていた豪奢な椅子から崩れ落ちる。ガシャンと高そうな杖が倒れる大きな音が響いた。

 

「うぅぅ……」

「陛下っ!?」


 周囲が一気に騒然とした。しかしそれに反応できない。かつてないほど膨大な情報が滝のように脳へ流れ込み、吐き気が喉元までせり上がる。思わず口を押さえた。

 

「医者を呼べ!」

「陛下、陛下!」

「姫様、どうなさいましたか!?」


 滝汗がぼたぼたと床に落ちる。


 ――あぁ。思い出した。


 先日私の馬車に轢かれそうになった可哀想な少年を、帝室への不敬罪でこの裁判で裁いている。

 彼は、悪くないのに。

「この世界」の私に関する今までの記憶がなだれ込んできた衝撃が段々と収まってくる。抱き起こされ、医師に付き添われ強制的に法廷から退出した私は、薄れゆく意識に抗えず目を閉じた。


 ――そうだ。


 アンヌツィアータ・サフィルス・ティエール


 ティエール帝国の皇女にして、出生と同時に帝位を継いだ生まれながらの女帝である、私の名だ。

 

 

 

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