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そんなことをあっけらかんに言う。
言うは易し。
妹とはいえさすがに犯罪的だ。
「出来ません」
「ふーん、タイムサービス中なのによー」
黒伽は僕の答えを気にせず鼻唄混じりに自分で身体を触り、拘束を解いて行く。
そんな誰のせいでなったかは知らないが黒伽が十分に動けない隙を狙って僕は逃げられないように抱きしめ、強く言う。
「黒伽から離れなさい」
「ふふーん」
いやらしく口角が上がった。
「固いこと言うなって。ほら、ちゅーしてやるからさ」
せまる黒伽の顔。
それはとても伽羅に似ていて。
「……っ」
逃げられず呆然としていると、頬っぺたにキスをされた。
咄嗟に距離を置いてしまう。
一メートル。
思わず睨む。
「怖い顔しなさんなって。それとも唇が良かったのかい?」
そういってくるりとその場で一回転。
すると僕の学園の制服を真似たようだった。
そう、真似たので黒伽の体躯に僕の制服だとぶかぶかだ。
模倣性の概念。
真似ることを得意とする。
迂闊な行動をすれば行動を真似られてしまう。
僕が出方を窺っていると。
彼女は手を挙げた。
「何も出来ないって。黒伽との相性はあんまり良くないから、天想代力を沢山使うと戻っちまうからしたくても出来ないんだって」
「じゃあ……なにしにきたの?」
「んー、なんだろうなあ。なんか言われてた気がするんだが……うん、忘れた! わーすーれーたー! あははは」
黒伽は物静かな子だったので模倣性の概念のせいで僕の中での黒伽のイメージが崩れる。
「あー、そうそう」
「……思い出した?」
「いんや、ちげーし。さっきさ、黒伽の身体から出て行けって言ったよな?」
「うん、そうだけど」
「じゃあさ。周の中に入れてくれよ」
突飛な考えだった。
でも、確か僕の中ってぐちゃぐちゃで天想代力の概念が入れなくされているって言っていた様な。
おそらく伽羅のせいだろうけれども。
「なあ、良いだろう? 交渉成立する?」
僕は少し考えてから首を横に振った。
「ふーん、別に良いけどよー」
少しむくれ面。
感情の起伏がわかりやすい。
僕が更に質問を重ねようとしたとき、廊下側のドアが開いた。
「周ー?」
都和だった。
都和が入ってきたことにより、模倣性の概念は消えてしまった。
残ったのは。
「あ、あれ……? なんでこんなところに……」
黒伽だった。
貧乏くじを引かされているのではないのだろうか。
「周にぃ……」
涙目で後ろから抱きついてくる黒伽。
それはきっと急なことで不安になったためだろうけれども。
「はあ?」
都和の顔に険しくなったのを僕は見逃さなかった。




