206
思わず苦笑い。
「ほんと、小夜ってば……僕が初めから嫌ってたらどうしてたんだよ」
「んー。んふふふー」
糸でハートマークを作って見せられた。
「待って無理やりってこと?」
「いや、しませんよ? そういうのは好きじゃないですよ。どちらかというと私は好きな人に無理やりにされる方が好きですから」
「……全く」
小夜は嬉しそうに無垢に笑い、僕を追いつめて行くのだった。
「とりあえず、今日の夜は男の周さんになってもらいますからね」
五限終了時間と共に教室に戻り、鞄を持って帰ることへ。
クラスメイトの雫、美冬の両名には怪しまれたが僕は貧血で保健室にいたとだけいって足早に体調不良なことを印象付けて去った。
どうせ明日は休みなんだ。休み明けになったら忘れているだろう。
「希望的観測だけどね……さて」
下駄箱には二枚の紙が入っていた。
一枚は可愛い便箋にハートマークのシールで封してあり。もう一枚は筆で書いたのか達筆な文字のせいで読めなかった。
今の時代に手紙とは古風だ。
それよりも目立たないようにしていたのになぜこんなものが届く。
ぐるりと周囲を見渡す。
十五名といったところか。一人は僕の視線で逃げた。
手紙を出した一人なのだろうか?
「よ!」
そして、ぐるりとみた先に都和がいた。
「お疲れ様」
「ああ、お疲れさん」
そうは言うもの視線は僕の手元を見ていた。
隠す必要もないので聞いてみる。
「これはどう対応するべき?」
「あー、それは傷付けないでってことか?」
こくんと頷くと都和は僕に顔を寄せてきた。
「……っせい!?」
キスされかけたので僕は咄嗟に肩を押し、突き放す。
「拒むなよ。良い手じゃないか?」
「極端すぎるわ!」
「良いね。周から弱いつっこみ以外を引き出せたってこと」
にぃと笑う。
僕は呆れつつ何かを言おうとしたが、大声を出したせいで視線が集中していたので諦めた。
帰りながら手紙を見るとしよう。
「都和、帰るよ」
「はーい」
都和は雑に後ろの女学生に手を振ると、僕の後ろをついてきた。
副会長だからこそ人望はあるのか数人は手を振り返してくれているようだった。
それでは寮に帰るまでの間に読むとしよう。
一枚目。
お慕いしておりますの手紙だった。
友達になって欲しい旨をつらつらと書いてある。
「あー、キツネ目の三年生か。でもこいつはロリ会長の商売敵の娘だからなあ」
「どろどろした友人関係になりそうってこと? じゃあパスで」
二枚目はなんとか半分解読。半分の内容からお茶会の誘いなことに気付く。
「あー、茶道部のあのお姉さん。でもこいつ、話が長いんだよなあ」
「んー……お断りしないとね。それにしてもラブレターじゃなくて良かったよ」
「ああ、この手に宿りし力が葬り去ってしまうからな」
そういって、右手を僕に見せる。
ただの右手だが、能力を使うと言うのならわりと洒落にならない。
「都和はその能力。使いこなせるの?」
「んー、あんまり」
「あんまりなの!?」




