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その後数度謝り、その度に殴られた。
勿論再現性で治さないといけない程ではないけれども結構痛い。
「はぁーはぁー……」
「息を切らせるほどなの?」
「ぐっ……!」
「あっ」
失言だったかもしれない。
振りかぶった拳から救ってくれたのは物音だった。
高いところからボールが落ちる小気味のいい音。
聞き誤りでは無ければ準備倉庫からだ。
「ふぅー……」
楔は呼吸を落ち着けると僕に背を向けて音のした場所に歩いて行った。
だが、ドアに手をかけても鍵が閉まっていて開かない様子だったが楔は無理やりドアを開けていた。
天想代力を使ったらしい。
僕は何も言わずに倉庫に消えて行った楔を追って行った。
倉庫の中は整然としていてボールが落ちるようになっていなかった。
それに地面にボールは落ちていない。
「逃げられた?」
楔はそう口にする。
まるで怒りの捌け口を失ったかのように言葉の端がいらついているように聞こえた。
僕は怒りの感情を逆撫でしないように極めて冷静に言う。
「自然とボールが落ちたんじゃない?」
先にも言ったようにボールが落ちるようにも地面にもない。
「周、ここからでしたよね?」
「ええ、この辺りのようには聞こえました」
楔は少し考え出したが、予鈴が鳴ったところで諦めたようだった。
「えっと、楔。ちゃんと埋め合わせは考えておくから」
「……それじゃあ、また演劇するから心の準備だけしておきなさい」
「ぐっ……まあ一回だけね。それと一緒に戻ると他の人に気にされるから少し後から僕はいくよ」
「はいはい」
僕は後ろ姿を見送ってから倉庫に戻った。
「さてと、状況再現するか」
誰がいたかの時間再生。便利なものだ。
「なー」
そう思っていると奥から猫の声が聞こえた。
「……えっと」
そういうことなのだろうか。
奥に行くとやはりというか猫がいた。
長い毛をした小さい三毛猫。
三メートルの距離から話す。
「さすがに不自然だから聞いておくけれども、君は人間だよね?」