1-5 使い魔の変化
迷宮からリノとルナールが地上へと戻ると、直ぐに宿屋に向かいベッドに横になってしまう。野営で寝てはいたが、熟睡は出来ないから安全な宿に戻れば熟睡してしまうのも仕方がなかった。
熟睡してから、どの位の刻が過ぎたのかは定かではなかったが、宿に戻って着たのは日が真上にある時だから、数刻は寝ていたことになる。夜闇が窓の外に広がっている、ルナールをリノが起きた事に気が付くと首をリノの方に向けて(お腹空いた)と念話で話しかけてきていた。
リノは急に頭の中に聞こえてきた事に驚いてしまい、身構えるが周りにはルナールの姿しか居なかった。そして、ルナールの尻尾がバッサバッサと勢いよく振られて機嫌が良い事がわかるのだが、目の錯覚かと思ったがそうではない。尻尾の数が二本に増えている事に気が付く。
迷宮に潜っていた時は、ルナールの姿を気にする余裕はなかったが、宿に戻り緊張も解け心にも余裕が戻って着たからか、使い魔の変化にようやく気付いた。リノは頭でルナールに対して話始める。
(お腹空いたと言ったのはルナールかい?)
(そうだよ、ご主人と話が出来る様になったみたい)
リノは魔獣屋で使い魔とバイパスが繋がったと聞かされていたが、まさか会話が出来るとは考えもしていなかったから、驚いてしまっていた。
(そうだな、俺もお腹が空いたから何か食べたいな。何処か開いてる店は、まだあるかな)
(美味しいそうな匂いの場所に、ご主人を連れて行くよ。ここ開けて)
リノ達は部屋のドアを開けて外に出て行き、下の階に併設している食堂からは人の気配はするが、食事する音は聞こえてこなかった。食堂を覗いてみるが酒飲みが居るだけで厨房はもう火が落とされており真っ暗になっていた。
リノは食堂で呑んでいた者達に、この時間帯で食事が出来る場所はないかと尋ねる。
「この時間帯で営業してる店ってと、数件しかないぞ。この近くにもあるが……使い魔ろ入れる店ね……」
「使い魔と一緒に入れる店ならあるじゃねか~あのババァの店なら、この時間でも空いてるんじゃねの?」
酒盛りをしてるデルパーから店の場所を聞き終えたリノは、感謝を伝え終わると食堂を出てて紹介して貰った店に足を向けて歩き出していた。
(ご主人、今の人間臭かったよ。もう鼻が馬鹿になちゃうかと思った)
(そうか、ルナールは酒の匂いが苦手なんだな。俺も酒は飲むが嫌わないでくれよ))
(ご主人の事は好きだよ。お店でアタイが惚れちゃっうくらい瘴気が漏れ出していたしね)
リノは瘴気とは何かとルナールに聞き返していた。
(瘴気って人間が瘴気を放って攻撃してくる時に使うのが瘴気だよ)
(つまり、こちらの人間が言う所の魔術の事を瘴気とルナール達は呼んでいるって事でいいのか?)
(難しい事はわかんないよ。お母さんが言ってたから、そう言ってるだけだよ)
リノは納得してルナールに、瘴気は魔力だと教え始めた。
(ふぅ~ん、人間は魔力って呼ぶんだね。瘴気は魔力だね。分かったよ、ご主人)
(それで、美味しい匂いは何処から漂ってきてる?)
(こっち、こっち、付いてきて)
先程教えて貰った店と同じ方角に進みだしていた。
そして、程なくして人の喧騒が外に漏れだしている店の前でルナールは立ち止まり。
(ここから、美味しそうな匂いがする。ここにしよう)
(そうだな、美味しそうな匂いがするな、此処にするか)
一人と一匹は、真っ暗な街中で一軒だけ喧騒がする店に足を踏み入れていた。
店に入るとカウンター席に腰を下ろし、カウンターで酒を注いで居る給仕に声を掛けた。
「使い魔でも食べれる物って言うと……シチューでも良いかな?」
「薄目にして欲しいのだが、出来るか塩辛いのは苦手だと本人も言ってるしな」
「ミルクで薄めるけど、それでも良いかな?」
「あぁ~大丈夫だ。俺には薄めてないシチューとパンを頼む」
給仕は頷くと、奥の厨房に向かい注文のオーダーを料理人に伝えてから、またリノの前に戻ってくる。
「そうそう、お客さんは飲み物はどうするの?やっぱり黒エール?それともミード?」
「そうだな、黒エールってのを貰おうか」
「シチューが二杯鉄貨六枚、黒パンが一個鉄貨三枚、黒エールが一杯鉄貨三枚になるよ。おかわりする度に、料金を貰うよ」
リノは給仕に小銅貨二枚を渡してお釣りを貰い受ける。そうしている間に注文した品がカウンターの前まで運ばれリノ達は、久しぶりに暖かい食事を食べることが出来たのだった。
「あんた、シチュー一杯だけでは足りないだろ。ほれ皿を渡しな、おかわりをしないと体力が付かないよ」
まさに肝っ玉お母さんって言う感じの人物がリノの皿を取り上げると、無理やりにシチューを皿に大盛に注いで運んできてくれた。
「大盛は鉄貨八枚だよ。金払いな!お残しは許さないからね!」
リノは、お代わりなど頼んでも居ないのに、勝手に大盛にされてしまい余分な出費を強いられてしまう。デルパーで呑んでいた連中がババァと言っていた意味が、やっとリノは分かった。
そして、腹がパンパンになった一人と一匹は宿に戻って寝る事にしたのだが、腹が苦しくて寝付けないでいた。
(苦しいよ、苦しいよ……)
(俺も同じだ。今度からは食べ終わったら、直ぐに帰るぞ)
(うん、そうしようね。ご主人)
こうして朝になっても、お腹は空かないままでリノは馬具屋に荷車を取に出かける。
ーーーーーーーーーー
~~~馬具屋にて~~~
「やっと取りに来たか、本当なら昨日の内に渡したかったんだがな。デルパーなら遅れるのは仕方ねよな、何事も上手くは行かね~もんだよな!」
リノは昨日が受け渡しの日だと馬具屋の話で気が付くが、馬具屋は物事は全てが上手く行くことは稀だとして、取りに来るのが遅れた事に理解を示してくれた。リノは迷宮に入っていた事や、ルナールの進化をさせていた事などを説明したうえで馬具屋に謝罪して詫びた。
「まぁ~使い魔も進化したみたいだし、お客さんが無事に戻ってこれたんだから、こっちとしても損はしてないしな。もしこれで、お客さんが死んでたら目も当てられなかったよ。大損だぜ!」
「迷惑をかけてすまん」
リノは残りの代金を馬具屋で支払うと、馬具屋の親方と共に裏手にある納屋に向かった。
「どうよ。この完璧な仕上がりは!文句の付けようがない出来上がりだぜ」
親方が鼻息を荒くしながら見せた荷車は、今までの人が引く梶棒が延長されており、ルナールが荷車を引き易いようになっており、前より少しだけ長くなっていた。
馬具屋の親方は、輓き用ハーネスをルナールの体に取り付けても良いかリノに尋ねてから許可をもらってから、ハーネスをリノに取り付けを教えながら取り付けた。
リノと親方は、何回か取り外しと取り付けを繰り返してから、「また何かあったらこいよな」と声を掛けてから店に戻っていく姿を見送ると、リノは荷車に腰を下ろしてルナールに宿に戻る様に命令していた。
(えっ、ご主人が載ると重いんだけど、何で載るの?)
(訓練だ訓練!さぁ~早く宿に戻るぞ)
人気のない場所で、リノは迷宮からの産出したドロップ品を荷車の荷台にショルダーサックから取り出して、積み上げていくとルナールから悲痛の心の声が漏れ出していた(もう無理、無理だから、許してよ。ご主人)
そして、荷物を積んだ荷車はデルパー事務所の裏手にやって着ていた。
「あはぁ?なんだこの量の木材とかは……街としては助かるがよ……量が多くねか?何日間迷宮に籠ったら、此処までになるんだよ」
解体場の職員から、嬉しいのか悲鳴が聞こえてきたが、リノは無視をして木札を渡して欲しいと言うと。
「半刻したら、また来てくれ、直ぐには無理だ。ひぃ~」
半刻と言われたリノは、武器の手入れでもして時間を潰そうと思い解体所の外に出てから、隅に腰を下ろしてから剣を磨きだしていた。
(ご主人、喉が渇いたよ。何か飲みたい)
(ルナール!良いか良く聴け、俺の知る使い魔はな、このくらいの量で根を上げたりしなかったんだ。だから、お前でも鍛えれば、この量を運べるようになる!)
その言葉を聞き終えたルナールは、直ぐにリノから逃亡を始めたがリノは直ぐに追いつき、胴体を持ち上げられたルナールは何も出来ないまま連行されてしまう。
(死ぬから、もう死んじゃうから、これ以上の荷物とか無理だから)
ルナールはリノに懇願したが、その懇願がリノに届くことはなかった。
ルナールが逃亡したりしている間にも解体所の職員は、持ち込まれたドロップ品を清算していた。そして、やっと計算が終わる頃にデルパーの親方が解体所に表れて、職員に尋ねていた。
「全部で銀貨四枚と銅貨七枚ですね」
「よし、全部で銀貨五枚にしろ。木札を渡す時に私が探していたと伝えろ良いな?」
「はい親方」
暴れるルナールを肩に担いで解体所に表れたリノに、親方が話があると伝えた後に職員はリノに木札を渡し終えた。
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