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わたしのことを気遣うような表情。余計な心配をさせまいと大丈夫だと言ったのに、逆効果だったようだ。
「な、なんでもないって……。本当に」
それでも、わたしは先ほどのことを言わない。口にしてしまえば、あの人影が、本当にいたことを認めてしまうような気がして。
いや、実在したんだけれども。それでも、黙っていれば、夢だったと、そんなものはいなかったんだと、まだ、自分に言い聞かせることができる気がしたから。
でも――なによりも。
久慈くんに余計なことを言って、心配をかけさせたくない。せっかく友達になってくれたのだから。嫌な感情を抱かせたくない。
――ポコン。
久慈くんとわたしの間に流れる、思い空気の中、場違いな、間抜けな音が響く。
わたしのスマホの、メッセージアプリの通知音。
久慈くんに、先ほどのことをごまかしきれなくなりそうになっていたわたしは、反射的にスマホを見た。
それが、失敗だった。
『何無視してんだよ』
『常識がない』
『親も親なら子も子』
前の学校の、クラスグループメッセージの、メッセージ通知がどんどん更新されていく。わたしたちの学校が放課後ということは、前の学校も放課後なのだろう。多少の誤差はあれど、基本的に学校の放課後の時間なんて変わらない。
もう返さなくたって構わない。学校が変わっているのだから、簡単に縁を切れる。
そんなこと、分かり切っているのに、わたしはこのグループから退出することができないでいた。
もし、このグループから抜けて、何かあれば、今度こそ、わたしは逃げ場がなくなってしまうから。
「ごめん、おばあちゃんから連絡あって、帰りにお使い行かなきゃだから、もう、帰るね」
先ほど、追いかけられたことを隠すごまかしよりも、ずっとスムーズに口から嘘が出た。こちらのほうが、ずっと隠し慣れている。
ポコポコポコとなり続ける通知音に、「おばあちゃん、スマホ使い慣れてなくて、すぐ短文でメッセージ送っちゃうの」とわたしは作り笑いを浮かべる。
「じゃあ、またね」
「うん、また……」
まだ少し、納得していないような表情の久慈くんだったが、わたしが別れの挨拶をすると、軽く手を振ってくれる。
校門を出るまで、足早に歩く。久慈くんが追いかけてこないこと、クラスメイトが近くにいないことを確認して、わたしは、近くの電柱に隠れるようにしながらスマホを開き、メッセージアプリを確認する。
そこには、わたしをなじる言葉がずらりと並んでいた。あまりにも量が多い。一つひとつに返している余裕はないが、かといって、このまま何もしないでいたら、通知が止まらないだろう。
『申し訳ありません』
わたしが一言メッセージを送ると、一旦、通知がやんだ。
けれども、すぐにまた、メッセージが届き始める。
『まとめて謝罪とか舐めてるの?』
『土下座しろ』
『悪いのはあんたって分かってる? 分かってないよね?』
グループに入っている人数が多い分、どんどんとメッセージが流れていく。これを収めるには一つひとつに返信をするべきだとは思うが、このままここでスマホをいじっていたら、久慈くんに見つかってしまうかもしれない。
わたしは少し迷って、通知音を消し、早く家に帰るべく、走り出した。




