一話 イチゴ
燃え盛る炎。
その炎はしたたる脂により更に炎の勢いが増す。
それは焔になりそうな勢いで燃え盛る。
その炎の向こう側に小柄な女性─。
腕を伸ばし─
パンッ!
パンパンッ!!
◇◇◇
炭が爆ぜた。
僕の目の前でアステリさんは狂気に満ちた瞳と張り裂けそうなぐらい口角を上げながら脂たっぷりの肉を頬張っている。
しかも使い込まれているボロボロのノートをテーブルに開き、クマが目立つ瞳で見ながら、肉をがっついている。
ノートには何が書いてあるのか見ても、殴り書きしているのか字が汚くてわからない。
これは高度なセキュリティなのかもしれない。
アステリ「クックックッ…アーッハッハッハ!!んんー!美味だねぇ。特にこの脂身…。シンマ君。どうしたのだね?ふむ、食欲がないのかね?なら、私がそのカルビ食してしんぜよう」
ヒョイ
パクッ
ヒョイ
パクッ
ボサボサの長い髪を振り乱しながら次々と肉を頬張っていく。
リスが頬袋一杯になっているように頬を膨らませ、狂気的で恍惚とした笑顔で咀嚼している。
しかし、よく食うなこの人…見た目小柄で顔も童顔だから相当幼く見えるから食いしん坊のお子様に見える。
黙っておとなしくしていれば美少女なのだが…。
しかし………。
ブツブツと独り言…というか、誰かと会話しているような……。
これが僕の捜査一課特命別室の相棒の合理的占い捜査官か…。
おかしいな。
聞いていたのは華麗な経歴の天才研究者的な女性捜査官と…。
シンマ「あ、あのアステリさんの趣味なんですか?」
我ながらベタすぎる質問をしてしまった。
アステリ「私の趣味かね?微表情学、心理学、統計学、人間観察、そして知的好奇心を満たす事だねぇ…。後、占いもだねぇ。占いはカオス理論として面白いのだよ。論理一辺倒よりも…」
そう言うとアステリさんはどデカいバックパックから水晶玉などの数々の占いグッズを嬉しそうに取り出し自慢してくる。
というか、お札やら何かの儀式に使いそうな人形やら…
占い師というより、まじない師…
数々の禍々しい物をみてると、ドヤ顔でこう言った。
アステリ「占ってしんぜよう」
燃え盛る炎に笑顔。
◇◇◇
<薄暗い部屋の中>
生きてる意味?
意味などないだろう。
意味を見出そうとしないとしないと生きていけないからだろう。
それなら意味を作ってあげるよ。
先生。
この手に握った苺のように…。
さあ、開けたらどうなっているかな…
◇◇◇
ザザッ…
緊急手配の一報が無線から流れる。
アステリ「ネコ探しから立てこもり事件かね…。これはおもしろくなりそうだねぇ」
アステリさんはタロットカードを見つめ呟いていた。
アステリ「早く奈落の底の深淵のその先をみせてくれたまえ」
そう呟くとアステリさんはダボダボの白衣のようなコートの襟を立てた。
◇◇◇
<車内>
僕はどこかで行きたくない気持ちがあることを分かっていた。
緊張からかハンドルを握る手に汗が…。
アステリ「見えたねぇ」
ビクッ!
いきなりどした?何が見えた?
横目でアステリさんをチラッと見ると、なにやら水晶をまじまじと見つめながら怪しい手つきをしている。
アステリ「なあ、シンマ君。君の父は捜査官だろ?」
シンマ「な、なんで知ってるんですか?!千里眼ってやつですか…?その水晶で見えるんですか?!」
アステリ「資料を読んだからだ。な、そーゆーことだよ。人は簡単にそーなってしまうのだよ。オーソドックスな実験対象、先入観植え付けに成功っと。やはりこの確率から変動はしないか」
アステリさんは嬉しそうにボロボロのノートになにやら色々殴り書きしている。
あたかも水晶や千里眼で見抜いたかのように見せかけて、実は、事前に資料を読んでいただけ、という…。
まんまと先入観にハマってしまった僕は大丈夫なのだろうか…。
アステリ「シンマ君。君は素直で良い子だ。だが、気をつけたまえ。人間は無意識のうちに、こうに違い違いない、というバイアスにとらわれて生きている。人間が勝手に意味を見出し、都合の良い解釈をしてしまう生き物なのだよ。人の脳は簡単に支配される。その思い込み、その先入観、その素直さ、それは時として猛毒になる。くれぐれも用心したまえ」
◇◇◇
─臨場─
<ビル入り口付近>
大地吾郎「揃ったな。おい!アステリ!テメーはまたそんな大荷物で踏み込もうってか?!おいとけや!」
大地さん…今日もアステリさんに喧嘩腰だな。
典型的な犬猿の仲ってやつだ。
田中「今日も同じ服装ですね」
アステリ「私には服を選び決定するというのは無駄ですからねぇ。できるだけ決断を減らしたいので同じ服装、制服制にしているのだよ」
渡部「田中、どうでもいいことを…」
大地さんの周りには、糸目で常にヘラヘラしている田中さん、冷静沈着な渡部さん。
大地「おい!テメー何してんだ?!」
怒声を浴びているアステリさんを見ると…
地面に落ちている赤い液状のものを地面スレスレで観察し匂いを嗅いでいた。
アステリ「これは私の鼻が確かならストロベリーと断言でき─」
ガガッ!
無線「立てこもり犯がいるであろう部屋の窓ガラスに無数の赤い液体が飛び散って付着しているように見えます!」
大地吾郎「時間がねぇ!行くぞ!!」
◇◇◇
<ビル内>
大地「確保!!こいつ怪我してるぞ!」
アステリさんと僕は後衛で部屋の外で待機していたが、大地さんの一声を聞きアステリさんが即座に入る。
それを見て僕も部屋に入る。
部屋に入った瞬間その異常な光景を目の当たりにする。
一生忘れる事の出来ない光景の始まりだった。
無線の通り、部屋の窓ガラスには無数の赤い液体が飛び散っていた。
目の前にあるテーブルの上に横たえられた被害者は、左手の甲にひっかいたようなバツ印の様な傷、唇が刈り取られ、口の周りに赤い液体が塗りたくられた上、その中心に真っ赤な苺が置かれている。
さらに、テーブルの四方には赤い液体の入ったグラス、ナイフ、フォークが配置されている。
これは、まるで食事に見立てて装飾しているという、悪趣味で異常なメッセージが込められている。
僕はその異常なほど演出された食卓の様な異様な景色のせいで異世界に行きかける…。
少しでも抗おうとアステリさんの顔を見る。
アステリさんの表情はいつもと違い血の気の引いた戦慄の表情、いままで見たことないアステリさんだ。
アステリ「う、嘘…。ありえない……。この手口は…貴方はもういないはず…」
———
続く
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