11章-嘘
健太が玄関の扉を開けた瞬間、部屋に冷たい風が吹き込んだ。
外は真っ暗で、山の空気が肌を刺す。
そこに立っていたのは、何人かの制服の警察官と、詩乃。
後ろにパトカーが停まっていて、赤色灯が静かに回転している。
警察が、穏やかだが鋭い目で部屋の中を覗く。
「綾戸愛花さんはいらっしゃいますか?」
見なくても健太の手が震えているのがわかった。
彼は静かに、はっきりとした声で言った。
「……ここに、愛花はいません」
一瞬、部屋が静まり返った。私は息を潜め、部屋の隅に隠れて立っていた。刑事は眉を寄せた。
「あなたは交際相手の健太さんですね?……本当に綾戸愛花さんはいないんですか?」
健太は首を振った。
「俺もここに愛花がいるんじゃないかと探しに来ました。でも勘違いでした。今、事情を話してアパートの中を確認させてもらっていたんです、誰もいませんでした」警察官の一人が、部屋の中を覗き込もうとする。
健太は無意識に体で視線を遮る。
詩乃は警察の後ろに静かに立って、健太の顔を見つめる。
警察は簡単には引き下がらなかった。
「健太さん、あなたの行動を少し追跡させてもらいました。失踪事件の関係者として、念のため。あなたがこの山奥の町に来たのは今日のことですね。それと、通報をくれたトラック運転手の方——事故現場を目撃した方ですが、ここはその方の経営しているアパートだ」健太の肩が、少し固くなった。
「……偶然ですよ。俺はただ、探していただけで」
警察は小さく息を吐いた。
「偶然にしては、出来すぎています。まさか詳しく公表されてない通報をくれた運転手の方のアパートにあなたが訪ねていくとは」
私は胸が締め付けられた。警察は健太を尾行していた。
通報者と健太に接点はない。なのにここに辿り着いた。
詩乃と健太がいるこの状況は、偶然とは思えない。でも、健太は動じなかった。
「だからといって、綾戸愛花がここにいる証拠はないはずです。彼女は自分で消えた。俺も、もう諦めます」
警察たちは交互にお互いの顔を見合わせた。
詩乃は静かに口を開いた。
「本当に、勘違いだと思いますよ。こんな小さな町で、誰かを隠しているわけありません」
警察はもう一度部屋の中を覗き込んだ。玄関には黒いリボンがついた厚底靴が置いてある。でも、強制捜査令状はない。結局、引き上げるしかなかった。
「何か情報があれば、連絡ください」
パトカーのエンジン音が遠ざかっていく。扉を閉めた後、部屋に静けさが戻った。
健太が振り返り、その場に座り込んだ。
「……情けないけど、腰抜けちゃった。ごめん、愛花」
私は首を振った。
「ありがとう。健太」私は、ここに残ることを選んだ。
話し合いの最中、すべてを吐き出した——私は詩乃の優しさと、この静かな町を選んだ。
健太の愛情は痛いほどわかった。でも、もう過去に戻れない。
壊れた自分を、修復する自信がなかった。健太は、それを理解した。
泣きながら、受け止めてくれた。
「なら、俺は守る。お前がここにいるって、誰にも言わない。そうすれば」
健太は声を震わせながら言った。
「これは、未解決行方不明事件になる」
彼は警察に嘘をついた。私を守るために。
そして健太は町を去った。
きっともう二度と会わない。
数か月後、私は新しい名前を考えた。
詩乃と決めた、新しい名前。
町は静かで、新しい人生を生きている。
過去を捨てて。
机の上にはワインのボトルが数本置いてある。
そして、私はあのノートパソコンを開いた。
表示されているAIのチャット画面をコピーするために。
そして私は新しい名前で、インターネットに一つの小説をアップした。




