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5章-あの日
第4章を読み終えた瞬間、背中に汗が滲んでいることに気づいた。
部屋は静かだ。冷蔵庫の低い唸りと、パソコンのファンの音だけがしている。
机の上にはワインの瓶が転がっている。
赤ワイン。栓が開いたまま、持ってきたワインは残りわずか。
あの夜、山道の車の中で開けた一本と同じ銘柄。
雪の残るガードレールにぶつかった車の中、ガソリンが切れて、寒さを凌ぐためにワインの栓を抜いた時の音が、今でも耳に残っている。ポン、という軽い音。
そして、冷たい夜気とワインの香りが混じり合ったあの瞬間。私はそれを、終わりの味だと思っていた。画面の中の文字が、ぼんやりと霞んで見える。
莉太の最後の言葉が、頭の中で何度も繰り返される。「詩暢——」その名前を、私は知らない。でも、心当たりはある。
おそらく詩暢は、私をここへ連れてきてくれた人だ。
失踪の夜、彼女の車が山道に現れ、私は雪の道を下った。
彼女の運転するトラックの荷台に隠れて。
ニュースでは私の車は黒い軽自動車と報じられているけど、小説では白かった。
細かい違いがあるが、この話は私の。私の自身の話だ。
胸が締め付けられるように痛い。視界が狭まり、暗闇に飲まれるような錯覚に陥る。
綾戸愛花は、私だ。




