ALICE.84─白薔薇西庭園⇔上限。
──ランクアップ60。
──上限に達しました。
「やっと、上限か」
「うん。私もなった」
─ランク60。
それが、今回のランクの上限みたいだ。
そして、上限と言う言葉の意味する所は、まだ先が有る可能性が有ると思っても良いという事なのだろう。
遠くを見やると、未だにコチラを見やるように聳え立っている王城が見える。
あそこが最期の舞台になると言うのならば、その時こそ─ランクが最大まで伸びる時で有り、その舞台なのかも知れない。
「とりあえず、今ので最期のトランプ兵か?」
「─うん。呼び寄せない限りは…多分」
─そうだな。
確かに誘き出さない限りは来ないか。
とりあえず、俺はまだトランプ兵がこちらに来ないのを最後に確認しつつ─次の行動方針を頭の中で軽く確認していく。
まぁ、順当に進むというのならば─次はスキルの為にトランプ兵を狩っていく事になるだろう。
元々、その考え方は─イノリと話し合った時点で決めていた事でもある。
「もう少し狩っていくか?」
「う~ん、うん。まだ、陽も昇ったばかりだから」
「そうだな」
頭上を見やれば、地下空間というのに空がそこにあった。
それに実際の時間とリンクをしているのは確認済みだ。
陽はまだ昇ったばかりだ。
普段でも夕方…陽が落ちる頃までは狩っている分としては、ここで切り上げるのは消化不良とも言えた。
とりあえず、イノリの方も考え方は同じ様だ。
もう少しだけ狩ろうと、互いに決めたのを確認し合うように俺達は頷き合い─思考を討伐へとシフトしつつ、再度…戦闘へと、俺達は身を委ねていくのだった。
「ランク上限に達したのですか!?」
「まぁ、な」
「イノリちゃんもですか?」
「うん」
まぁ、信弥と未来の二人からの─この反応は予測出来ていた。
ある程度、ランクという足並みを揃えられた頃に俺達は再度─二人で潜り込んでは狩っていた。
少人数、且つ─単純に狩るスピードが違うのだ。
一足先に俺達がランク上限に達する未来は想像出来ていたとは思うが、それでも未来達にとっては想定以上のスピードだったようで驚かれてしまっていた。
「ランク60が上限なのですね。そうなると、上限と言う事は─まだ、解放されるかも知れない可能性が有ると言う事なのでしょうね」
「─ああ。それは、イノリと俺も同意見だ」
俺達にヒアリングを取りつつ、未来は手元を操作し─メモを取っているようだった。
まぁ、ヒアリングと言っても殊更─変な質問がある訳でも無い。
どのくらいの経験値量が必要だったのか、体感がどのくらい違うのか。
トランプ兵達と向き合った時の脅威の感じ方の違い方等、一般的な質問だ。
「未来? 私達も一先ずは、ランクの上限を目標に定めてみませんか?」
「─ええ、そうね。それに目標が定まったのなら、皆のやる気も…更に出るでしょうしね」
「それは良かったな」
未来達は俺達の情報を精査しては、これからの方針を信弥と共に相談しつつ─定め始めていた。
俺も然りげ無く、自身の感想を述べる迄に留めた。
彼ら彼女らにはそれぞれの責務があるのだ。
俺がそこまで口を突っ込むのも変な話だろう。
その位の良識は弁えているつもりだ。
「─カズキさん達は、私達の事を待てますか?」
「ん? いや、そうだな。意見を述べても良いのならば、正直な所─待つも何も、念には念を入れたい所だ。正直、ここからはスキルと…後は、防具を購入して揃えて行きたいと思っている。今現在、俺達の使っている防具も★4のままだ。普通に考えても、心許無いだろう? 現状の最大は─トランプ兵の数字から察するに★8なのだと推測している。武器に関しても、万が一を考えてもスペアとしても備えておきたい。その他にも有るとすれば、まだ上げきれていないギルド特典の方も上げたかったりもしているしな。とりあえず、願い出れると言うのなら─俺達も、もう暫くは─ここら辺で、狩り尽くして…経験値を貯めたい所だぞ?」
「…なら、私達の目的は今現在も同じで─大丈夫そうですね?」
「─ああ。それで問題ない」
そう言って、差し出されて来た未来の手を俺は握り返した。
攻略に向けての考え方が本当に似ていて助かったと思えていた。
人の考え方など千差万別だ。
人によってはゴリ押しを好んでは突き進もうとする者も居るだろう。
そういう考えの者とは、現状は反りが合わなかっただろう。
どちらかと言うと、今の所は俺達の思考は─慎重に慎重を重ねるタイプ寄りだと言える。
だからこそ、こうやって希望を伝えられては─改めて、考え方も近い…未来達の存在に俺達は助けられていると言えた。
「本当に準備が出来たと自信を持って胸を張れる時こそ、このセーフゾーンから出て─庭園の最奥、王城まで目指しましょう」
「─ああ、それで良い。少なくとも、俺達も…もう少し連係も詰めて行きたい所だからな」
「うん。私からもお願い」
「分かりました。では、そのような方向性で動いて行きましょう」
ランク上限の情報を共有して、俺達は未来達から離れ─セーフゾーン内の角にある、俺達に与えられた小屋の中で休息を取る事にするのだった。
「カズキさーん? もしもーし? カ、ズ、キさーん?」
「…イカレ帽子屋か」
横になっていた所、意識の遠くから声が聴こえた気がして目を開いてみると─目の前にイカレ帽子屋が居り、いつの間に室内に入り込んでいたのか…ひっそりと佇んでは、俺達を見下ろして来ていた。
だが、別に今更─彼がどうやって入り込んだか等は推測するだけ無駄な事だろう。
コイツは突然現れては、忽然と消えるのだ。
但し、一方的に現れて来たと言う事はそれ相応の理由があると推測した方が良いだろう。
半ば、意識がまだ夢の中に引きずられていたが─俺は意識を無理にでも覚醒させ、イカレ帽子屋へと胡散臭い者を見る視線を返した。
「おやぁー? 久し振りの再会だってぇーのに、喜んでくれないのかーぁね? 私は寂しく感じちゃうじゃないかーぁね? ねぇ?」
「いや…。─あぁ、そうだな。正直どういう反応をお前に返せば良いのか、俺は今…困惑している」
「はははは! それは結構、結構なのだーぁよ! 私の為に、俺の事を思って─困惑してくれるなんて、なんて素晴らしい事なのかーぁね! はっはっはっ!」
俺の独白に近い、正直な感想を述べたら述べたで─コイツは何が嬉しいのか、笑い声をあげては一人勝手に喜び始めていた。
暫くすれば笑い止むかと思えば、時間が経っても笑ったままなのを見て─俺は諦めて、イカレ帽子屋へと…ここに来た目的を探る為にも、質問を投げ掛ける事にした。
「それでいったい、俺達に何の用なんだ?」
「おやぁー? 俺はただ、キミ達のランク上限の達成を祝いに来ただけだーぁよ?」
「─おい、冗談を言うのは止めてくれ。お前の事は多少なりとも一緒に居る中で分かった所もある。…本当にそれだけなのか? お前は意味の無い行動を嫌う節が有るのは分かっているんだぞ? 正直に言え」
「……」
俺がイカレ帽子屋の冗談を遮るように圧を掛ければ、イカレ帽子屋は何が面白いのか─更に口角をニンマリと上げ、俺を真っ直ぐに見て来た。
しかし、まだ話そうとはしないらしい。
言葉がまだ足りないというのか?
寧ろ、俺の言葉の続きを促すように─顎で俺に話せと示して来た。
流石に、多少は尺に感じはするが話が進まないのは気持ちが悪い。
俺は自身の考えを話す為にも言葉を付け足す事にした。
「お前は余り意味もなく、人前には姿を見せないと俺は最近疑っている。そして、俺達にとって─お前は敵でも味方でもない。だが、メッセンジャー的な立ち位置なんじゃないか? 俺は今は、そう考えている。その中で、今回─何かを伝えようと、俺達に接触しに来たんじゃないのか? そう、俺は見ているが違うか?」
「……」
俺の言葉に先程までの笑い顔は打って変わり、鳴りを潜め無表情の顔で─イカレ帽子屋は俺を見てきていた。
「─再度、聞くぞ? 何を、俺達に伝えに来た?」
「…ふぅむ。どうやら、僕とキミ達とでは認識の齟齬があるようだーぁね? はははは! まぁ、そこは別に問題がある訳でも無いから良しとしますかーぁね? 私から伝えられるとするならば、ランクには上限がある事はご存知かーぁな? なら、こうも考えた事は無いのかーぁね? スキルとは果たして、何なのか? または、脳の可能性の上限はあるのではないのかーぁね? とか、キミ達はどう考えているのかーぁな?」
─コイツは急に何を話し始めた?
いや、認識の齟齬については良い。
いや、良くは無いのだが─きっと、話を詰めた所で答えの無い応酬になるのが目に見えている。
─問題は後半だ。
ランクの上限は分かる。
今まさに、そこに到達したばかりだ。
問題はスキル? それに脳の可能性の上限だと?
…何を言っている?
睨みを効かせてイカレ帽子屋を見返しても、コイツには意味が無い。
あくまでも、聞けと言うことか?
いや、対話が可能な事は救済措置と言えよう。
なら、俺に出来るのは対話を選ぶ事だ。
「おい、イカレ帽子屋? いい加減…一体全体、俺達に何が言いたいんだ? 素直に話す気が、そもそも無いと言う事なのか?」
「素直と言ったのかーぁね? 私は充分、素直だと思うのだけれどーぉもね? ふぅむ─ならば、こんな話でもするとしますかーぁね? ある男性と、少女─もしくは女性が居ました。それで、でぇーすね? 例えば、その二人はある日を境に─その、脳という可能性の宝物庫のリミッターを、献身的な人物により外されましたーとさ?」
─急に何の話だ?
いや、待て。
─話し始めたのだ。
話したと言う事は意味があるという事だ。
今、理解が出来ないのは俺に何かが足りないと言う事だ。
最後まで聞いてから判断しても、決して遅くは無いだろう。
その上で、聞いている中で俺の中で答えを見出しても─決して遅くは無いはずだ。
「…何が言いたい?」
「おやー? まぁだ、分からないのかーぁね? 脳のリミッターの解除と言ったのだーぁよ? それは可能性の拡張に他ならないと思わないのかーぁね? 可能性を拡張出来たというのならば、後はそこにスキルの可能性を詰め込むだけではなぁーくて? 分かったかーぁな?」
「…すまない。もう少し、噛み砕いて説明してくれ」
いや、これは分からない。
理解が足りないという事では無いだろう。
考え方の切り口が、そもそも見当外れなのでは無いのかと言えよう。
予想以上にイカレ帽子屋の説明が突拍子も無い事も要因の一つだろう。
だが、俺の理解が追い付いていないのも原因なのは認めざるを得ない所でもある。
─スキルの可能性を詰め込む?
─可能性の拡張?
どういう意味だ─?
そして、問題が有るとすれば…コイツは質問を重ねる事を嫌う質がある。
更に、質問を重ねても─大丈夫なのか?
「…マッドハッター」
「おやー? お嬢ちゃんの方もお目覚めかーぁね?」
「…私にも、ちゃんと教えて欲しい」
俺が悩んでいた所、横からイノリの合いの手が入ってくれた。
正直、助かったと言えた。
そして、イノリに関してはイカレ帽子屋も態度がいつも違うのだ。
何か進展が有るかも知れない。
「…アハッ! 流石の私もお嬢ちゃんに頼られてしまったら、真面目に答えてしまうのも道化の定めでしょうかーぁね! 良いでしょう良いでしょーう? さぁさぁ、お二方? 真実を知りたいと言うのならば─私の手の上に、キミ達の手を乗せたならば応えてみせようじゃないかーぁね!」
イノリからもお願いされたイカレ帽子屋は、これまでの様子とは打って変わり─驚いた表情になっては、次第に真剣な表情へと切り替わっていった。
そして、一つ頷いた後─真剣な表情は影に潜んでしまったかのように、いつもと変わらない…普段通りの胡散臭い笑顔の表情へと変わっており、俺達へと自身の手の甲を差し出して来ては─甲へと手を重ねる様に俺達へとイカレ帽子屋は合図をしてきていた。
俺とイノリは互いに顔を見合わせ、頷き合っては─イカレ帽子屋から差し出された手の甲へと、俺達の手を重ね合わせた。
「あぁ…! 宜しいでしょう! そうでしょう、そうでしょう! さぁ、私は道化師! そして、イカレ帽子屋! 私は世界の虚像で有り、そして─実像! 私は今ここに宣言する! 虚像を実像に! 嘘を真に! そして、可能性を今ここに導き出そうじゃなぁーいか! さぁ、その可能性よ! 今ここで、彼の者達へと─その存在証明を発現したまえ!」
イカレ帽子屋と俺達を中心に、イカレ帽子屋が言葉を唱えた瞬間─光が生まれ始めた。
段々と光が強く、眩く輝いていき─その眩しさに目が眩みそうになった瞬間、ボフンッ…と、重ね合わせた俺達の手の甲の上で爆発が起きた。
「…は?」
「─え?」
そして、俺とイノリの声が自然とハモってしまっていた。
それはそうだ。
ニンマリと笑顔の貼り付いたイカレ帽子屋が手を解いた先─俺達の手の甲には意味深なペンタグラムが刻まれていたのだから。
そのまま、一際光り輝いては手の甲のペンタグラムは─俺達の手の甲に溶けていくように消えていった。
「消えた…?」
「─ん。意識したら、出る」
イノリが手の甲を俺に見せてきては、そこには先程のペンタグラムが浮かび上がって来ていた。
─こうか?
意識を手の甲に向けると、俺の手の甲にもペンタグラムが浮かんで来た。
「んー! よしよし、成功だーぁね?」
「成功? 何を言っている…? 何かが変わっているのか? いや、これは─」
「ありがとう、マッドハッター…」
「ふふふ! ははははッ! お気になさらずにだーぁよ! 世界を欺くのは、私の得意分野なのだーぁからね! それに私はあくまでも見えるようにしただけだーぁよ。その贈り物自体は彼女からの可能性なのだーぁからね」
「ジュナ…」
「そうか、これが本当に贈られたものだったのか。それに、このスキルの横の表記の(+1)っていうのは─なんだ? …これが、可能性の拡張だっていうのか?」
イカレ帽子屋は未だに、満足そうに小躍りをしては─全身で喜びを示していた。
当の俺達はそれを咎める余裕等はあったもんじゃなかった。
今も確認に神経を割いては、俺は自身のステータスを追いかけて見ているが、全てのスキルの横に(+1)の表記が記載されていた。
要は単純にスキルが纏められただけでは無かったのだ。
それが今は如実にステータスとしても現れていた。
「この世界では、キミ達だけのあり得る可能性だーぁよ? その力は、あるポーンの女性からの本当に託したかったであろう贈り物だーぁよ。私はそれを開花させただけに過ぎないのだーぁよ。大切に育成する事だーぁね? では、励み給えなのだーぁよ。私はそろそろ、行こうとしようかーぁね? また、ここから出る時にでも会おうじゃなーぃか! バイバイだぁーよ」
そうして、手をヒラヒラと降りつつ─マントを翻すと共に、俺達の室内からイカレ帽子屋は溶けるように消えていった。
「これがジュナの託してくれた可能性だと…?」
「マッドハッターは情報を見えるようにしてくれたのだと思う」
「…ん? そうなると、元から備わっていたということか?」
「─うん、多分。身体が楽に動かせるようになったのはこれが…作用していたから?」
「─詳しい考察は話せなさそうか?」
「…」
コクッ─と、イノリは頷いたのを見て─俺は察する。
イノリの持ち得る情報の中では、ある程度の推測が立ったのだろう。
なら、俺は俺なりに持ち得る情報を手繰り寄せては─ある程度、確認を取れるように言葉にしてみるだけだ。
「単純に、スキルが纏められたのと同じく─更に纏められたスキルに(+1)の恩恵が重なっていたからなんだろうな? そうなると、スキルの(+1)とか─これから上げられて(+2)と増えていくとしたら、俺達は通常とは別に更に強くなれると言うことか? 本来のスキルの限界を超え、更に成長を促進させている─可能性を押し広げていると言えるのか? それを可能にする為に適正化─いや、脳の可能性をジュナは広げてくれたという事か」
「……」
イノリからの反応には肯定も否定も無かった。
だが、否定の無い反応から─あながち間違いでは無いのだろうと推測は出来た。
「そうだとしたら、確かに大量の経験値が無くなるのは理解出来るな」
寝たきり生活の時でさえ、微弱に経験値は失っていたのだ。
そもそも、意識が戻った時点で大量に減っていたのだ。
ジュナから得られたであろう余りある経験値と、俺達がジュナへと挑む前に貯め込んだ経験値は─全て脳の拡張に充てられたのが真実という訳なのだろう。
「スキルの育成を専念しないとな」
「…うん」
イノリからも、硬い意志を感じ取れた。
いや、俺も同じ気持ちだ。
託された物の大きさが分かったのだ。
ランクには可能性があった。
そして、それと同じ位─スキルにも可能性が眠っていたのだ。
ならば、それはランクと同等位に育てるべきだ。
きっと、その先の光景は俺達にとって─先へ進む為にも必要なものとなるはずなのだから。
そして翌日から、俺とイノリは─更に、多くのトランプ兵を狩る事へと、専心していくのだった。
御一読頂き、誠に有難う御座います。
宜しければ応援、ブックマーク頂けると嬉しいです。
応援は下の☆☆☆☆☆になります。




