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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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冒険者98 勢い任せの等価交換

「お言葉は嬉しいんですが⋯⋯」


「既に純一と圭さんには話を通してある。僕らはもう冒険者をするには若くないし、無理にやったところで君が辞めるなんてことにもならないだろう。それなら、僕等が出来ることで君を支えたいんだ」


 伯父は本気だ。本気で、俺の為に金を注ごうとしている。


 回収の目処なんてない。そもそも失敗して破産する可能性の方が高い。如何に伯父の資産が他の人より多くとも、それでも冒険者用のあれこれを用意すれば一気に底をつく。


 解らない人ではない筈だ。これが分の悪い賭けであることくらい。


 それでも、この伯父は俺を支援するというのか。投資を名目上のものとして、生き残る手助けをしようと思ってくれているのか。


 一体どうして、この伯父はここまで助けようと思うんだ。


 始まりから俺が同情される人間なのは解っている。けれど、日々の生活の中でそのことで気落ちする姿なんて見せた覚えがない。


 俺が過去を気にしていないなんて、少し一緒に過ごせば察せられる。


 二年近くの日々が苦しかったのを考慮に入れても、それでも伯父の善意を素直に受け取れない。いや、受け取ってはならないと理性的な部分が待ったをかけていた。


 万が一、億が一、この伯父が俺を嵌めようとしていたらどうだろう。疑う真似なんてしないと決めていたのに、そんなもしもが首をもたげて意見し始める。


 悪人が善人の皮を被るのはよくある話だ。そして、多くの人間がそんなものには引っ掛からないと言っても罠に掛かってしまう。


 今正に、自分はこの人の敷いた罠にかかろうとしているのではないか。こんななんでもない奴を罠に嵌めてなんになると思いはするものの、理由なんて後で判明することもあるだろう。


「――伯父さん。この話は慎重に進めなくてはいけません」


 自然と、自分の意識が切り替わる。


 家族の前では見せまいとした冒険者としての自分。剣のある眼差しに、伯父も顔を引き締める。


「ご支援を考えてくれたのは素直に有り難いです。実際、冒険者の活動に耐え得る装備を作るとなれば時に法外な金額が請求されます。恐らく多くの冒険者は国の補助によって平均的な装備品をローンで購入することになるでしょうが、それでどんなダンジョンも大丈夫だと言い切ることは出来ません」


「君が倒れている間にギルドで話をしてみたんだけど、素材については一部冒険者自身の持ち物にすることが許可されているね。その素材をギルド専属の製作者達に作らせた場合、役職によって支払代金の一部を追加で国が負担することが出来る」


「それでも難度の高い物を作ろうとすれば、必然的に求められる報酬も高くなります。まさかその全てを伯父さんが出すのですか?」


「君が稼いだものは君の生活を維持していく上で必要だ。僕のする支援は、具体的には明らかに君個人で支払いが難しいものに対してのみ発揮される」


「それで伯父さんにメリットはあるのですか?慈善事業をするには額が大き過ぎます」


 お互いの認識は一致している。


 現状、品質としては並の装備でも高い。入院時に色々と現状把握で調べておいたが、一つの金属製ロングブレードがミドルクラスのパソコン並の価格になっている。


 これに更に防具を追加すれば、金の無い冒険者では到底全てを一括で購入するのは難しい。


 かといってじゃあ備品として金を求めないのもギルドとしては不可能だ。


 この武器一つを作る上で、様々な企業との取引や政治家との交渉が行われている。更に自衛隊組織ではない存在が合法的に殺人を容易に想起させる物を使えるようにする為、老人も関係各所を駆けずり回った。


 今のところ、ギルドはその責任の全てを背負う形で武器を使う許可が出ている。もしも実際に製作された武器を用いて民間人の殺傷事件が起きれば、その責任は全てギルドに向かう形だ。


 故に、温い援助をギルドはできない。厳しく管理する為に、生産職は強制的にギルドの専属になることが決定されていた。


 更に武器も購入しか選択肢が無い。譲渡は許されず、あったとしても例外的なものになる。


 基本は高額な品をローンを組んで買うことになり、もしも払えなければ武器は没収されるし数カ月はダンジョンに潜る冒険者達のサポート役として馬車馬の如く働いてもらうことになる。


 冒険者になろうとする人間は多いが、その冒険者を支えようと思う人間は少ない。誰もが夢とロマンを求めるからこそ、前を向く性質が強い者の足場を固める人間が求められている。


 さて、ローンをするとはつまり、借金をすることそのものだ。


 全身に掛かる重圧と不安は回避不能で、始まった直後に借金なんておよそスタートとしては最悪の部類だろう。


 それが無い環境は、他の冒険者と比べれば一気に差をつけやすい。


 正に資本による暴力だが、冒険者でもこの世の摂理からは逃れられないのである。金のある人間が挫折するとしたら、大金を払う程の成果が出ない場合か金を出してくれた人間の条件を達成出来なかった時である。


 金は誰にとっても大事だ。だから見返りを求めずに援助する人間を聖人や神と呼ぶのだが、世の中にそんなことをやってくれる人間は殆どいない。


 居るのは常にメリットを求めてくる人間だ。これだけやるから、これだけの結果を見せてくれと望んで近付いてくる。


「メリットか⋯⋯。僕としては君が無事であることがメリットなんだけど、それじゃあ君は納得してくれないよね?」


「勿論です。支援を受けるにしては内容が簡単過ぎます」


 伯父が出してくれる金額は一万二万程度の低い金額ではない。


 何十万何百万規模の支援であり、見返りが求められなければそもそも税務署に贈与を疑われる。


 せめて金額に見合うメリットを提示してほしいのが本音だ。それがあれば、このメリットの部分を主軸として回収の話や失敗した場合の話を纏められる。


 契約として繋がるなら、せめてこれくらいはしておきたい。故に俺は考えさせ、伯父は天井に顔を向けながら暫く考え込んだ。


「父さん、母さん」


 考えてくれている間に、俺は父親と母親を呼ぶ。


 俺達二人の話に両親は一切口を挟まず、なんなら唖然とした表情でこちらを見ていたのだが、呼ばれたことではっとして佇まいを直す。


「伯父さんの話は確かに有り難いし、父さん母さんが心配してくれたのは感謝してる。でもこんなことは簡単に頷けない。特に父さんはこれの危険性が解るだろ」


「ああ⋯⋯まぁな。翔の判断は間違っちゃいない。不安に思うなら断ったって良い」


「伯父さんが何か良い提案を出してくれない限りは、この契約を結ぶのは止めるよ。それに、金で解決する冒険者ってのは嫌われやすいらしい。嫉妬されるんだとさ」


 最後のは未来情報だが、実際に金で全部を押し通ろうとする人間は嫌われる。


 大義名分があるならまだしも、基本的に資本で殴ってくる人間に碌な性根はない。そして大概、周囲の嫉妬によって破滅するのがセットになっている。


 暫く天井を見つめていた伯父は、唐突に何かを思いついたのか手を叩いた。


 表情は明るく、この案に絶対の自信があるように感じられる。この分ならと俺も期待して、伯父の話に耳を傾けた。


「それなら会社を一つ作ろう。僕の社会人生活も数年くらいだし、いい加減何かしらの肩書の一つでも持っておいた方が良い」


「会社、ですか?」


「そ。業務内容は冒険者を目指すなんてどうだい?君にはギルドに合格するまでのプロセスを考えてもらい、場所や人間は僕が用意する」


「⋯⋯」


「純一、圭さん。君達も従業員として参加しないかい?どうせなら身近な人間を集めてやってみるのも良いと思うんだ」


 伯父の提案は突発的で内容を詰めた訳ではないが、しかし悪くはない。


 大量の金を貰うなら、それ相応の仕事はするべきだ。ギルドに合格するまでの道のりを考え、複数の案を提示して練習メニューを考えてみるのも面白そうに感じる。


 それに、誰かに何かを教える経験はあればあるだけ今後の糧になるだろう。


 ただ、問題自体はある。それもかなり大きな問題だ。


「教えるにも俺は入ったばかりも同然ですよ?」


「なに、僕達が目指すのは合格さ。その後のサポートまでしようって訳じゃない。合格した人間と不合格になった人間。君ならどっちに教えてもらいたい?」


「それは勿論前者ですが――」


「――なら、これで決まりだ」


 伯父は再度手を叩き、この話を纏めにかかった。


 その勢いは強く、それはどうなんだと口を挟むのも難しい。


「僕はこれから会社の社長になる!そしてばんばんギルドの合格者を出して、もっとあの組織の奥まで食い込んでやろう!」


 力強く宣言する彼の姿は、大人と呼ぶには子供っぽかった。

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