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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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冒険者96 憧れに苦しもう

 苦笑して、なるたけ温和な雰囲気を出しながら話しかける。


 それでも相手はこちらを警戒しっぱなしだが、交流は必要不可欠であるのは本人も解っているだろう。


 暫く顔ごと右往左往しつつ、諦めたようにゆっくり近付いてきた。その様子は正に警戒心丸出しの犬で、そうまでさせてしまった事が事だけに注意する言葉は控えた。


 あくまでも友好的であることを目指すのは今回の俺だ。嘗てであれば一匹狼でも良かったが、流石に今はそれをする気にはなれない。


 オッジの件のようなことがもう一度起こらない保証は無いのだ。それならば、少しでも何かあった際の保険を増やしておくに限る。


「あはは、不躾でしたでしょうか? 随分と熱心な様子でしたので」


「あ、いえ。 ……自分、何かを好きになるってことが初めてでして」


 絞って出てきた言葉は、切実な響きを伴っていた。


 彼が冒険者になった過去は未来でも知り得ていない。有名は有名であったものの、当時の彼は短いインタビューに答えるだけでプライベートな部分はまったく見せなかった。


 彼のプライベートな部分をよく語っていたのは仲間で、それでさえも詳細を掴める程ではない。


 ただ、今の彼はアイドルの追っかけにしか見えなかった。およそ大多数からすれば薄っぺらい理由で彼はギルドの試験を受けて、そして合格したのである。


 ならば、その内にあるものは決して軽くはない筈だ。彼の過去を知れば、必然的に重さも解ってくるだろう。


「そうですか……。 それなら、その気持ちは大事にしてください。 自分も初めて人を好きになった時は浮かれに浮かれていましたから」


「そう、なんですか?」


「ええ。 自分にこんなに激しい感情があったのかって最初は思ったもんです。 それで実際に付き合い始めてみたら余計に燃え上がっちゃって。 その頃にはもう、付き合う前の自分が一体何を考えていたのかなんて思い出せもしませんでした」


「へぇ、そうなんですね……」


 最早、自分にとって咲との日々は遠い過去だ。


 胸の痛みも感じず、それどころか笑って話せるくらいのものになった。最後はよろしくないものだったが、少なくとも始まりから半ばまでは本当に俺達は燃え上がっていたのだ。


 惚気はやめろと言われたって惚気ていたし、正直他の事情よりも彼女を優先していた。


 興味のある顔で俺の話を聞いてくれる望都を見るあたり、恋愛にも興味があるのだろう。そりゃあまだ若い男だから当然だが、相手を思うと今のままでは分が悪い。


 知名度で言えば将来は解らないものの、現在では実力差が明瞭だ。百回戦って百回負けるのは目に見えている。


 それでも彼は諦めないだろう。なんとかして機会を探る筈だ。――そこまでの面倒を見るつもりはないが。


「望都さんは学校でどうでしたか?」


「僕は……そうですね。 こんなナリをしていると解ると思いますが、巷でよく見る陰キャでした」


 俺が先に色々語ったお陰か、望都も自分のことを話し始めた。


 生まれも育ちも俺と一緒の一般家庭。昔から人付き合いが苦手で、他人の気持ちが解らないことが多々あった。


 皆があれは綺麗だと言っても、自分には綺麗に思えない。


 皆があれをしようと言っても、自分はそれをしたいと思えない。


 感性にズレがあったのだろう。周りと違う反応をする己を、皆は次第に敬遠し始めた。そして、皆と自分が違うと覚ってしまった賢い頭は沈黙を選ぶ。


 黙っていれば興味関心が薄れ、おかしいとは思われない。その思考がそのまま続き、高校生になってからは余計にズレが大きくなってしまった。


 綺麗だと言われる女が居た。格好良いと言われる男が居た。


 見た目の良さはルッキズムの蔓延する世の中では最強だ。顔が良いだけで人生の難易度が下がると言われるくらいには、美醜による格差は残酷なまでに広がっている。


 その世の中で、彼は皆と違う感想を持っていた。


「変な話に聞こえるかもしれないんですが、皆同じに見えるんです。 別に同じ顔形をしている訳でもないのに、全部が全部同じ感想になるんですよ」


 彼にイケメンも美人も関係無い。


 仕事の種類も、貧富の差も、性格の良し悪しすらも全て同一。


 何故か。それを本人は何故なんでしょうかと疑問に感じていたが、俺は多分解ってしまった。


 抑圧され過ぎて歪んだのだ。頭には諦めが常に残っていて、最終的に全部手から零れ落ちてしまうのなら無いと思ってしまえば良い。


 所詮、自分は誰の記憶にも残らない人間だ。そんな人間が評価を口にするなんて、烏滸がましいにも程がある。


 故に、彼は評価をしない。評価をしようと思えない。――そして、だからこそ技能を得るに至った。


 こうまで確信めいた予測をしたのは、彼の持つ技能が技能だったからだ。


 特別な力を得るには、それ相応の理由がいる。降って湧いてくるような力なんてガワだけ強いだけのもので、根っこから強い力には本人の人生が関わっているのだ。


 俺が異世界からの転生体であるように、彼には特別な力を手に入れる理由があった。


 知ったところで本人は苦い顔をするだけだろうが、俺は彼の人生を無味乾燥としているとは思わない。


 だって彼は、歪んでいながらも間違った方向に進まなかった。楽な道を選ばず、周りとのズレに歩調を合わせて共存の道を選んでみせたのだ。


 これは並大抵の努力で出来ることではない。苦しいものを飲み込んで歩ける様は、正に男子なのではないだろうか。


「でも彼女だけは違いました。 あの輝いている人は、本当に綺麗だと思えたんです」


「ああ、榊原さんは本当に美人ですからね」


 諦めていた心が、それでもなお魅了されることを選んだ。


 歪んだ感性を強制的に元に戻してしまうくらい、榊原の姿は彼にとって理想だったのだろう。


 心から同意をすると、彼は熱いものを吐きながら己の意思を力強く語る。まるでこれまで閉口していた事実に後悔しているように。はっきりと言いたいことを語った。


「初めて見たのはテレビの生放送でした。 有名な冒険者を紹介する企画で、あの人の実績を紹介する場面だったんです。 他の人もそうだったように、黒いジャケットとズボン姿なのに光り輝いて見えて――――模擬戦の映像なんて何枚携帯で撮影したか解りません」


 最初は吃っていたのに、今では饒舌だ。


 好きなものを早口で語り、その表情は非常に楽しそうにしている。


 今正に、彼は青春を取り戻そうとしていた。それが実るかは別にして、見てこなかった普通の感情に心を踊らせているのだ。


 望都にはもう、他の女性は見えていない。まっすぐに彼女を見て、その隣に立たんと奮起した。


 純粋で、ともすれば脆さも孕んだ感情だ。もしも榊原が恋人を作れば、その心が悪感情に支配されかねない。


「僕は此処で大成するつもりです。 少なくとも、あの人の部隊に居ても見劣りしないと思われるくらいに」


「……そうですか」


 決意は固い。恋愛絡みの話はあんまり関与したくないのだが、彼のように真っ直ぐだと逆に応援したくなる。


 榊原も相応に苦労をしているし、安穏とした道を進んできた訳ではない同士として関係を育むのも悪くはないのではないだろうか。


 となれば、目指すは短期で結果を出すこと。戻る時期になっても残存するかを選べるくらいに、榊原の部隊で一等有名になってもらう。


 幸い、彼の戦闘スタイルは解っている。技能の使い方まで指導を入れていけば、もしかすれば単独で仕事をこなせる程の実力者まで一気に成長するかもしれない。


 まだこれは可能性の話。しかし、決して不可能ではない未来の話だ。


「なら、お互いに頑張りましょう。 助け合って支えるのが人間ですから」


「――――はい!」

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