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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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冒険者72 災いの闘士

「――――」


 目が開かれる。


 爆発的に感情が膨れ上がる。


 引き抜いておいたナイフを握る力が増して軋んだ。


 視界が狭まっていく。あの甲虫を撃破しただろう男に、急激に意識が集中していった。


 膨れ上がっている筋肉。上半身には何も纏わず、下半身には黒く長い袴のようなものを穿いている。腰には白布を巻き、両の手には篭手が嵌められている。


 篭手は金属質で様々な色を発していた。使い込まれた印象を覚えるそれ以外に武器らしい武器は無く、相手の得物は間違いなくこれだろう。


 知らない相手だった。少なくとも、俺も未来の俺もその姿を見た覚えは一度もない。


 にも関わらず、身体からは憎悪が湧いてきている。今直ぐにあの男を殺さねばならないと、足が動きそうになっている。


 恐ろしいのは、俺自身に止める気が薄くなっていることだ。


 普段であれば理性の働く頭が、今この瞬間には薄れてしまっていた。


 だから、相手が何事かを言おうと口を開けた刹那――片足が爆音を鳴らして飛び出す。


 全力全開。最高速度で眼前に迫り、下から上へと右手のナイフを振るう。胴体を斜めに切るつもりの一撃は、しかし直ぐに男の篭手に防御された。


「いきなりだな。 随分と手荒な挨拶だ」


 刃と金属の篭手がぶつかり合う。


 響く嫌な音は耳に入らず、ただ純粋な怒りと憎悪が肉体を支配しているのを止められない。


 片方のナイフが防御されたと認識する前に左が動く。突きの形で相手の心臓めがけて一直線に進み、それも男がこちらの左手首を掴んで阻止する。


 浅黒い肌の腕には力強さがあった。このまま掴まれた状態では骨を折られるかもしれないと、続いて足が蹴りを放つ。


 男性の急所を狙う一撃は流石の男も勘弁してほしかったのだろう。後方へと跳ね、甲虫の死骸の上へと着地する。


 金色の瞳と目が合う。濁り一つ無い静謐な金は、さながら本物の黄金を想起させられた。


「只野さん!!」


 榊原の声が後ろから聞こえる。


 だが俺は、今その声に応える気が起きない。


 心中から突如として湧き出る殺意。殺せと叫ぶそれは、自分の本音とまるで変わらない。


「マリーザ様から言われてもしやと思ったが、まさか本当にそうだったとは……。 人生とは数奇なものだな」


「ッ、!」


「お前は私を覚えているか? お前のその感情は、本当に今のお前が抱いているものか?」


「だ、まれッ!」


 男の発言の一つ一つが何故か神経を逆撫でする。


 冒険者達の前で出さないようにしていた素が表に出てしまい、それを聞いた男は泰然とした様子でこちらを見下ろしていた。


「……怒りに支配されているな。 それでは落ち着いて話も出来まい」


 息を吐かれる。


 そして軽やかな動作で死体から降りて――次の瞬間には目の前に居た。


 驚きの声を発する間もなく、拳が視界の全てを占有する。咄嗟に首を傾けて回避をしたものの、武器を振るう前に今度は反対の肘が襲い来る。


 胴体狙いの一撃を俺は大きく後ろに跳ねて回避。相手は追撃をせず、そのまま二本の足で微動だにしなかった。


 どっと汗が流れる。心臓が早鐘を打ち、怒りの他に驚愕が心に出る。


 今の一瞬、俺は相手の動きを認識することが殆ど出来なかった。辛うじて回避は出来たものの、それは相手が手加減をしてくれたからだ。


 追撃が出来たのにしなかったのも加減をしてくれていたからで、つまりそれだけの差が今は横たわっている。


「今の攻防で理解しただろう。 嘗てのお前なら兎も角、今のお前が私に勝てる道理は無い。 万が一あるとするなら――」


「誰だ」


 言葉を遮る。


 残酷な現実を前に、しかし心は絶望していない。


 何時か俺の実力が不足する事態が起きると思っていた。どれだけ足掻いたとて、俺のスペックは最高品質にはなりえない。


 他の宝石達が俺を追い抜き、お払い箱になる未来はきっと来る。それを許容していたからこそ、俺は絶望しないと思っていた。


 けれども、今はそれだけが理由ではないかもしれない。何故か解らぬ理由で抱く怒りが驚愕で少しでも薄らいでいる間に、俺は相手の素性を確認することにした。


「なんだか知り合いのように語り掛けてくるが、俺はアンタとは初対面だ」


「……ほう。 もう正気になったのか」


「答えろ。 お前は一体誰で、なんで今此処に居る?」


 今更口調を変えるなんて真似はしない。自分を取り繕うには、もう冒険者達の前で素を出してしまった。


 故に、素のままで詰問する。男は俺の様子に目を細め、腕を組んで首肯した。


「成程。 では自己紹介といこう。 ――私は異世界、エル=ラクムの戦士が一人。 オッジ・ザークリフ」


 男の名乗りに冒険者側はざわついた。


 異世界云々については新人以外の冒険者は知っている。居なかった人間も話は聞いているし、当然ながら俺も榊原も現地に居た側だ。


 最初からそうだろうなとは解っていた。姫であるマリーザの名前が出た時点で、こいつは日本人でも中国人でもないのは明らか。


 加えて単独でボスを倒せている時点で、この世界の冒険者でもない。


 隠れてこそこそ実力を磨いていたと言い訳することも可能だが、そんなに強いならダンジョンの制覇くらいはしている筈だ。


 それが今この瞬間に成された時点で、ザークリフは突然に現れたことになる。連中がダンジョン外に出れるかは不明だが、今のところはダンジョン内のみにしか転移出来ないと考えておくべきだろう。


「此度の来訪については、単純に働きに来ただけだ。 何せ今後、我々も住まうことになるのだからな。 世の為に活動するのは基本だろう?」


「――こいつ」


「今回の遭遇は偶発的なものだ。 敵対する意思は無い。 もしも望むなら、此処のダンジョンの沈静化を代わりにしてやってもいいぞ」


 ザークリフは未だ謎の残る部分を的確に説明していく。


 確かに、マリーザからはこちらの世界に定住したい旨を伝えられている。今住んでいる世界が終わりに近付き、逃げなければならないこともこちら側は把握済みだ。


 当たり前だが、彼等が住める土地はこの世界にありはしない。いきなり現れて国として住まわせてくださいだなんて、どの国家もそう易々とは認めないだろう。


 なら、成果を出して納得させれば良い。丁度良く中国は潰れかけの状態だ。そこのダンジョンを沈静化することで中国に恩を売り、自国が管理すると交渉して土地を貰えれば定住するまでの難易度はぐっと下がる。


 中国としては苦渋の決断になるが、異世界の国家とは完全にフラットな関係になれるだろう。


 互いに何も知らない同士、最初から友好な姿勢を貫けば友好国としての形を築くことも出来るかもしれない。


 エル=ラクムの軍は現在の冒険者達よりも強いだろうし、その力を借りられるのであればどの国に対しても強気の姿勢でいられる。


 一転して勝利国側になれる訳だ。現実的にそうなるかはさておき、最初の内は向こうの世界の住人も慣れる為に紳士的な接触から始めるだろう。


 ザークリフの口調には尊大なものが混ざっているが、それは己の実力を把握しているから。今この段階で誰よりも強いからこそ、支配者としてこちらに選択を突き付けている。


 マリーザ達が異世界からこちらに来ることを認めるのか、認めないのか。


 その選択次第で、ザークリフはこの場の面々を皆殺しにするのも厭わないだろう。


「――我々に、その権限はありません」


 どうするのか。


 その選択をする人間は、今この場には榊原しかいない。


 俺も他の冒険者達も、意見を言うことは出来ても命令することまでは出来ないのだ。だから、彼女の発言がこの場の俺達の総意となる。


 そして、榊原もまたザークリフの選択肢の中から選ぶ権限が無い。


 この話は最終的に、定住を認めるか否かの話に繋がる。最初の一歩で躓くようなことがあれば、俺達はとてつもない程の勢いで非難されるだろう。


 故に、安全択を選んだのは間違いではない。間違いではないが、きっと正解でもない。


「では、此処でお前達には死んでもらうとしよう。 決断の出来ない人間は邪魔ばかりするからな」

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