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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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冒険者71 見よ。ただ、見よ。

 スケルトンを倒し、新たに出現した悪臭を漂わせるゾンビも撃破した。


 骨の身体は非常に脆く、斬ろうが殴ろうが最終的に核を破壊すれば簡単に崩壊する。ゾンビも倒すだけなら簡単ではあったが、遠くにいてもやってくる強烈な腐った臭いに一部の冒険者は吐き気を覚えた。


 ゾンビの身体は腐り果て、一部骨が露出している。襤褸の布切れを身体から垂れる体液でくっつけ、辛うじてセンシティブな部分を見せないようにしていた。


 髪は揃って白い。ゾンビになってから一度も洗っていないのか汚れや肉の破片がへばりついているものの、それが無ければ完全に白いものだけになっていただろう。


 正に迷路の化物といった存在を倒していく冒険者達は順調に階層を下っている。


 しかし、小鬼等のよく見るモンスターの姿は何故か見えない。六層から七層に移動しても出て来る個体は変わらず、どうして上層の生物が居ないのかが俺には理解出来なかった。


 ダンジョンの魔力が多過ぎるからだろうか。現実として今のダンジョンは平時の状態とは言えず、異常に活性化していると断言することが出来る。


 通常よりも数が増えるのは勿論、分布が変わったりより強力な個体を優先して生産しているのであれば下層のモンスターが全て置き換わっていたとしても然程不思議ではない。


 しかし、それでは脳裏に頻繁に訪れる嫌な予感が収まる様子が無かった。どんなに己を納得させる材料を並べたとて、まるで料理初心者が如くに上手く作れるか不安を覚えるのだ。


 それは榊原も変わらない。前を行く彼女は一見すると平静を装っているが、動きが常よりもコンパクトに収まっている。


 此処が迷路だからあまり派手に動けないとしても、それでもなるべく動かない形で敵を倒しようとしていた。


 それはこの嫌な予感の正体に備えているからだろう。未だ違和感や予感止まりなのが俺だが、彼女の直感が原因があると囁いているのかもしれない。


 気付いているのは俺と彼女だけだ。他はまだ、何かがあるとは思えていない。


 今の俺にこの予感を語ることは出来ない。新人が言ったところで笑われるのが関の山だし、そもそもスケルトンが早い段階で出現している事実をどうして知っているのかと聞かれかねない。


 それにボスの討伐は絶対。この予感の原因が最下層に居るボスならば、結局解決することになる。


 単独行動をしたいところだが、今回はそれも難しい。もしも俺が単独で動くのなら、榊原や一部の冒険者以外の人間の意識が無くなっていないといけない。


 迷路の道順に変化は無かった。苔の明りの中で進んでいき、敵を倒して階段を見つける。


 罠の類も幾らか発見されたが、事前に情報を渡してあったお蔭で然程驚きはない。


 古典的な落とし穴や大岩転がし。石の礫がダンジョンの壁の罅割れから飛んできたこともあった。


 どれも冒険者を殺傷ないし負傷させるのが目的であり、穴や岩は回避して礫は武器で払い落せば無傷で進めた。


 やがて九層に辿り着き、嫌な予感がますます強くなってくる。


 スケルトンが一度に現れる数が十や二十に膨れ上がり、ゾンビが俊敏に行動するようになった。


「強くなってきた……んだよね?」


「入った直後に比べるとそうですね。 ですがまだ、私達には及びません」


 後衛は未だ仕事をせずに済んでいる。


 確かに徐々に徐々と敵は強くなってはいるも、此処まで来る段階で皆もレベルが上がっていた。


 特に前衛は最初の頃と比べると複数回レベルが上がったとの声があったので、肉体の変化は解り易く感じ取れているだろう。


 他に能力も獲得している筈だし、現在は集団であれば特に問題も無しに敵を倒せている。


 この分であれば通常のボスの討伐も問題は無いだろう。足りない部分があれば俺が補うことも出来る。魔法使い達も温存していたので全力で行使も可能だ。


 故にか、緊張感もゆっくりと抜け始めている。入った直後が直後なだけに最初は酷くこのダンジョンを警戒していたが、今では笑顔も見えた。


 心の余裕があるのは良い。けれど、それが油断や慢心に繋がってはいけない。


「――階段が見えてきました。 ここから先は気を引き締めてください」


 俺達の視線の先。最後の階段が見えた段階で榊原は口を開く。


 鋭い声には少々の怒気も籠っていた。敏感にそれを覚った者は笑顔を引っ込めて真剣な顔になり、ボス部屋が目の前にあると解った者達も意識を切り替える。


 その階段に変な部分は無い。他の階と同様、石造りの簡素な階段だ。このまま下って異空間に入っても安全圏が用意されているだろう。


 慎重に降りていけば、やはり休息に使う空間があった。


 モンスターの気配は無く、同時に俺は最悪の可能性を脳裏に描く。目を彼女に向けると、榊原も俺と同様の未来を思い描いたのか真剣な眼差しと激突した。


 ――ボス部屋に何か異常があるかもしれません。


 ――やはりそうですか。最大限に警戒をしておきます。


 視線で会話し、一度休息を取る。


 ここまで敵を倒して進んできたが、これ以降はボスとの連戦だ。


 俺も前衛を抜けてきた敵を倒している。ある程度の数を倒してダンジョンの魔力も減らしてみたものの、実際は一割二割ぐらいしか削れてはいないだろう。


 となると、ボスを連続で倒して魔力を一気に削る。周囲には邪魔者が出現する筈なので、それも確り打倒しよう。


「隊長。 一度ボスの確認をしても良いですか?」


「勿論です。 皆さんもこれは聞いておいてください」


 休息を取りながら、榊原は俺から齎されたボスの情報を口にしていく。


 中国に赴く前に事前に共有はしていたので内容は知っているものばかりだ。


 今回のボスは装甲虫と呼ばれる虫だ。見た目は完全にカブトムシだが、エメラルドに輝く馬鹿みたいに硬い甲殻を持っている。


 角は三本。体長は八メートルと長い。


 カブトムシらしく蜜が好物だが、実は雑食で人間も食うモンスターだ。


 飛行も可能であり、得意技は空中からの地面への突撃。三本の角の先端は鋭く、並大抵の防具では拮抗すら出来ずに貫かれる。


 特別な能力は無く、純粋に硬さを用いた時間勝負を強いてくる敵だ。こちらの体力切れを狙い、己の自重や角で堅実に倒す様は要塞めいた印象を覚える。


 だがその反面、内側に入り込めば刃を通すのは難しくない。炎で焼くのも正解だ。植物系もそうだが、弱点属性を突くのは単純な相手には有効になる。


「ボスとの戦いは一回では終わりません。 最大で十回は覚悟してください。 回避を第一としつつ、魔法職の者達で最初は殺します」


「最初の数回で戦士の負担を抑え、魔力が無くなったら今度は戦士が殺す……ですか。 そう上手くいきますかね?」


「いかないと思っておいた方が良いでしょう。 なので最悪は此処に避難しては回復して倒すことになります。 ――最優先は全員での任務達成ですから」


 今回の戦いで短期決戦を狙う必要は無い。


 中国としては迅速な成果が欲しいだろうが、日本がそこまでしてやる義理は無いのだ。


 時間を掛けてゆっくりやったとて構わないと老人からも指示は出ている。榊原はそこを忘れず、今居る面々の無事の帰還を狙っている訳だ。


 他の冒険者もそれは解っている。だからこそ彼女が隊長として認められているのだろうし、そうでなければこの場の雰囲気はもっと悪くなる。


 確認を終え、休息を済ませたら俺達はボスの部屋にゆっくりと降りていった。


 第十層はその全てがボス専用の部屋になっている。故に十層に降りた瞬間から、もう俺達はボスを見ることになるだろう。


 直ぐに身体が反応出来るように意識を集中させる。肉体の不調を無視して、最悪は魔法使い達を引っ張っていけるように後衛の近くにも移動した。


 そして――――俺は見る。ただっぴろい深緑の広間で、紫の血を垂れ流す巨体の姿を。


「漸く来たか」


 その巨体の前で佇む、一人の偉丈夫を。

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